31 第四皇女とハンドクリーム。
私と弟のジョルジュがお父様から呼び出された理由は、私が手荒れの酷いメラニーのために作ったハンドクリームを、ジョルジュがお母様のお知り合いのご婦人方に売り捌いていたせいでした。
「最初は、姉上がそのハンドクリームを料理人のメラニーに渡しているのを見て、その後でメラニーの手にあったヒビ割れがあっという間に改善したのを知って、これは凄い! と確信したんです」
「えっ。ジョルジュったらいつの間に調理場に顔を出すようになったの?」
「だって、あそこへ行けば美味しいお菓子に巡り会えますからね!」
「そうでしょう。メラニーは本当に凄いのよ! いつだって最高のお菓子を作ってくれるんだから!」
「ですよね!」
「ジョルジュ! ルイーズ!」
「「は、はい。申し訳ありません!」」
ジョルジュったら、メラニーのところへ顔を出しては、私に黙ってお菓子をせしめていたみたい。
油断も隙も無いわね!
って、今はこんな話をしている場合では無かったみたい。
お父様は、すっごくお怒りになっているお顔をされてこっちを睨んでいました。てへへ。
「それから、姉上といつも一緒に居る侍女のジネットの手が、なんだか他の侍女たちの手よりもすべすべしていることに、僕は気付いたのです!」
「ジョルジュ。貴方、なかなか良く見ているじゃないの! そうなの。ジネットにもそう言われたわ」
「ルイーズ。悪いがしばらく黙っていて貰えると非常に助かるのだが?」
お父様はなんとも微妙な表情を浮かべて私にそう仰ったわ。
それから、また厳しい表情に戻って、お父様はジョルジュの方に再度向き直ったの。
「最初は、そのハンドクリームを姉上にお願いして少しだけ分けて頂いて、まずはそれを母上に差し上げました! 母上の手がすべすべになったら母上も喜ばれるだろうと思ったので」
「あら、そうだったの?」
「はい。母上はすぐにハンドクリームを試して肌がしっとりすべすべになるし、とても良い香りがするとお喜びでしたよ」
「まあ! それは良かったわね!」
「はい、そうなんです! それでその後、母上は是非ご友人方にもそのハンドクリームを差し上げたいと僕に仰って……」
「ああ、それであんなにいくつも持っていったのね?」
「……はい、そうです」
なるほどね。どうしてあんなに必要なのかと思っていたら、そういうことだったの。
そうよね。私、ジョルジュが全身にハンドクリームを塗りたくっているのかと思って、ちょっと心配していたのよ。
そうでないことが分かって安心したわ。
だってあれ、一応ハンドクリームだし、全身の皮膚に塗っても平気かどうかは分からないじゃない?
「ルイーズ。しばらく黙っていてくれる約束ではなかったかな?」
「ええと……。そうでしたね」
「まあ、良い。それで、ジョルジュ。お前は何故、そのハンドクリームはルイーズが作った物だと、ジャンヌにそう正直に伝えなかったのだ?」
あらら。そうなの?
ジョルジュはお母様に私が作った物だと言っていないのね?
「えっと……。その……」
「はっきり理由を言ってみろ!」
「姉上が作った物だと知られれば、母上のご友人方からハンドクリームの代金を頂けないではないですか!」
「どういうことだ?」
そうよ、そうよ! 代金? どういうことなの?
私にはジョルジュの言いたいことがさっぱり理解できないわ。
「もし母上がハンドクリームを作ったのが姉上だと知れば、母上は好きなだけ姉上からハンドクリームを手に入れて、それをご自分でご友人方にお配りになってしまいます」
「まあ、そうだろうな」
「父上、それでは駄目なのです!」
「何が駄目なのだ?」
「あのハンドクリームは素晴らしい! お金を取れる質の高さの品物なんです。いや、むしろ “お金を取るべき商品” ですよ!」
ジョルジュは父上を相手に熱く語り出した。
「姉上が作ったハンドクリームは、世間一般に広く出回っている物よりもずっと高品質だと母上は仰いました。だとしたら、それを無料で配ってしまうのは間違っていると僕は思うのです」
「ふむ」
「価値のある物ならば、それにきちんと見合った適正な値段で売るべきなのです!」
「ふむふむ」
「……。です」
「だからお前は、ルイーズの作った価値あるハンドクリームを、適正価格でご婦人方に売ったと言うのだな?」
「はい」
「それで、ハンドクリームを売って手に入れた金はどうしたのだ?」
「えっと……」
「自分の物以外を売って手に入れた金であるのなら、作成者のルイーズに渡すのが筋であろう?」
ん? どういうこと?
