27 元聖女様と第四皇女。
「はあぁぁぁ。まさかヴィクトールお兄様が、あそこまでお怒りになるとは想定外だったわ」
「君の言い方にも、問題があったと思うけどね……」
「そうなのかしら? そうね。きっと、そうなのでしょうね……」
はあぁ。またやってしまったわ……。私、少し、ほんの少しだけよ、人の気持ちを汲み取れない時があるみたいなの。
私はグレーテ・リスカリス。
隣に並んで座って私に苦言を呈してくれたのは私の旦那様、リスカリス王国の王弟のシャール様。
今は幸せな結婚生活を送っている私だけれど、3年前まではグルノー皇国で聖女をしていたの。
6歳の時に光の属性であることが判明してから、ずっと聖教会で暮らしてきたわ。
それが何年間だったかは……まあ、今は置いておいて、長い年月、聖教会と、人々の為に尽くして生きてきたのよ。
その当時は、それが私にとっては普通の生活なのだと思っていたわ。
私は “大聖女” では無かったけれど、“聖女” の中では割と高い地位にいたし、グルノー皇家の一員だということもあって、周りに居た人たちが常に私を敬ってくれていたのね。
今にして思えば……。
聖女を辞めてしまえば、私なんて何も知らない何処にでも居る唯の人だったってことよ。
それでも、聖女を辞めた今も、癒しの力が全く無くなってしまったわけではないので、ただの役立たずってことではないと思いたいわ。
その私が、どんな発言をしてヴィクトールお兄様を怒らせてしまったかと言えば……。
お兄様の娘であるグルノー皇国第四皇女のルイーズを「私に下さらないかしら?」って発言したことなの。
ルイーズは私の姪っ子なんだけど、光の属性では無かったため、私とは違って、ずっと家族と一緒にあの城で暮らしてきたのよ。
ヴィクトールお兄様とジャンヌお義姉様の仲良し夫婦には、全部で6人の子どもが居るわ。(男の子が2人と、女の子が4人よ)
確かに4人の娘の内の2人は、6歳の属性検査以降はずっと聖女候補(今は1人は大聖女で、もう1人は聖女よ)として聖教会で暮らしてはいるけれど、それでも、残った男女合わせて4人の子どもたちに囲まれて、お兄様たちがとっても幸せな毎日を送っているのを、私はお城へ戻る度に見ていたから知っているわ。
私はもうかなりいい年齢だし、今後、自分の子どもを持つことは無いと思ってる。
リスカリス王国に余計な継承争いが起きることを、シャール様も望んではおられないでしょうし。
それでも、ちょっとだけ、幸せな家族を私も持ってみたいなと思ったのよ。ヴィクトールお兄様たちのような……。
だからルイーズを養女にって。つい。
だって、私、ルイーズのことが可愛くて仕方がないのよ。
でも、口にするべきでは無かったと、今は凄く反省しているわ。
「一度口にしてしまったことを、無かったことにすることは不可能だよ。でも、君に悪気が無かったことも、軽はずみな言動を反省していることも、義兄上は解って下さっている」
「……そうかしら?」
「そうだよ。ちゃんと謝ったのだし、心配しなくて良い」
「……それならば良いけど」
「大丈夫だ。君には、僕が居るだろう?」
「ふふふ。そうね。そうだわね!」
ああ、私、シャール様と家族になれて良かったわ。今、本当に幸せよ。
「ところで、ちゃんと君のお気に入りの姪っ子には伝えたんだろうね?」
「あら、なんの話?」
「干し肉だよ。渡した箱に入れたままにしておくとすぐに傷むぞ」
「あ……」
そう言えば、そのことを伝えるのを、すっかり忘れていたわ。
「でも、きっと大丈夫よ。あの子は私に似て、食べることが大好きだもの。あれだけ食べたがっていたお肉よ! きっとあっという間に食べ切ってしまうわよ」
ルイーズはね、ちょっと風変わりなところもある子なの。
お肉に対する執着は特に。
見た目は、天使のように本当に可愛い子なのよ。(そう思うのは、親戚の欲目なのかしら?)
まず、あのふわふわとした金色の長くやわらかい髪が目を引くわね。
それから、まだ子どもっぽい柔らかい頬。ルイーズは色白だから、うっすらとピンク色に染まった頬がなんとも愛らしいのよ。撫で回したくなるくらいに。ふふ。
もちろん、実際に撫で回せば、あの子はかなり嫌がるわよ。それでも全く躊躇せずにルイーズを撫で回すのは、私の父、先代皇王くらいなものよ。
それに、大きくてつぶらな空色の瞳!
あの瞳で見つめられてお願いされたら、何でも聞いてあげたくなってしまうのよ。
まあ、言う程お願いをされたことは無いのだけれどね。
でもね、ルイーズは見た目が良いだけじゃないわよ!
あの子は凄いわ。考えていることも、やることも。
ああ、でも。ここで私がルイーズの凄さをいちいち列挙していっても切りがないので、それは止めておくわね。
ああ、そうだったわ! 今は、ルイーズのお肉に対する執着の話をしているんだったわね。
つい、ルイーズの可愛らしさについて熱く語ってしまったわ。
そうなのよ。ルイーズはお肉に対して、異常なくらい興味と関心があるみたい。
私がそれを知ったのは、あの子がまだ8歳くらいの時だったと思うわ。
中庭でお茶会をしていた時にいきなり聞かれたの。お肉を食べたことがありますか? って。それも、近くに聖教会関係者が居る時によ。
あの頃は私、聖女だったこともあって、お肉を食べたことが無かったの。(今は大好物よ)
ルイーズは聖教会関係者から、お肉の話をするなんてとんでもないことです! みたいなことを言われていたっけ。懐かしいわね。
でも、あの子のお肉への興味は、それよりももっとずっと前かららしいわ。
そうね。おそらく、あの本を手にした時からよ。
ほら。確かリーガ語で書かれたあの本。騎士様が捕われの姫君を救出に行くお話。
あの本にあるのよ。騎士様とその従者が、倒した魔獣を焼いて食べるシーンが!
「グレーテ? どうした? ぼぉっとして。気分でも悪いのか?」
「ああ、大丈夫よ」
「そうか? ならば良いが」
「ごめんなさい。ルイーズに渡したお肉の話だったわよね?」
「ああ。肉とは言っても、渡したのは干し肉だろう? あの子に食べ方が分かるのだろうか? 分からずにそのまま放置して傷んでしまうのが、ちょっと心配だな……」
「大丈夫、大丈夫! そんな心配は要らないわよ。もしかしたら、ルイーズのことだから、既にもう食べ切っているかもしれないわ」
「……流石にそれは、無いと思うよ」
◇ ◇ ◇
私、知らなかったのよ。
ルイーズが、大好きなものは最後まで大事に取っておくタイプだったってことを。
だって私は、好きなものはまず最初に食べてしまうタイプなのですもの。
あの子ったら、あの干し肉を一口だけ食べた後、大事に大事にしまっておいたらしいのよ。
まあ、私もいけなかったのかもしれないわね。
手紙に『他の人には絶対に秘密にして』とか『絶対に聖教会の関係者には知られないように』なんて書いてしまったし。
それに、まさかルイーズがナイフを持っていないとも思わなかったのよ。
まあ、冷静になって考えてみたら、ルイーズのお部屋にナイフが置いてある筈は無いわよね。
ルイーズに渡したあの干し肉がその後どうなったかを私が知るのは、ずっとずっと先のお話。
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