26 第四皇女と竜国の使者。
「ルイーズ様! 大変! 大変! 大変なんです!」
「どうしたの? ジネット、そんなに慌てて!」
いつもだったら「廊下は静かにお歩き下さい!」とか「もう少しお淑やかに!」なんて私に言っているジネットが、ノックの返事も待たずに私の部屋に駆け込んで来たの。
いったい何事かしら?
「お庭に! 前庭の噴水の横に! 来ています!」
「何? 前庭の噴水の横に、いったい何が来ているの?」
「りゅ、竜! 竜が来ているのです!」
「竜ですって?!」
私は慌てて部屋のテラスへと続く扉を開けて、テラスへと飛び出した。
ああ、駄目だわ。ここからだと噴水の横は見えない!
でも、確かに噴水の方へ向かって慌てたように走って行く人の姿は見える。
「竜って、どういうことなの? ジネット、貴女、その竜を見たの?」
「私? 私は、見ておりませんわ」
「えええ? 見ていないの?」
「はい。竜が飛んで来たとイレーヌから聞いたので、これはすぐにルイーズ様にお知らせせねばと、こうして走って参りました」
本当だわ。ジネットは肩で息をしている。
普段だったら廊下を走るなんて絶対にしないジネットが、本当に急いでここまで知らせに来てくれたんだわ。
えっと。ジネットが今言っていたイレーヌって……誰だったかしら?
イレーヌ、イレーヌ。……ああ、そうだわ。
やっぱり、このお城に侍女として勤めている、ジネットの幼馴染のことよ!
確か彼女の仕事は、このお城に来た人たちの案内係だったような……。
そう、そう!
馬車でこのお城に来た人たちの馬車をどこで待たせておくかとか、その人たちが帰る時に馬車寄せに馬車を持って来させるタイミングを測ったりする仕事をしていた筈!
あら。だとしたら、竜も、馬車と同じ扱いってことなの?
彼女の管轄?
「ジネット! 私、その竜が見たいわ!」
「そう仰ると思っていました。本来なら侍女としてお止めするべきだとは思いますが、竜を直接見られる機会なんて、きっとこれを逃せば二度と無いのだろうと私も思います。お知らせせずにルイーズ様に今後一生恨まれるくらいでしたら、私も竜見学にご一緒致しますわ!」
流石の私も、一生は恨まないわよ……。ああ、でも、やっぱり恨むかもしれないわね。
そうよ! ここで見逃したら、きっと後悔するに決まってるわ!
「ジネット。今すぐ見に行きましょう!」
「はい。ルイーズ様!」
私とジネットは、走っていないと言い張れるギリギリの急ぎ足で、竜が居るという前庭の噴水を目指したわ。
私たちが到着した時には、前庭には珍しい竜を一目見ようとする人たちで溢れかえっていたの。
城の衛兵たちが集まってきているその人たちに向かって「これ以上近付かないように願います!」とか「騒いで竜を興奮させないで下さい!」とか言っている声が聞こえて来るわ。
「ここからでは、人が多くて竜の姿は見えませんね……」
「そうね。この人混みを掻き分けて、前の方まで行ってみる?」
「流石にそれは、ちょっと……」
ジネットにはそんなことはできないみたい。私は完全にその気だったんだけど……。
「おや、ちい姫様! ああ、やっぱり。竜を見にいらしたのですね」
「メラニー!」
声をかけて来たのは料理人のメラニーだったの。
隣には、なんとメラニーの旦那さんの料理長!
「メラニーたちも竜を見に来たの? もう見た?」
「ええ。どうやら今ここに来ているのは、竜国の騎士のようですよ。噴水の脇に竜が4頭見えました」
「竜が4頭も?」
「ちい姫様。もしお嫌でなければ、うちの旦那に抱っこして貰ったらどうです? そうすれば見えると思いますよ」
そうなの。確かにメラニーの旦那さんは凄く背が高い。
その料理長に抱っこして貰えば……人集りを掻き分けなくても竜が見えるかも!