確かに私は、ジョルジュからお金なんて受け取っていないわ。別にお金は要らないけど。
「ジョルジュ。ハンドクリームを売って得た金はどうした?」
「……」
「ジョルジュ! 正直に言いなさい!」
「きゅ、救護院に。パンや野菜や果物を買って、救護院に届けてしまいました」
「はぁ。やはりそうか」
「えっ?」
「救護院の院長から、匿名で時々大量の支援品が届けられていると連絡があった。年格好からして、支援品を運び込んでいるのがお前じゃないかと院長が言うのでな」
「バレていたのですか……」
◇ ◇ ◇
数日後、お父様はお城に、皇都レンファスで手広く商いを営んでいる商人を呼んで下さったの。
彼の名前はブルース・ドゥガン。ドゥガン商会の商会長なのですって。
彼は一緒にアーレグという名の息子を連れて来たわ。
「ルイーズ、今後お前の作ったハンドクリームをドゥガン商会に卸すことにした」
「そうなのですか?」
「ああ、そうだ。先日ジョルジュの言ったことにも一理ある」
この場にお父様は、私以外にジョルジュとラファエルお兄様を同席させていたの。
お父様はまだ成人していない私とジョルジュに代わって、今後のドゥガン商会との取引の全権をラファエルお兄様に任せると仰った。
私はまず、ひと月に作れるハンドクリームの量を聞かれたわ。
それから、このハンドクリームを今後販売するにあたって、どういった形で商品を売っていきたいか聞かれたの。
例えば、どんなパッケージにするかとか、売りたい客層とか。それが決まった上で値段の設定をするのですって。
結局、商会長の息子のアーレグさんと、ラファエルお兄様とジョルジュの3人で話し合った結果、貴族のご婦人向けの高級感のある物と、一般向けの商品と2種類を作ることになったみたい。
みたいと言ったのは、私は途中で話し合いから離脱したからです。
どうも私は作るのは好きだけど、商売には向いていないみたい。ああいったお話し合いは……。ふあぁぁ。どうにも眠たくなっちゃう。
それなのに、私よりも年が下のジョルジュは、凄く積極的に話し合いに参加していて驚いちゃった。
取り敢えずは今あるハンドクリームを販売してみて、上手く商売になりそうだったら、ハンドクリーム以外にも香水とか練り香水とかも商品に加えることになりそうよ。
ハンドクリームにしても、もっといろいろと香りを変えて種類を増やしてみるのも良いわよね。
それとね。お父様はハンドクリームの販売で得た利益を、私とジョルジュとラファエルお兄様の3人で相談して分けても良いって仰って下さったそうなの。
だからね、4等分することにしたのよ。
私と、ジョルジュと、お兄様とで4分の1ずつ。残りは救護院へ。
ジョルジュは、国からの援助だけでは運営が苦しそうな救護院を少しでも助けたかったみたい。
そんなことを知ってしまった以上、私としても、自分の取り分も救護院へ渡してしまっても良かったのだけれど……。
そう提案しかけた時に、ラファエルお兄様がそっと私に耳打ちしたのよ。
「ルイーズ。お金は今後の為に貯めておくと良いよ。救護院なら心配ない。4分の1だってかなりの金額だよ」
「今後、ですか?」
「そう。いつか他所の国に行って、どうしても食べたい物がルイーズにはあるんだろう?」
って。そうよ! そうだわ!
ラファエルお兄様の言うように、いつか来るその日のために、私にも絶対にお金は必要なのだわ!
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