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21 第四皇女と薬草栽培事業化計画。

あのポーション販売のお話を、お父様に膠鰾(にべ)も無く断られてから10日程経ったでしょうか?

私が中庭で本を読んでいると、お祖父様とお兄様が連れ立って現れました。



「ルイーズ。お茶でも飲みながら相談したいことがある。今から良いかな?」

「はい。大丈夫です」

「それでだな。何か良いものはあるか?」

「良いもの? 良いものとはなんでしょう?」

「お茶に合う、美味い菓子は何かあるのか? あるなら談話室まで私が運ぶぞ」



ああ。そう言うことでしたか。

最近、お祖父様は少しお太りになられたらしく、お祖母様から「甘い物を控えるように!」と注意されていた筈です。



「お祖父様。お祖母様に叱られますよ!」

「確かにセシリアは甘い物を控えろとは言ったが、食べては駄目とは言っとらんぞ」

「それは詭弁(きべん)では無いでしょうか……」

「大丈夫、大丈夫。ほんの少ししか食べん。甘い物が無いと、お前たちが寂しいだろうと思っただけだ。それで? あるのか? 無いのか?」

「ございます」

「よし! まずはそれを取りに行こう!」



お話の内容は、先日ラファエルお兄様がお父様にした “あの提案” に関連しているようです。

お祖父様は「ほんの少し」と言っていた筈なのに、何度も焼き菓子が並べられたお皿に手を伸ばします。


今日の焼き菓子はマカロン。

マカロンの作り方は、リスカリス王国へと嫁がれた、グレーテ叔母様が贈って下さった本に載っていたもの。

生地は卵の白身と砂糖とアーモンドを粉にした物があればできるし、中に挟むクリームやジャムもこの国で手に入る物ばかり。

お肉は用意できないけど、卵と乳製品なら大丈夫!

ちゃんと美味しく再現できました!(←製作者はもちろんメラニーです)



今日はイチゴとフランボワーズとオレンジとレモンと、お皿に並んだマカロンの種類が豊富だったのが、完全に(あだ)になっています……。



「お祖父様、もうその辺で!」

「ああ。そうだな。ちょっと食べ過ぎたか?」

「……かなり、ですね。それで、そろそろ本題に入りませんか?」

「ああ。そうだな! 危うく忘れて部屋へ戻るところだった」



って、オイ!(失礼、ちょっとはしたなかったですね)



「ヴィクトールに駄目だと言われた話はラファエルから聞いたんだが、ポーションとしてでは無く、()()()()()()()()()を輸出するのはどうかと思っているんだ」

「「薬草ですか?」」

「そうだ。ポーションだと重いし嵩張る。輸送中にもしも瓶が割れたら、大損害だろう? その点、乾燥させた薬草だったら軽い。簡単に大量に運べるぞ」



お祖父様は、私が調合したポーションは効果が高すぎて、正直、商品としては非常に扱い難いと仰った。

それに後々のことを考えると、量が必要になった時に、私以外の人が作ったポーションが私の作った物と同じ品質を保てるとは思えないとも。



「同じ材料で、同じように作っても、ですか?」

「おそらくな」

「それでは……。確かに、商売としては問題がありますね」

「ラファエルもそう思うだろう?」

「はい」

「だったらいっそのこと、こちらは薬草だけを出荷して、後のポーション作りは全て相手に任せれば良いと思わんか?」



  ◇   ◇   ◇



「ルイーズ様。これは、こちらでよろしいですか?」

「えっと。そうね、そこで良いわ!」

「姫様。こっちの畝には、もう水をやっても良いですかね?」

「そうね。お願い!」

「おーい、ルイーズ。そろそろ休憩にしよう!」

「お祖父様、まだ作業は始まったばかりですわ! 休憩はまだまだずっと先ですよ!」



只今、王宮の一角にある畑で “チームルイーズ” による種蒔き作業中なのです。


“チームルイーズ” のメンバーは、私ルイーズと、私の専属侍女のジネット、庭師のエルガーの合わせて3人。今日は特別にお祖父様も参加してくれています。

まぁ、既にお分かりかと思いますが、お祖父様はあまり戦力にはなっていないのですけどね。

余談ですが、この一角に広がる畑は “ルイーズ畑” と呼ばれています。ふんす!



