41 第四皇女とどっちなの?
「まったくルイーズ様は本当に無鉄砲過ぎますわっ! ご無事だったから良かったですけれど、何かあってからでは遅いのですよ! 本当にもうっ!」
「ごめんなさい、ジネット」
「もう、あの場で待っていた私の身にもなって下さい。その上……」
竜騎士様に竜を間近で見せてもらってから、ジネットのところまで送って下さるとのご厚意を丁重にお断りした私が1人でジネットのところへ戻ると、ジネットは私の顔を見て安心したのか、その場で崩れるように座り込んでしまったの。
それを見ていた騎士様がすぐに駆けつけて下さって、そのままジネットをお城の入り口まで抱えて運んで下さったのよ。
ジネットは自分で歩けるので大丈夫だからと、必死になって抵抗していたけれど、やっぱり歩けなくて……。
入り口のところにいたお城の衛兵さんに引き渡すまでに結構な距離があったと思うのだけれど、ジネットを軽々と抱えてスタスタと歩けるのだから、やっぱり騎士様って凄いわ!
ちなみに、ジネットを運んで下さったのは、散々ぶつぶつと文句を仰っていた方の騎士様です。
そんなこんなで引き渡されたジネットを彼女の自室までどうやって運ぶかでわたわたしている間に、ザルツリンド王国の竜騎士様たちはいつの間にかいなくなっていたの。
上空から竜の「ギュウゥーー」って鳴き声が聞こえて来たので空を見上げたら、白い竜と深緑色の竜が連なって飛んで行くのが見えたわ。
あっという間に見えなくなっちゃったけど。
「竜のすぐ目の前でルイーズ様の被っておられた布が風に煽られて外れてしまって、ルイーズ様の金色の髪の毛が露わになった時には、そのまま竜に噛みつかれるのではないかと……。本当に心臓が止まってしまうかと思いましたよ」
「ふふふ。止まらなくて良かったわね」
実際には布は風で飛ばされたのではなくて、騎士様が私の頭から外したところにタイミングよく風が吹いて舞い上がったのだけれど……。言わない方が良いわね、これは。
ジネットはしばらくすると落ち着きを取り戻したようで、結局は自分の足で歩いて、一緒に私の部屋まで戻って来たのよ。
「私が歩けなくなってしまったせいで、あんなに大騒ぎになってしまいましたから、きっと陛下の耳にもルイーズ様が竜を見に行ったことが伝わってしまいましたよね……。内緒にする筈でしたのに、申し訳ありません」
「それは良いのよ。私はお父様から『竜を見に行っては駄目だ!』とは言われていなかったし、怒られるとしたら、警備の人から『立ち入り禁止です!』って言われたのに、その警告を私が聞かなかったことだけよ」
ジネットの心配を他所に、その日はいくら待ってもお父様からの呼び出しはなかったわ。
お母様からも、延期になった採寸の日程は知らされなかったし……。もしかすると、本当にまた何かあったのかしら?
でも、竜騎士様たちに緊迫した感じはなかったから、うーん、何かしらね?
「そうだわ、ジネット。騎士様から教えて頂いたのだけれど、竜って果物とか野菜が大好きなのですって! 意外よね。もちろんお肉も食べるそうよ」
「果物や野菜も?」
「そうなの! 前もって知っていれば、“ルイーズ畑” の収穫物を食べさせてあげられたのに。残念だわ」
「あんな最高品質の物を竜の餌にするおつもりですか? もったいないですよ」
「だって、食べさせてみたいじゃない。また飛んで来てくれないかしら……」
◇ ◇ ◇
翌週。すっかり忘れた頃に、私はお父様に呼び出されたわ。
あの騒ぎからはちょっと時間が経ち過ぎているし、きっと竜を見に行った件ではないでしょう。
数日前にジネットに確認してきてもらったけど、あの警備の人は変わらずお城で働き続けているようだし、私を通したことで処罰はされてはいないみたい。
「お父様、ルイーズです」
「おお、ルイーズ。急に呼び出して悪いな。そこに座って待っていてくれるか? 全員揃ってから話すから」
「今から来るのは、ジョルジュですか?」
「いや。今回はジョルジュはここへは呼んではおらんぞ。まさか、またジョルジュと一緒に何かやらかしたのか?」
「いいえ。特には。……たぶん?」
そんな話をしていると、お祖父様とお母様が執務室に入っていらしたの。
ソファーに用意されたお茶は4人分。
これで全員ってことよね?
