34 第四皇女とお兄様おめでとう!
「おめでとうございます!」
「ラファエル皇子!」
「アマリア様!」
「どうか末永くお幸せにー!」
本日。皇都レンファスにあるお城の聖堂に於いて、グルノー皇国第一皇子のラファエルお兄様とシャーリー公爵家のアマリア様との “結婚の儀” が執り行われました。
そしてたった今、幸せいっぱいの笑顔を浮かべたお二人を乗せた馬車が、レンファス城下に向けて走り出したところです。
お二人が乗ったのは屋根のない4頭立ての馬車です。
とても凛々しい正装のラファエルお兄様と、その横に美しいドレス姿のアマリア様が並んで座られています。
今頃はきっと、幸せそうな笑顔を浮かべて、お祝いのために揃って沿道に集まってくれた人たちに手を振っていることでしょう。
余談ですが、この時期のレンファスは花の季節なのですよ。
このお城の中もそうですが、街中が美しく咲き誇る花々で溢れています。
お城のお庭は大勢の庭師が丹精込めて世話をしている薔薇が見頃ですが、街中は……そうね、ウィステリアかしら。
家の軒先や、壁に気の向くまま(←樹の向くままかも?)に這わせるように植えられた薄紫色の花がとても綺麗な時期です。おすすめですよ。
ああ、でも……。
もしかすると馬車に揺られる幸せなお二人を一目見ようと、沿道には大勢の人が出ているでしょうから、お花をのんびりと眺めて歩く雰囲気ではないかもしれませんね。
まあ、今日はお花よりも、ラファエルお兄様とその花嫁を見たい人の方が多いかしら。
普段は聖教会とは良好な間柄とは言えないお父様ですが、こんな日ばかりはそうも言っていられません。
グリノー皇国の皇太子の “結婚の儀” です。
お城にある聖堂に正教会の大司教様と数名の司教様方がお見えになって、盛大に、かつ厳粛に “結婚の儀” が執り行われました。
ラファエルお兄様にとっては伯母上であり筆頭大聖女である白の大聖女マリアンヌ様、姉上であり第一皇女のクロエお姉様、妹で聖女のヘンリエッタお姉様の三人も揃っておられました。
ただし、家族のお席にではなく、正教会の関係者のお席にお座りでしたが……。
その儀式なのですが……。
あまりにも盛大で厳粛だったので、途中からちょっとだけ眠くなってしまいました。
でもね。眠くなったのは、絶対に私だけではないと思います!
ちょっと大司教様のお話が長くて、ちょっと何を仰りたいのかが分かり難かったのですもの。お話は明瞭に! かつ簡潔に! が良いと思うのです。
「ルイーズ様。そろそろ晩餐会の会場の方へ移動するお時間ですよ。晩餐会の後は、お着替えをなさってから、すぐに大広間で舞踏会です」
「ねえ、ジネット」
「なんでしょう?」
「適当に2、3曲踊ったら、お部屋に戻っても良いと思う?」
「ルイーズ様。私が『良い』と言うとでもお思いですか?」
「……思っていないわ」
はぁ、気が重い。
今日はずっと身内とばかり踊っているわけにもいかなさそうだし……。
今日は新郎のラファエルお兄様にダンスのお相手をお願いするわけにはいかないので、最初は弟のジョルジュと1曲。
それから従兄弟のローレンス・レーヌ様を探して、もう1曲。
後は? うーん。まぁ、どうにかなるでしょう。
取り敢えず舞踏会の前に、晩餐会だわ!
お肉を使ったお料理は?
ああ、絶対ダメ! だってだって、今日の晩餐会には大司教様も招待されているんだもの。どう考えたって絶対にお肉は無いわよ。
そもそも、大司教様が列席されていなかったとしても、お城の正餐会や晩餐会でお肉を使ったお料理が出ることなどあり得ないのだけれど。
でもね、想像してみるくらいなら許されるでしょ?
そうね、例えば……。オークの串肉とか? 邪竜のステーキなんてどうかしら?
