29 第四皇女とここ最近の話。
今回は、私がここ最近、何をしていたか! について話すわね。
1年半位前に、リスカリス王国に嫁いだグレーテ叔母様が、お里帰りをされたことは覚えているかしら?
ん? なんのこと? って方の為に、ちょこっと復習しておくわね。
グレーテ叔母様は、元グルノー皇国の聖女様。
聖女を引退後に、隣国リスカリス王国の王弟殿下と結婚されて、今はリスカリス王国の王都でお暮らしになっているのよ。
グレーテ様は皆にお土産を沢山持って来て下さったのだけれど、その中に、私だけのための、とっても特別な贈り物があったわ。
厳重に梱包されている木箱で、開けると、小さな包みとお手紙が入っていたの。
その小さな包みの中身は、私がいつか食べてみたいとずっと夢にみていた “お肉” だったわ!
本当に夢みていたのは魔獣のお肉なのだけど、流石にグレーテ様も魔獣のお肉は入手できないようで、入っていたのは牛の干し肉。
冒険者や長期遠征に出る騎士が食べる携帯食なんですって。
グレーテ様からのお手紙には、絶対に聖教会の関係者に知られないように! って書かれていたわ。
だって、聖教会はお肉を食べることを良しとしていないから。
だから、私は受け取った干し肉のことを、私だけの秘密にすることにしたの。
干し肉は手のひらに乗るくらいの小さな塊で、すっごく魅惑的な香りがしたわ。
固いのでナイフで薄く削いで口に入れるって書かれていたのだけれど……。
私の部屋にはナイフが無くて、仕方がないからハサミで角っこを無理矢理切り取って口に入れたの。
はぁ。今思い出しても、口の中が幸せでいっぱいになるくらいに美味しかった。
噛んでいるうちに固いお肉が段々と柔らかくなって、じわぁーっと旨味が口に広がるのよ。
それと同時に、スモークされた、なんともいえない素敵な香りが鼻の奥に抜けていく感じ? がして、それがまた良いのよ!
それが、私の人生初のお肉の味。
その干し肉なんだけど……。
絶対に秘密で、私がナイフを持っていなくて、大事にしすぎて。
次に食べようと思って包みを開けた時、私の大事な大事な干し肉は、どういうわけだか、明らかに干し肉ではない全く別の物に変わっていたの。
絶対に誰にも秘密ってお手紙には書かれていたけれど、私はその包みをメラニーのところに持って行ったわ。
料理人のメラニーだったら、もしかしたらどうにかして元の干し肉に戻せるんじゃないかと思って……。
「あらまあ。これは酷い!」
「ねえ、メラニー。これが何かは、ちょっと私の口からは言えないのだけれど……これを、元の状態に戻すことはできるかしら?」
「はぁぁ。これが元々何だったのは敢えて聞かないでおきますよ。でもね、ルイーズ様。こうなってしまったら、もう食べることは諦めて下さい」
「もう、食べられない?」
「無理ですね」
「絶対に?」
「はい。絶対に!」
「……洗ったら?」
「駄目です!」
「焼いても?」
「食べられません!」
「スープにしてみるとかは、どうかしら?」
「諦めて下さい!」
メラニーはそれが何だったかを私に聞かなかったし、どうして私がそれを持っているかも尋ねなかった。
でも、タイミング的に、私がそれをどうやって入手したのかは察したみたい。
どうしてそれがそんな状態になっちゃったかも……。
「ルイーズ様。食べ物は、放置しておくと傷むのですよ」
「私、放置してはいないわ」
「ですが、風通しの悪いところに置いておいたのでしょう?」
「木箱の中よ」
「……。少しは齧ってみたのですか?」
「齧ってないわ。ナイフで薄く削ぐって教えて貰ったのだけど、ナイフが無かったから、ハサミで無理矢理端っこを切ったの」
「美味しかったですか?」
「ええ! とっても!」
「そうですか。それなら良かった。でしたら、これは処分致しますね」
「……処分? 棄てるってこと?」
「もちろん、そうです」
もしかしたらそうかなって、覚悟はしていたけれど、実際にもう駄目って言われると、凄く、凄く、ショックだった。
「ああ、ルイーズ様。泣かないで下さいませ……」
「泣いてなんて、いない、わ!」
メラニーは私をぎゅって抱き締めてくれたけれど、何故だか目からポロポロ涙が溢れたの。
「いつか、これよりも、もっともっと美味しいお肉を食べられる日が来ますよ、きっとね」
私だけに聞こえるように、メラニーは私の耳元でそっと囁いたわ。
それからしばらく、私の背中をメラニーは優しくさすってくれたの。
このことがあってから、私は悟ったわ!