「先週のことなんだが、ザルツリンド王国から使者が来たことはルイーズも知っているな?」
「……はい」
「ルイーズは竜を見に行ったそうだな。どうじゃった? 竜はデカイじゃろ?」
「父上、今はその話は」
「おお。すまん、すまん。続けてくれ」
「使者は、ザルツリンド国王からの親書を携えて来たのだ」
「親書ですか?」
どうやら、私以外の3人は、その親書の内容を知っているみたいね。
それよりも気になるのは、お母様がずっと下を向いて黙り込んでいることよ。
「その親書に書かれていた内容なんだが……。ザルツリンド王国の第二王子ハインリッヒ・フォン・ザルツリンドの婚約者として、我がグルノー皇国の第三皇女ルイーズ・ドゥ・グルノーを是非とも貰い受けたいと書かれている」
「ルイーズ・ドゥ・グルノー? えっ。私ですか?」
ん? ちょっと待って、お父様は今、ルイーズ・ドゥ・グルノーの前に何て仰った? 第三皇女? そうよ、確かに第四皇女ではなくて、第三皇女って仰ったわ!
「お父様。それって、本当に私のことですか? もしかして、ヘンリエッタお姉様のことなのでは?」
「分からん」
「えっ?」
「親書には第三皇女のルイーズ・ドゥ・グルノーと書いてあるのだ……」
「……それって、どっちのことでしょうか?」
「……分からんのだ」
えーーー。分からないじゃ困りますよね? とっても重要なことですよ?
ザルツリンド王国が望んでいるのは、私なの? それともヘンリエッタお姉様?
普通に考えたら、他所の国が欲しがるのは、同じ皇女なら “唯の皇女” よりも “聖女な皇女” よね?
ヘンリエッタお姉様が参加した聖女派遣団がルルーファ王国で魔獣の群れに襲われた時、ザルツリンド王国の竜騎士様たちに救出されているわけでしょ?
その時は、ヘンリエッタお姉様がその派遣団の中に居たことを竜騎士様たちは知らなかったみたいだけれど、後になって気付けば、後々恩が売れるとザルツリンド王国の王様が考えても不思議じゃないわよね。
リスカリス王国の王弟殿下のところに、グルノー皇国の先王の娘であり、現皇王の妹であり、元聖女様でもあるグレーテ様が嫁いでいることは、この大陸の7王族の関係者だったら知らない人なんていないでしょう?
例え聖女引退後とはいえ、グレーテ様が他国に嫁いだのなら、現役の聖女様だって、もしかしたら王家の嫁としてなら引き抜ける可能性もあるのでは? と他国が考えることだって……あるのかしら?
「あのぉ、お父様。このことはヘンリエッタお姉様もご存知なのでしょうか?」
「ヘンリエッタか……。まだ知らんと思うぞ」
「思う、とは?」
「聖教会の大司教を通じて連絡を取ろうと思ったのだが、生憎ヘンリエッタはまた地方巡回に出ているらしくてな」
「そうでしたか……」
聞くところによると、ヘンリエッタお姉様は、最近ほとんど皇都レンファスに居ないそうなのよ。
余程の高位貴族でもない限り、癒しを受けるためには聖教会へ足を運ぶ必要があるのだけれど、全ての町や村にまで聖教会があるわけではないわ。
特に地方の小さな町や村には教会はないから、近くの教会のある町へ出向くか、時々巡回に来る訪問団を待つしかないのよ。
巡回の訪問団は、聖女様たち数人がグループになって聖教会のない地方都市を移動しているそうなの。ヘンリエッタお姉様は頻繁にその巡回に加わっているらしくて……。
「いくら聖女は身分の上下を問わないとは言え、皇女でもあるヘンリエッタが、何もわざわざ地方を巡らなくとも……」
お祖父様が不満気にボソリと呟く声が聞こえたわ。
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