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37 従兄弟殿と第四皇女。

「はあ、疲れた……。流石に一日中この笑顔をぴったりと顔に貼り付け続けておくのはキツイな」



今日は本当に長い長い一日だ。

従兄弟であり、親友でもあるこの国の第一皇子、ラファエル・ドゥ・グルノー殿下の “結婚の儀” に始まり、レンファス市民たちが待ち構える城下に向けてのパレードの馬車を送り出し、着替えをして、晩餐会に参加、最後は祝いの舞踏会。


その間、レーヌ公爵家と縁を結びたいと考えているご令嬢方と、その両親からの猛アピールを、決して笑顔を絶やさず華麗に切り抜けた。

まだ未婚、且つ婚約者の居ない公爵家の嫡男としては当然の責務なのかもしれないが、はっきり言って、まだ僕は結婚する気など無いからね。



ああ、自己紹介するのを忘れていたね。

僕はローレンス・レーヌ。一応グルノー皇国の五大公爵家の1つとされている、レーヌ公爵家の長男だよ。


現レーヌ公爵である僕の父親は、本日めでたく “結婚の儀” を終えたばかりのラファエル・ドゥ・グルノー殿下の母上、ジャンヌ皇后陛下の兄に当たる。

そんな関係だから、同じ年に生まれた僕とラファエル第一皇子は、小さい頃から共に過ごすことが多かったんだ。


共に学び、共に遊び、共に叱られる。僕たちはそんな仲だよ。

ハーランド王国の王立学院にも一緒に留学したしね。



正直言って、僕はラファエルがこんなに早く身を固めるとは思っていなかったよ。


ラファエルにとってアマリア嬢は幼い時分からの初恋の相手。

巷では「初恋は実らない!」って言うらしいけど、実際、アマリア嬢は6歳の属性検査で光属性だと判明したため聖女候補として聖教会で暮らすことになった。

それってつまり、かなりの確率で、アマリア嬢はずっと聖教会に囚われるってことなんだよね。

ラファエルがアマリア嬢と結ばれる日はまず来ないだろうと、誰もがそう思っていたと思う。もちろんラファエル本人もね。


ところが、アマリア嬢が15歳になっても、聖女の癒しの力は発現しなかった。

それが不幸なのか幸いなのか、判断は分かれるところだろうけど、2人にとってはこれ以上無いと言って良いほどの幸運だったみたいだね。

ハーランド王国留学中にその知らせを受け取ったラファエルの破顔したあのニヤけ顔を、皆にも見せたいくらいだよ。



そのラファエルが、めでたくも結婚したアマリア嬢以上に溺愛しているのが、1番下の妹、第四皇女のルイーズ・ドゥ・グルノー妃殿下なのだと思う。

あのシスコン振りは尋常じゃない。


まあ、ちびっ子ルイーズが、実際凄く可愛らしいってことは僕も認めるよ。

僕が初めてルイーズに会ったのは、まだ彼女が生まれて3ヶ月も経っていなかった頃だと思う。だから “会った” と言うよりは “見た” って方が正確だね。


王妃様に抱かれた小さな赤ん坊は、色白で、まだ短いふわふわした金色の髪が印象的な、まるで絵画から抜け出た天使のような子だった。

王妃様に許可を頂いたのでそっと覗き込んだら、その赤ん坊は、ぷっくらと柔らかそうな小さな手を一生懸命僕に向かって伸ばしてきた。思わず僕もつられて手を差し出したんだ。

そうしたら、小さなその手が僕の指を掴んで……。思いの外、力が強くて驚いた。

誰にも言ったことはないけれど、あの衝撃は忘れられない。たぶんあれが僕の初恋なのだと思う。

もちろん今後も誰にも言う気はないけどね。



そんなルイーズも社交デビューを果たし、最近は舞踏会にも姿を見せるようになった。

相変わらず背は小さくて、子どもっぽい感じは抜けていないけれど、それがまた愛らしさに拍車をかけているのだと思う。

ラファエルの “結婚の儀” に間に合うようにと一応は社交デビューさせたものの、皇王陛下はルイーズをすぐに手放す気は全く無いようで、どんな高位貴族の令息であっても、今のところルイーズに近付くのは難しいだろうな。