大事なものは、何よりもまず先に食べるのよ!
そして、いつか必ず、メラニーが言ってくれたように、もっともっと美味しいお肉を食べてみせるわ!
でもね。困ったことに、この国に居る限り、きっと私がお肉を食べる夢は永遠に叶わない。
だったらどうする?
私は何をすべき?
どうしたら私はお肉が食べられる?
考えて。考えて、凄く考えたわ。
そうよ! お肉が食べたいのなら、他所の国に行けば良いのよ!
ラファエルお兄様だって仰っていたじゃない、他所の国では普通に食卓にお肉料理が並ぶって。
たぶん、と言うか絶対に、私は留学なんてさせてもらえない。
お父様が反対するに決まっているもの。
私は聖女じゃないから……ヘンリエッタお姉様のように訪問団として他所の国に出ることも無理。
まあ聖女だったら、どっちみちお肉は食べられないわね。駄目! この方法は無いわ!
一番可能性が高いのは、グレーテ様の暮らしているリスカリス王国へ行く許可を取ることよね。
グレーテ様のいるところとは言え、簡単に遊びに行く許可をお父様が出して下さるとは思えないから、何か許可を頂ける方法を考えなくっちゃだわ!
それでね。その日から、私はいろいろと自分にできることを考えたの。
もちろん、お祖父様から頼まれていた薬草栽培はとその研究は “チームルイーズ” の皆でちゃんと続けているわ。
今や乾燥させた薬草は、外貨を稼ぐことのできる、この国にとって重要な輸出品となっているのよ。
最初は回復薬を作る材料になる薬草から始めて、今は、傷薬と解熱剤用の薬草も出荷しているのですって。
今後は、更に麻痺消しと毒消し用の薬草も出荷品目に加わる予定なのよ。
お祖父様の言うところの “出し惜しみ” をしながら、ね。
でね、でね。今、私が取り組んでいるのが……。
「あーねーうえー。ルイーーズ姉上、どっこです、かーーーーー?」
向こうから、弟のジョルジュが私の名前を叫びながら歩いて来たわ。
ちなみに私が居るのは、ルイーズ畑の近くにあるガゼボ。
ここは私のお気に入りの場所。読書をするにも、お茶を頂くにも、考え事をするにも適しているのよ。
私を探すときは、まず初めにここをチェックすれば、私を見つける可能性が高いってことが、すっかり皆に知れ渡っているみたい。
「ジョルジュ? どうしたの?」
「父上が姉上をお呼びです」
「お父様が?……何かしら?」
「姉上。また、何かやらかしたのではないですか?」
「えっ?」
「ほら、ほら。思い当たること、山ほどありますよねー?」
「な、無いわよ。別に」
「今、一瞬何か思い当たったでしょう?」
もぉ、ジョルジュったら。私最近は……特に、何も……していないわよ?
たぶんだけど。
呼ばれている理由は兎も角、すぐに向かわなきゃ。
「ジョルジュ。貴方は別に一緒に行ってくれなくても良いのよ」
「違いますよ。僕も父上に呼ばれているんです」
「貴方も? 一緒に?」
「はい!」
あら、そうなの?
ジョルジュと私がセットで呼ばれたの? ますます分からないわ。
「ねえ、ジョルジュ。貴方、どうしてお父様から私たちが呼ばれたのか、本当に分かっていないの?」
「うーーん。思い当たることが多すぎて? 姉上と一緒ですよ。てへっ」
てへって……。
「まあ良いわ。行きましょう」
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