でも……。
「ルイーズ様。その格好で竜に近付くのは止めておいた方が良いと思いますよ。離れた場所からチラッと覗くくらいにしておいた方が良いです」
そう言ったのはメラニーの旦那さん。
「どうして?」
「聞いた話では、竜って生き物はヒラヒラした物や、キラキラした物を好むそうです。姫様の格好はまさにヒラヒラですし、そうでなくても姫様の髪は……」
「そうよ! 竜に食い付かれでもしたら一大事だわ!」
メラニーと料理長は、私のこのふわふわの金色の髪の毛の心配をしているみたい。
その噂が本当かどうかは兎も角、私は最前列まで進み出て竜を見ることは諦めたの。
おとなしくおっきな料理長に抱っこして貰って、人集りの後ろから、なるべく頭をはみ出さないようにして、そおっと覗き見ることにしたわ。
「うわぁ。あれが竜なの? 思っていたのと、全然違う!」
噴水の横には、メラニーが言っていたように4頭の竜と、2頭ずつの手綱を握っている騎士らしき人が2人見える。
竜は騎士よりもずっと大きくて、背中に大きくて美しい翼が2枚生えていた。あれで大空を飛ぶのね。
「ルイーズ様。竜はどんなです?ああ、私も見たい!」
「お嬢さんは……。流石にちょっと無理だな」
なんとか竜を見ようとピョンピョン飛び跳ねているジネットを見て、料理長が苦笑いを浮かべた。
メラニーがケラケラ笑いながら、そんな料理長の背中を叩いてる。
ごめんね、メラニー。私だけ料理長に抱っこして貰っちゃって。
料理長が私を地面に下ろす寸前、一番手前の白い竜が一瞬だけこっちを向いたの。
もしかして、目が合った?
ギュウゥーーって鳴き声が聞こえたけど、あの白い竜が鳴いたのかしら?
◇ ◇ ◇
翌日になって、お父様から報告がありました。
昨日私が噴水のところまで見に行った竜たちは、やはりザルツリンド王国の竜騎士たちが乗ってきた竜だったのですって。
彼らは、ザルツリンド王国とルルーファ王国の国境線近くを飛んでいた時に、たまたま聖教会の馬車が魔獣の群れに襲われているところを上空から発見して、助けに降りてくれたそうなの。
もしも彼らが通りかかっていなければ、もっと大惨事になっていただろうとお父様が仰っていたわ。
「お父様。ヘンリエッタお姉様については、何かお分かりになりましたの?」
「いいや。彼らは助けた聖女たちの身元に関しては詳しく聞かなかったようだ。ただ、酷い怪我をしている者は、聖女にも、聖教会関係者にも居なかったらしい」
「そうですか。それならば良かったですね」
「そうだな」
お父様の話では、ヘンリエッタお姉様たちの一行は、怪我を負った護衛たちをルルーファ王国の王都へ送り届け、しばらく王都で休養を取ってからこの国に戻って来るそうです。
お帰りが、また先に延びてしまいますね。仕方が無いことだけれど。
「ねえ、お父様。あの竜騎士たちは、昨晩はこのお城にお泊まりにならずに、もうお帰りになられたのですか?」
「ああ。昨日状況の報告をしてくれた後に、そのまますぐに飛んで行ったよ。彼らは自国には戻らず、ここからルルーファ王国へ向かうと言っていた」
「そうですか。ルルーファ王国へ。何日くらいかかるのかしら?」
「竜なら、2日もあれば到着できるのではないかな」
「えええ? そんなに早く?」
竜って、そんなに早く飛べるのですね!
だって、馬車だったら急いでも半月はかかりますよね?
やっぱり、もうちょっと近付いて見ておくべきだったかしら。次にこのお城に竜が飛んで来た時には、部屋を飛び出す前に、髪を隠すための帽子を忘れずに持たなくてはなりませんね!
はあ。次の機会があると良いのだけれど……。
2023/06/04 ジネットの幼馴染の名前を(皇妃と同名ではややこしいとのご指摘を頂き)ジャンヌからイレーヌに変更しました。
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