23 第四皇女と弟と本のこと。
ヘンリエッタお姉様が聖女として派遣団に加わり、ルルーファ王国へと旅立たれてから、あっという間に2ヶ月が過ぎました。
お父様の話では、お姉様のお戻りは、どんなに早くても3ヶ月以上先になるそうです。
聖女様一向は “聖なる森” を抜けたところで、護衛の方たちと合流するそうです。
“聖なる森” の向こう側には魔獣が生息している場所もあるので、護衛は絶対に必要なのだとか。
ルルーファ王国へ行くには、リスカリス王国を通過しなければならないので、その間はリスカリス王国の騎士団が護衛してくれると聞きました。
騎士団ってことは、騎士たちが大勢いる団体ってことですよね?
騎士団の方たちの中には、冒険者ギルドに登録されている方も含まれているのでしょうか?
倒した魔獣は、ギルドに引き取って貰うのかしら? それとも、自分たちで魔獣を解体するのかしら?
もしかして、食べたりも……。
「……です。そちらでよろしいでしょうか? ルイーズ様? ルイーズ様!」
「……ああ。ジネット」
「また何か、別のことを考えてらしたのですね。お召し物はこちらでよろしいでしょうか?」
「あ、ええ。良いわ。ありがとう」
つい考え事に夢中になってしまったわ。侍女のジネットが困った顔をして私を見つめています。
今日は、とっても特別なお客様がお城にお見えになるので、朝からお城中あちこち準備に余念がありません。
私もお着替えをして、この後、そのお客様をお出迎えに行く予定なのです。
そのお客様。いったいどなただと思いますか?
2年半ほど前に聖女を引退してリスカリス王国へと嫁がれたグレーテ叔母様と、その旦那様の王弟殿下のお二人です!
こう言うのを “お里帰り” と言うそうですよ。昨日ジネットに教わりました。
「ルイーズ様。いい加減、急がれた方が良いですよ。このペースでは、皇王様よりも遅い登場になってしまいます……」
「大丈夫。私、小さいからあまり目立たないでしょ。誰にも気付かれないように列に割り込めるわ!」
「そう言うことでは……。とにかくお急ぎ下さいね!」
◇ ◇ ◇
「おっ。やっと来たね、ルイーズ!」
誰にも気付かれないって言うのは……やっぱり無理でした。
私自身は小さいので目立たない筈だったのだけれど、どうやら、私が着ているこの衣装が目立つみたい。
私を見付けたラファエルお兄様が笑顔で手招きをして下さっていたので、お兄様と弟のジョルジュの間に強引に割り込むことにしました。
「姉上! もぉ、遅すぎですよ!」
「そう? 間に合ったように見えるけど?」
「もうすぐご入場だよ。父上と母上がたった今迎えに出られたから」
お兄様が言い終えるのとほぼ同時に、大広間の扉が開きます。
待ち構えていた貴族たちの列からワッと歓声があがり、お父様とお母様が入場されます。そのすぐ後ろに、懐かしい笑顔のグレーテ叔母様のお顔が見えました。
叔母様をエスコートしながら隣を堂々と歩かれているのが、リスカリス王国の王弟殿下なのでしょう。ちょっと想像していた感じと違うけど、素敵な方です。
グレーテ叔母様が並んで立っている私たちに気付いたようで、お隣の旦那様に何か話しかけながら、こちらに向かって手を振って下さいました。
うわっ。グレーテ叔母様を見つめる王弟殿下の笑顔! キラキラと光り輝いています。
眩しい! これが愛というものなのでしょうか?
この後は、この大広間でお二人の歓迎の宴が催される予定になっていますが……。私と弟のジョルジュは年齢的に参加できません。大人の集まりなのです。
わざわざ着替えたのに、到着後約10分で任務完了となりました。
「姉上。この後、お暇ですか?」
「暇かと聞かれれば……。部屋で本でも読もうと思っていただけだから、特に用事は無いわよ」
「でしたら、姉上のお部屋に伺っても?」
「ええ。良いわよ」
王宮内にお客様が大勢いらしている時は、お部屋に居るようにと私もジョルジュも言われてるの。
ジョルジュが私の部屋に来る分には、ウロウロ歩き回るわけではないので、良いのよね?
