33 第四皇女と初めての舞踏会。
「では、行こうか」
いよいよファーストダンスが始まります。
社交デビューを祝う今回のような舞踏会の場合、ファーストダンスのフロアに出られるのは、デビューをする令嬢とそのエスコートを務める殿方だけなの。
エスコートを務めるのは、婚約者がいる令嬢の場合はもちろん婚約者ね。いない場合は父親だったり、兄弟とか従兄弟とかが多いらしいわ。
私の場合は、まさか皇王家主催の舞踏会で皇王陛下であるお父様にエスコート役をお願いするわけにはいかないので、ラファエルお兄様にお願いしました。
小さい頃から耳に馴染みのある曲が流れ始めます。
社交ダンスのレッスンは兄弟姉妹全員が小さい頃から受けているし、ラファエルお兄様や弟のジョルジュをパートナーに踊っているので、曲のリズムに合わせて自然と身体が動きます。
「ふんふんふん♪ ふ〜ん♪ ふ、ふ〜ん♪」
「ルイーズ。ご機嫌のようだね」
「えっ。そうでしょうか?」
「だって、鼻歌を歌っているよ。もしかして、無意識だった?」
「まあ!」
あらら、やってしまいました!
ラファエルお兄様はダンスのリードがとてもお上手なのです。だから、お兄様と踊るときはいつもこんな風につい楽しくなってしまうのです。
「この後はどうするんだい? 次のダンスの相手は、もう決まっているのかな?」
「いいえ。ねえ、お兄様。私は、後何曲くらい踊れば良いのでしょうか?」
「そうだね……。まあ、せめてそのカードの半分くらいは埋めた方が良いとは思うけどね」
えっ。半分くらいは埋めた方が良い?
大広間に入る前に受け取った今日のダンスカードに書かれていた曲は確か24曲だったような……。その半分? 12曲? 後11曲も踊るの? それはちょっと……。どう考えても無理です!
「今日は一生に一度の特別な日なのだから、笑顔を絶やさず、頑張ってね!」
「は、はい……」
2曲目はアルフォンスお祖父様と、3曲目は従兄弟のローレンス・レーヌ様と踊ってから、少し休憩を挟みます。
大広間の隅には、数脚の椅子が所々に用意されていて、ダンスをしないご婦人方がそこで軽食を頂いたり、お喋りに花を咲かせたり、他の令嬢のドレスや持ち物の品定めをしたりしています。
あっ、お母様とお祖母様と、アデルお姉様発見!
「まあ、ルイーズ。いつも可愛いと思っていたけど、今日はいつも以上にとっても可愛いらしいわ! デビュタントのドレスも凄く良く似合っているわよ」
「ありがとうございます、お母様」
「本当に良く似合っているわ。それにしても、貴女、あんなに振り回されて目が回ったのではない? ここから見ていて、本当にハラハラしたわよ!」
「ドキドキでしたが、なんとかギリギリ大丈夫でしたわ。ご心配ありがとうございます、お祖母様」
「それなら良かったけど……。後でアルフォンス様には私からキツく言っておきますからね!」
そう言いながら、セシリアお祖母様は両手で私の頬を包み込んだ。
お祖母様をハラハラさせて、私をドキドキさせた犯人はお祖父様。
背のとてもお高いお祖父様と、そうでもない私では身長差がありすぎて、本来、ダンスのパートナーとしては適さないのよ。
それでもお祖父様はどうしても私と踊ると仰って、ラファエルお兄様とのファーストダンスを終えたばかりの私のダンスカードにご自分の名前を書き込まれたの。
クルクル、クルクル。
ダンスというよりはむしろ、お祖父様が私を抱えるようにしてお一人で回転していた、と言う方が正しいと思うわ。
曲が終わった時には、ちょっとクラクラしてよろけてしまった私を、近くで他のご令嬢と踊り終えたばかりのローレンス様が手を差し伸べて助けて下さり、そのまま3曲目が始まって終わって、今に至るわけ。
「そう言えば、そのローレンスはどこへ?」
「ほら、あそこですわ、お母様」
既にローレンス様は、別のご令嬢とフロアの真ん中で楽しそうに踊っています。
私たちの従兄弟で、ラファエルお兄様の親友でもあるローレンス様は、お母様のご実家のレーヌ公爵家のご長男。ラファエルお兄様のハーランド王国への留学にも同行するような、王家とはとても親密な間柄。
公爵家のご長男で、皇太子の一番の親友で、見目もまあまあ麗しく(←ラファエルお兄様よりはもちろん落ちますけどね)女性の扱いもスマート。
そんなハイスペックのローレンス様と踊りたいと密かに思っていらっしゃるご令嬢は、今日のこの大広間の中だけでもかなり多いと思うわ。
実際のローレンス様ご本人は……。
私のことを相変わらず『おチビちゃん』と呼ぶのよ!