大抵はルイーズの周りを兄のラファエル、弟のジョルジュ、先王アルフォンス様、それから皇王陛下自らがガッチリとガードを固めているのだから。


どうやら陛下は、ルイーズの従兄弟である僕のことも()()()()1()()と考えているらしい。

今日の晩餐会ではルイーズの正面の席に座ることを許されたし、今までに何度かルイーズが参加した舞踏会でも、彼女とダンスをする栄誉を僕は得ている。

まあしばらくは陛下の意を汲んで、頼れるガード役に徹しよう。

ルイーズも僕同様、まだ結婚する気なんて、さらさらなさそうだからね。



そう言えば、ハーランド王国へ留学した際にラファエルと僕がルイーズから持たされた大量のポーション。

あれはルイーズが先王様から頂いた本を参考にして作った()()()みたいな物だと、そうラファエルが言っていたが……。あのポーションの効果は目を疑う程だったと後にハーランドの友人から聞いた。

ラファエルがその友人から頼まれて、(くだん)のポーションを輸出しようと試みたが、それを皇王陛下は良しとしなかった。

つまりは、それ程の効果を発揮する、いや、発揮してしまうかもしれないポーションだったということだ。



第四皇女のルイーズが “緑の手” の持ち主であることはこの国では有名な話で、その力を活用することで、農業分野ではかなりの貢献をしていると聞く。

ポーションとしてではなく、乾燥させた薬草に形は変えたが、結果的にはラファエルが陛下に進言した「他国へ輸出する」という流れは現実のものとなった。

陛下はルイーズが “緑の手” で作り上げた薬草の種を、それまで特に目立った産物もなく厳しい暮らしを強いられて来た村々に配った。

それらの種はどういう仕組みなのか詳しいことは分からないのだが、非常に成長が早く、痩せた土地でも非常に良質な薬草の収穫を可能にした。

薬草の栽培を始めたことで、それらの村の生活水準は劇的に向上したらしい。



そう言えば最近、とりわけ高位貴族のご婦人たちの間で、良質なハンドクリームや香水が話題になっている。

そのハンドクリームを僕の姉たちも使用しているのだが、姉たちの話では、肌の荒れを改善するだけでなく塗り心地も香りも非常に良いらしい。

気になって調べてみたのだが、それらの商品を扱っている商会は今まで聞いたこともない名前の新参の商会だった。そして何故か、最近立ち上げられたばかりの商会の割に不自然なくらいあっという間に高位貴族のご婦人たちの間に浸透しているのだ。

更にその商会について調べていくと、ラファエルとジョルジュの皇子兄弟が絡んでいるらしいことが判明した。

そうであれば、それらの商品の開発をしているのはルイーズで間違いないだろう。


陛下は、既に “緑の手” の持ち主として広く知られているルイーズの名が、これ以上大きくなることを望んではいないようだ。

ルイーズが()()()()()()()()()()()と判断されるのを恐れているのだろうと僕は思っている。

実際、薬草にしても、新しい商会で扱い始めた商品にしても、ルイーズのちょっとした好奇心から始まった研究から作り出される品々が大金を生んでいるのは事実のようだし、陛下の心配は強ち的外れとも言えないだろう。



当のルイーズ本人は、先王アルフォンス様が用意してくれた研究室で、興味の赴くままに楽しく研究をしているだけのようだから……それはそれでタチが悪い。

まあ、今のところ大好きな読書と楽しい研究以外あまり興味も無いようだし、陛下としてもルイーズにすぐに婚約者をあてがうつもりは無いようなので、僕としてはこのままガード役を続けるのが最善なのかな?



「ああ、ローレンス、探したよ! こんなところに隠れていたのか」

「やあ、カルミン。別に隠れていたわけではないよ。少し酔いを冷まそうかと思ったのさ」

「ほとんど飲んでなどいないだろう? 大方、群がるご令嬢方と、その親たちから逃げてきたんじゃないのか?」

「ははは。まさか!」

「まあ、良いけどね」

「さてと。君に見つかってしまった以上、このままバルコニーに留まるわけにもいかないな。そろそろ公爵家の跡取り息子としての責務を果たすべく、ダンスフロアに戻るとしますか!」

「ああ、そうした方が良い。僕も君に居てもらわないと、いろいろと差し障りがあるしね」

「なんだ、つまりは君も僕と同じで、あそこから逃げてきたってことだね?」

「あー。まあね。お互い嫡男は大変だってことだよ」

「ああ、違いない!」

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