ああ、ごめんなさい。話を戻しますね。

今蒔いている種がなんの種かと言いますと、先日お祖父様がラファエルお兄様と共に提案された、ポーション用の薬草の種です。

とは言っても、『はじめてのポーション作り 〜誰でも簡単! これ一冊であなたもポーションマスター!〜』に載っている、回復薬を調合するための基本的な薬草の種。


私としては、本に書いてあるレシピを勝手に第三者に公開するのはいけないのでは? と思ったのですけど、さっき言った3種類のポーションを作るのに使う薬草の組み合わせは、ポーションを作る人なら誰でも知っている “基本中の基本” なのですって。

てっきり、この本だけの極秘のレシピかと思っていたわ。ちょっとガッカリですわよ……。



ちなみにこの種は、特別な種でもなんでもありません。ただのどこにでも売っているような極普通の種です。

ただし、今までの経験上、“緑の手” の私が種を蒔いて収穫した作物の場合、収穫までにかかる時間は非常に短くなり、とても品質の良いものが収穫できていました。

更には、そこから取れる種は、私が育てるものと同じ効果を維持する可能性があるらしいのです!


これに関しては、庭師のエルガーの証言があるんです。


以前、エルガーと私とで王宮の “ルイーズ畑” で一緒にカボチャを育てたことがあったの。美味しいパンプキンパイが食べたかったから。

その時に収穫したカボチャの種を、エルガーは自分の家の畑に蒔いてみたんですって。

そうしたら “ルイーズ畑” と同じ品質の、大きくて甘いカボチャが、あっという間に実ったそうなのよ。

つまり、少なくとも第2世代の種は “進化した” ってことよね?


今からそれを再検証することにしたわけです。

まず、私がまず “ルイーズ畑” で薬草を育てて、収穫後にできた種をエルガーが自分の家の畑に蒔いてみる。

結果がどうなるか楽しみね。



「もしそれが本当なら、ルイーズ様が作ったその種を使って薬草を育てれば、誰でも短時間で高品質な薬草を収穫できるってことですよね?」

「たぶん、そうだと思うわ」

「それって、凄いことですよね?」



ジネットが興奮気味にお祖父様に問いかけてる。



「そうだな。その種で育てた薬草を他国に販売することができれば、農家はいろいろな意味で非常に助かるだろうな。国としても、良い収入源になるのは間違いない」



お祖父様の頭の中では、既に基本方針と言うか、検証後の筋書きは決まっているみたい。

まず、私が作った種を低価格で農家に売って、農家がそれぞれ薬草を栽培する。

次に、皇家(もしくは別の誰か)が農家から収穫した薬草を買い取って、全部まとめて乾燥する。

それから、乾燥した薬草を他国へ販売する。

他国はそれぞれ、その薬草を使ってポーションを作る。

そんな感じを目指すのだそうです。


私は回復薬の他にも、魔力回復薬と、傷薬と、解熱剤と、麻痺消しと、毒消しも作れるのだけれど……。

お祖父様曰く「全部一気に出す必要は無い! 出し惜しみも肝心!」なのだそうです。

だから今回は、回復薬に使う3種類の薬草の種を畑に蒔きました。

順調なら “ルイーズ畑” で一週間、“エルガー畑” で更に一週間。それで結果は出る筈よ。



「さあ、種蒔きは終わったし。お茶にしましょう!」

「おっ。やっとか」



お祖父様が、目をキラキラと輝かせて立ち上がったわ。

お茶の用意は、すぐそこのガゼボに準備済み。既にお祖父様はそのこともご存じだったようで、1人で先にガゼボの方へと歩き出しました。


この小さなガゼボは、お父様が私の12歳のお祝いにと建てて下さったの。

畑での作業の合間の休憩や、本を読んだりする時に利用しています。

この場所はちょっとだけ分かりにくい場所にあるので、用の無い人が来ることはまずありません。私のとっておきの場所の一つなのです。



「ん? 今日は、いつものお茶では無さそうだな……。ルイーズ、これはなんだ?」



先にガゼボに到着したお祖父様が、私に向かって叫んでいます。

お祖父様。私、超能力者じゃありませんのよ。自分の目で見てみなければ、何のことだか分かりません!



「ああ。これは果実水です。匂いからして、レモンとライムを搾ったものに、お水と蜂蜜を加えていますね。それからきっとお塩をちょっと」

「塩?」

「たぶん! 今日は少し気温が高いですし、私たち、頑張って畑仕事をしたでしょう? これを用意してくれたのがメラニーだったとしたら、お塩も少し入っていると思います」



私は不思議そうな顔をしているお祖父様に「熱い日に汗をかいたら必要なこと!」を教えて差し上げました。

それを聞いたお祖父様は、とっても感心されていましたが、今私が言ったこと、全部メラニーからの受け売りなのですけどね。

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