『ちびっ子ルイーズ』と呼んでいた時よりは、まあマシなのだけれどね。
「ルイーズ。貴女のダンスカードをちょっと見せて頂戴。あらあら、どうしましょう。真っ白じゃないの!」
「まあ、本当だわ!」
お祖母様とお母様は、互いの顔を見合わせて困惑した表情を浮かべている。
私、ダンスは嫌いではないけれど、知らない男性と踊るのはちょっと……。
それよりは、久しぶりにお会いできたアデルお姉様とお喋りをしたいわ!
「駄目よ、ルイーズ。今日は貴女のお披露目も兼ねているのですからね!」
「そうそう。ほら、ご覧なさい。私の可愛いルイーズと踊りたいと声をかけるタイミングを見計らっている坊やたちがあんなに沢山!」
お祖母様の扇子の先には、確かに数人の男性たち。時折こちらの方をチラチラ見ながら立ち話をしています。
でも、近くには私以外に何人も同じように座って休憩をしているご令嬢が沢山居るのだし、別に特に私だけを見ているわけではないと思うわよ。
「そうね、えーと。ああ、彼なら良いわね!」
お祖母様はそう仰ると、近くに控えていた侍従の耳元に何か声をかけたの。
楽師たちの奏でる美しい演奏と、周りの人たちの賑やかな話し声。
それに、お祖母様は扇子で口元を隠されていたので、お祖母様が何を話していたのか、私には全然聞きとれなかったわ。
でもすぐに想像はついたわよ。だって侍従は、一人の男性を目指して一直線に歩いて行ったから。
「ルイーズ様。私と一曲踊って頂くことをお許し願えますか?」
「ええと……」
「ミカエル・ルグナンと申します」
ミカエル・ルグナンと名乗ったその男の人のことを私は知りません。
と言っても、私は今日がデビューで、普段は研究室かお庭でかなりの時間を過ごしているので、顔と名前の両方を知っている男の人なんて殆どいないのだけれどね。
「ミカエルは騎士団長の息子さんよ。今はラファエルの護衛騎士よね?」
「はい」
「ほら、ルイーズ。次の曲が始まってしまうわよ。ホールに戻りなさいな」
「ですが……」
「大丈夫よ。ミカエル、ルイーズのことをお願いするわね。ルイーズはしばらくの間ダンスを楽しんでいらっしゃい。次のお相手はミカエルがちゃんと選んでくれるわよ」
「ええ、お任せ下さい」
えーと。次の相手は、って……。
「ルイーズ様、参りましょう」
私は諦めて、ミカエル様の腕を取ったわ。しばらくはダンスタイムから逃れられそうもないわね。
折角アデルお姉様と楽しくお喋りしようと思っていたのに!
踊りながらお聞きしたのだけれど、ミカエル様はラファエルお兄様やローレンス様よりも2歳上なのですって。
ミカエル様も過去に留学の経験があるらしいわ。
「留学と言っても、ラファエル殿下のように知識を得るためではないのです。私の場合は、騎士として技を磨くための修行のようなものですよ」
「どちらへ行かれたのですか? やはりハーランド王国へ?」
「いいえ。ザルツリンド王国です」
「まあ、ザルツリンドって、竜国のことですよね?」
「はい。ルイーズ様は竜国をご存知でしたか」
「ええ。前にこのお城に竜国の方がいらしていたのを見かけたことがあります。竜の側にいた竜国の方は良く見えなかったのだけれど、人混みの向こうに4頭の竜が見えて、その中にとても綺麗な白い竜がいたのを覚えているわ」
「白い竜。ですか……」
曲が終わり、ミカエル様は次のダンスのパートナーとして、一緒に竜国へ “修行留学” に出たご友人を選んで下さったわ。
私はそのまま3曲分、パートナーを変えながらダンスを楽しみました。
とは言っても、実際に私が楽しんだのはダンスよりも、ザルツリンド王国にいる竜や、竜国での騎士様たちの冒険のお話だったかも。ふふ。
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GW中は多忙につき更新をお休みします。次話は5月8日(月)にup予定です。
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