2 第四皇女の国と聖女様。
私が生まれた国で、もちろん、今も私が暮らしているのは、ここ。グルノー皇国。
この大陸の南の端にあって、その大陸に数ある国々の中では、小さな方の国なんですって。
前にも言ったと思うけれど、国土の70%以上が森林。
その森林の中でも特に有名なのが、グルノー皇国と国境を接する2つの国との国境線に長く広がる “聖なる森” と言われる巨大な森林地域。
隣国から陸路で入国する場合は、絶対この森を通り抜けなくてはならないの!
“聖なる森” には、グルノー皇国の歴代の聖女様たちが、何重にも施した “聖なる結界” が張ってあると言われているわ。
「言われている」って言ったのは、聖女様も他の誰かも、実際には、この森に対して直接結界を張ったりは一度もしていないから。
それなのに、何故だかこの森全体、隈無く光の魔力が満ち溢れている。
この “聖なる森” があるお陰で、大陸には普通に生息している魔獣が、グルノー皇国にだけは生息していないの。魔獣は “聖なる森” を通り抜けることができないからだそうよ。
“聖女様” と言うのは、光属性の持ち主の中でも、かなりその力が強い人のこと。
世界全体で見れば、光属性の持ち主はとても希少な存在と言われている。そんな中にあって、不思議なことにグルノー皇国には光の属性を持つ人が数多く生まれてくるのよ。
そのせいで、グルノー皇国は他国からは『聖女の国』とも呼ばれているんですって。
6歳になった子どもたちは “聖教会” というところで属性検査を受けるってことは言ったと思うけど、その時に子どもが光属性だと判明すると、その子どもは未来の聖女候補として、その地区にある聖教会に引き取られるのが暗黙のルール。
聖女候補に選ばれることは、この国ではとても名誉なこととされているから、断る親は居ないらしいわ。
でも、たったの6歳で家族と突然引き離される子どもの意見は聞いて貰えないから……辛いわよね、きっと。
聖教会に入ると、聖女候補の子どもたちは寝食を共にして、教会での奉仕活動をしながら、光の魔力の扱いを学ぶんですって。
そうした生活を通して、癒しや治療ができるようになった子どもだけが、聖女様と呼ばれるようになる。人によっては、結界を張ったりすることもできるのだそう。
ただ、光属性を持っているからと言っても、全員が聖女様になれるわけではないの。
15歳までに、聖教会で学んでも癒しや治療の能力が残念ながら開花しなかった場合は、聖女様とは認められない。
貴族の子どもの大半は自分のお家に戻るけれど、大抵の平民の子どもはそのまま教会に残って、聖女様のお世話をする人になるそうよ。
小さい頃に家族から引き離されているから、聖女様になれなかったからと言って、家族の元にも帰れない。
身勝手で可哀想な話だと私は思ったけど……。
ジネットに言わせると、ずっと一緒に暮らしてきた仲間たちの方が、もはや家族のような存在なんじゃないか? って。本当にそうなのかしら?
そんな聖女様の中で、癒しや治療だけなく、強力な結界を張る能力をも持つ聖女様のことを “大聖女様” と呼ぶわ。
「きっとクロエ様も、近い将来、大聖女様になられるのでしょうね」
「クロエお姉様? そうね、そうだと良いわね」
ジネットは、私の侍女をしてくれているくらいだから、もちろん光属性の持ち主では無いわ。
彼女の属性は風。
ジネットは、小さい頃から光属性になんだが凄く憧れがあったみたいで、聖女様とか大聖女様とかの話題が大好きなのよ。
私の一番上の姉のクロエは聖女様。
6歳で皇都にある聖教会本部に入って、10歳の時には既に癒しと治療の力を得て、聖女様になっている超エリート。
クロエお姉様は現在19歳。
聖女様好きのジネットにとって「憧れのお方」なんだそう。
「もしルイーズ様の魔力の属性が、地属性ではなくて光属性だったら、ルイーズ様は “緑の手” ではなくて “白の手” の持ち主だったかもしれませんよね」
「さあ、それは……どうかしら?」
「ルイーズ様には膨大な魔力量があるのですから、絶対ですよ!」
「もしもの話ばかりしていると、寝ている時に怖い夢を見る! ってお母様が仰っていたわよ。ジネット」
「まあ、それ、本当ですか?」
“白の手” と言うのは、“緑の手” と同じで、無詠唱で光の魔力を行使できる人のこと。
私の知る限り “○の手” と呼ばれているのは、“緑の手” と “白の手” くらいかしら?