くふっ。良いかも♪
「ルイーズ様。いつまでも良からぬことを妄想などしていないで、そろそろ会場へ向かった方が宜しいかと私は思いますが?」
「えっ? ああ、そうね、そうよね。じゃあ、行きましょうか」
どうしてかジネットは、私の心の中までお見通しのようです。とほほ。
◇ ◇ ◇
「あら? お姉様たちのお席は……何処なのかしら? ねえ、ジョルジュ。貴方、知っていて?」
「姉上ですか? 姉上でしたら向こう側の……。ほら、あそこに! ヘンリー殿のお隣にちゃんとお座りですよ!」
「ん? ああ、違うわよ! アデルお姉様の事ではなくて、クロエお姉様とヘンリエッタお姉様のことよ! お二人とも “結婚の儀” には参列されていたのに……。何処にお座りになられているのかしら?」
「お二人でしたら、既に聖教会へお帰りになりましたよ」
「えっ?」
ジョルジュの話によれば、結婚の儀が無事に終了して、ラファエルお兄様とアマリア様を乗せた馬車がお披露目のためにレンファスの城下へ出発した後、お二人はお父様とお母様にご挨拶をしてから聖教会へと戻られたそうなの。
私が晩餐会用のドレスに着替えをしている間に。
私の席の右横は弟のジョルジュ、左横はお祖父様。
乾杯を終えたばかりの今、会場内では多くの招待客が食事をしながら、和やかに近くの席の人同士でお喋りを楽しんでいるわ。
お祖父様は、向こう側のお祖母様と楽しそうに話し込んでいるので、私とジョルジュの話は耳に入っていないみたい。
「お帰りになったの? ラファエルお兄様のお祝いの晩餐会なのに?」
「ええ。聖教会関係者で晩餐会に残られたのは、大司教様とマリアンヌ筆頭大聖女様。それから司教様が数名ですよ。ほら、あちらの席に」
そう言って目配せしたジョルジュの視線の先に、確かに聖教会の関係者がまとまって座っているテーブルがある。
お式の時にも思ったけれど、聖女という立場は、家族よりも優先されるもののようね……。
「こういった場に聖女が出席することで、誰かに見染められた聖女が『引退したい』と言い出すのを防ぎたい思惑もあるのだと、僕は思うよ」
そう言ったのは、私の正面のお席に座られているローレンス様です。
あらら。ローレンス様って、案外地獄耳でいらっしゃるのね。
「僕もローレンス兄様と同意見です!」
「えっ?」
「だって、そうでしょ? クロエ姉様とヘンリエッタ姉様は皇王家の一員! なのに聖堂では家族席に居ないし、晩餐会にも参加させない。明らかに聖教会はお二人を皇王家から遠避ける意図を持っているとしか思えませんよ!」
「ジョルジュ。いくら周りが騒がしくても、この手の話をする時は、もうだけ少し声を抑えた方が良い」
「……はい」
1年前に起きたルルーファ王国での騒動以降、帰国後に「引退をしたい」と言い出した聖女様が数名出た話は以前したと思うのだけれど、ローレンス様によれば、その方たちの多くはその後ご結婚されているらしいの。
聖女の力を持ったままで。
これは、聖教会にとってはやっぱり由々しき事態みたい。
聖女様が年齢を重ね、その力を失ってから引退される場合は、その方はもう聖女ではなくて普通の人よね。だから聖教会もとやかく言わない。
でも、聖女の力があるにも関わらず、聖教会から去るのはどうかしら?
もしも引退した聖女がその力を奮えば、聖教会だけが持つ聖女の癒しを、聖教会とは関係ないところで受けられることになる。
大問題だよね、とローレンス様は微妙な表情を浮かべながら仰った。
「それって、大問題かしら? 便利で良いですよね?」
「そうだね。でも、聖教会にとってはそれでは都合が悪いんだよ……。ましてそれが貴族の娘だったり、皇女となれば尚更ね」
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