「前に約束をした姉上のあの本を、今日こそ僕にも見せて下さいね!」
「あの本って捕われの姫君の最新巻のこと? まだ読んでいなかったかしら?」
「違いますよ! もう9巻なんてとっくに読み終えました!」
「だったら、何の本のことを言っているの?」
「第3巻です! 一冊だけ特別な第3巻!」
「ああ。そう言えばそうだったわね。見せるって約束した気もするわ」
「気もするって……。僕は姉上からお声が掛かるのを、ずっと楽しみに待っていたのに」
「それは、ごめんなさいね」
「お詫びは美味しい焼き菓子で良いですよ! 今日も何か、あるのでしょう?」
まったく、ジョルジュったら。本が目当てなのか、焼き菓子が目当てなのか、本当はどっちなのか分からないじゃないの。
◇ ◇ ◇
「ねえ、姉上。この本、もしかして原本なのではないですか?」
「原本? それってなんなの?」
「作者自身が自分で書いた大元の本ということです」
「そんなこと……あり得ないでしょう?」
「ですが、手書きっぽいですし。全部ではないけど、絵にも色が付けられている。他の本と比べて紙も厚みがあるし、だいたい、本の大きさが全然違うじゃないですか!」
「少し大きいだけでしょう?」
「一回り大きいのを、少しとは言いませんよ」
「でも、これと同じ本があるって、前に聞いたことがあるわ! 同じ物があるのならば、この本が、その原本って言う物とは言えないわよね?」
「同じ物がある? 誰から聞いたのです?」
「えっと。昔このお城に来ていた騎士様だけど?」
「騎士様? そんな人、この国のどこに居るんです?」
「この国の人では無いわ。この本の国の人よ」
「この本?……ってことは」
ジョルジュったら、最新巻の後ろの方のページをめくって、何かを探しているみたい。
「この本、ザルツリンド王国の作家が書いているようです」
「そうなの? ザルツリンドって、飛竜国のことよね? じゃあ、そこの王宮の図書室に同じ本が沢山あるのね、きっと」
ザルツリンド王国は、前に話した大陸に伝わる昔話を覚えているかしら? その中で言うと、神様が暮らしていた山が吹き飛んだ後にできた、周りをぐるりと山に囲まれた大陸の真ん中の国です。
ザルツリンド王国が飛竜国って呼ばれているって言うのは、あの国には竜が沢山住んでいて、その竜を使役している騎士たちが居るからなのですって。
竜。竜かぁ。竜って、食べられるのかしら?
「王宮? 姉上、今、王宮の図書室って仰いましたか?」
「ええ。前にこの本のことをご存知らしい騎士様とお話をしたことがあって……。確か、そう言っていたわよ」
「えっと、なんで騎士様? 姉上。この本は小さい時に城内で拾った物だと……仰っていましたよね?」
「……そうよ」
本当は拾ったんじゃなくて貰ったんだけどね。
誰から貰ったかは、私にも分からない。ただ、その人と『内緒』って約束したことだけは覚えてるわ。
「ええと、この本はその騎士様の落とし物ってことですか?」
「違うわ! 騎士様とお話をしたのは、もっとずっと最近のことよ。2年か、3年くらい前かしら」
ジョルジュは頭を抱えている。
「とにかく。これがとても貴重な本だということは確かです!」
「そうみたいね。でも、それを知ったところで何も変わらないわよ。貴重な本でも、そうでなくても、この本が私の宝物だってことに変わりはないもの」
お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪
この作品は、ちょっとゆっくり目の更新になりそうですが、続きが気になる! と思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします!
思わず嬉しくなって、更新ペース上がっちゃう……かも?
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。