もしかしたら他国に行けば、他の色の手の持ち主も居るかもしれないわね。
聖女様の中の最高ランクに位置する大聖女様でも、全員が “白の手” の持ち主とは限らないそうよ。
現在、グルノー皇国には五人の大聖女様が存在しているのだけれど、その中で “白の手” の持ち主なのは、現グルノー皇国皇帝陛下の姉、マリアンヌ・ドゥ・グルノー大聖女様ただお一人。
つまり、私の伯母上様。
“白の手” の持ち主でもあるマリアンヌ様は、もちろん筆頭大聖女様。
魔力量も膨大で、もちろん無詠唱で、一度に大勢への癒しも、広範囲へ結界を張ることもできちゃう。
ああ、無詠唱じゃ無い場合、ちょっと覚えるのが大変そうな、長い呪文を唱えないと駄目なの。
例えば癒しの中で、比較的短いものだと……
「神々の御力をもって、彼の者の傷を癒やし給え。ヒール!」
とかね。
グルノー皇国が小国なのにも関わらず、他の国々から侵略や併合をされずに平和なのは、この国が “聖女の国” だからって噂よ。
他国にはほとんど居ないと言われている聖女様を、グルノー皇国は定期的に他国からの依頼に基づき指定の土地へと派遣しているから。
他国からの依頼の内容は様々だって聞くわ。
瘴気に侵された地域の浄化だったり、疫病の蔓延を食い止めて欲しいとか、王家の人間に対する内密な治癒依頼もあるとか無いとか。
多くの国々からの依頼を受ける代わりに、多くの国々によって守られている。
どこかの国がグルノー皇国を手に入れようと動けば、他の国々がそれを絶対に許さない!って仕組みになっているみたい。
派遣される聖女様は、その依頼内容によって選ばれるの。
大掛かりなお仕事の場合は、大聖女様が出向くし、土地の浄化程度だったら、見習いから聖女様になったばかりの新人たちが複数で向かうこともあるらしいわ。
ただ、5人しか居ない大聖女様への依頼は数も多くて、派遣依頼をしても当然すぐには来て貰えない。
移動には日数だって必要だし、大聖女様だってお仕事をすれば、自身も疲労するでしょう? 大変なお仕事だと思うわ。
「ジネットはいつもそう言うけれど、私は光属性の持ち主で無くて本当に良かったと、心の底から思っているわ」
「もう。ルイーズ様はいつだってそう仰いますね。絶対、地属性より光属性の方が良いのに……。聖女様だったら」
「じゃあ、この後メラニーが持って来てくれるケーキ、ジネットは要らないのね?」
「えええ?」
「だって、私が地属性で育てた特別なイチゴを使っているのよ!」
「はい、存じておりますわ」
「本当に? もし私が光属性の持ち主だったら、今から運ばれて来るメラニーのケーキは、スペシャルデラックスイチゴのケーキじゃなくて、ただの普通のイチゴのケーキだったってことだからね!」
「あああ。……地属性万歳!」
「でしょ?」
ジネットは、私が土いじりをすることも、頻繁に調理場へ顔を出すことも、お城の使用人たちと仲良くお喋りすることにも、余り良い顔をしない。
ご令嬢らしくないから。
でも、私が育てた野菜や果物が特別に美味しいってことは知っているから、なんだかんだ言っても、いつも私のやりたいようにさせてくれてるの。
そんなジネットのことも、私は大好きよ。
お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪
この作品は、ちょっとゆっくり目の更新になりそうですが、続きが気になる! と思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします!
思わず嬉しくなって、更新ペース上がっちゃう……かも?
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。