20 第四皇女と魔獣のお肉。
ああ、そうだわ!
私の方こそ、先程お父様の執務室に居た時から、ずっとお兄様にお聞きしたいと思っていた、とっても重要なことを聞き忘れていたわ!
「ねえ、お兄様」
「なんだい?」
「その “魔獣討伐キャンプ” で討伐した魔獣を、お兄様はお召し上がりになりましたの?」
「ん?」
「ですから、キャンプ中にお兄様たちがやっつけた魔獣のお肉を、お兄様たちは美味しく召し上がったのかしら? と思って」
「魔獣のお肉?」
私の質問に対して、ラファエルお兄様は一瞬訳が分からないといった表情を浮かべられた。
それから、私の顔を見ながらクスクスと笑ったの。
「ああ! あの物語の中に出て来る騎士と従者のように、と言うことかい?」
「そうです!」
「残念ながら、僕たちは魔獣の肉は食べていないよ」
「そうでしたか……。あらあら? 今『僕たちは』って仰いましたか?」
「言ったよ。キャンプ中に学生が討伐した魔獣は、全て学院がまとめて冒険者ギルドに持ち込んだんだよ。持ち込んだ魔獣は全てギルドが解体処理を行った筈だから、その魔獣たちが解体後にどうなったのかに関しては、僕には分からない」
冒険者ギルド? えっ。今、ラファエルお兄様、冒険者ギルドって仰いました? 仰いましたよね?
それって実在するものなのですか? 物語の中の設定では無く? 実際に?
「お兄様! もしかしてハーランド王国で冒険者登録をされたのですか? ギルドカードは? 今、カードをお持ちですか?」
「いやいやいや。ちょっと落ち着いて、ルイーズ!」
なんてことでしょう。私は興奮のあまりお兄様に掴みかかってしまいました……。
ああ、掴みかかったと言っても、胸ぐらに! とかでは無いですよ。
腕ですからね! それも服の袖です。念の為。
「僕もローレンスも冒険者登録はしていないよ! だいたい僕たち、冒険者になる気は全く無いし……」
「ああ、そうですわよね……」
お兄様が冒険者登録をしていなかったことに対して露骨にガッカリした顔をしたらしい私に、お兄様は冒険者ギルドついて知っていることを、いろいろと教えて下さいました。
ハーランド王国にある冒険者ギルドでは、10歳になってさえいれば冒険者登録が可能なのだそうです。
一番下のFランク冒険者になれば、薬草採取や、町の人が依頼を出すちょっとしたお手伝いの依頼が受けられて、子どもでもお金を稼ぐことができるとか。
ただ、それは “お小遣い” って意味では無いそうです。
小さな子たちが冒険者になって依頼を受けるのは、そうやってお金を稼いで家計を助けるため。
もしくは、そのお金で彼ら自身が生計を立てているのだと、お兄様は私に教えて下さいました。
世の中には、そうしなければ生きていかれない子どもたちが、少なからず存在しているのだそうです。
……私は、そんなことすら知りませんでした。
それから、ラファエルお兄様たちは学院の課外授業だったので、ギルドからの依頼を受けて討伐に行ったわけでは無かったそうです。
つまり “魔獣討伐キャンプ” で討伐した魔獣は、冒険者ギルドに所属していない学院の学生たちの “討伐実績” にはなりません。
あくまでも課外授業ということで、魔獣はまとめて学院が冒険者ギルドへと持ち込み、素材として全て買い取って貰う取り決めになっているとか。
ちなみに、買い取りで学院が得たお金は、全額を王都にある孤児院に寄付されたそうです。
お兄様の話では、冒険者ギルドが存在していないのは、この大陸にある7国の中ではグルノー皇国だけなのだとか。
それも、私は知りませんでした……。
ちなみに、グルノー皇国にだけ冒険者ギルドが存在しない理由は、“聖女の国” と呼ばれているグルノー皇国には、そもそも魔獣が存在していないためだとか。
……ですよね。この国には、冒険者のお仕事なんて、殆ど無いに等しいですものね。
グルノー皇国以外の各国の冒険者ギルドはそれぞれ連携しているらしく、例えばハーランド王国で冒険者になった人でも、他所の国に行っても、その国の冒険者ギルドで依頼を受けることができます!
もちろん依頼を達成すればきちんと討伐実績は登録されますし、買取りもして貰えるそうです。
つまり、ギルドカードは各国共通ってことですね。
私の大好きな “冒険譚” の中で描かれているよりも、実際の冒険者ギルドは、ずっと組織的、かつ合理的な団体のようです。
「ルイーズ? ルイーズ! ルイーズったら! ぼぉっとして、大丈夫かい?」
「あ。ええ、大丈夫です。ちょっと考えごとを……」
「なら、良いけど」
はぁ。私は本で読んだ知識があるだけの、何も知らない子どもでした。
「それでは、お兄様は魔獣のお肉のその後の行方に関しては、お分かりにはならないのですね?」
「ルイーズの期待に添えなくて申し訳ないけど、分からないね」
「そうですか……」
「魔獣の種類によっては食べられる物もあるとは聞いたけど、どちらかと言えば、肉よりも牙や皮などの素材の方がずっと高値がつくらしいよ」
「そうですか……」
「僕が思うに、つまり、魔獣の肉はそれほど美味しくはないってことなんじゃないのかな?」
「……そうですね」
やっぱり、物語の中のお話と現実とでは違うのでしょうね……。
あらら? ちょっと待って下さいね。先程ラファエルお兄様は何と仰いました?
『僕たちは魔獣の肉は食べていないよ』
ん? 魔獣の肉は、食べていない? それってつまり……。
「お兄様! 魔獣じゃないお肉ならお召し上がりになられたと言うことですか?」
「ああ。食べたよ」
「な、なんですって!?」
「ルイーズ。学院の食堂では、魚料理よりも肉料理の方が圧倒的に多かったよ。ハーランド王国では、それが普通みたいだったね」
「……なんてことでしょう」
「ああ。そう言えば、ルイーズはお肉が食べてみたいって、小さい頃によく言っていたよね」
お兄様、その認識は間違っています!
私は小さい頃だけでなく、14歳になった今でも、いつでも、お肉を食べてみたいのです!
ハーランド王国の学院の食堂。圧倒的にお肉料理を提供しているその食堂。私もいつか行ってみたいです!
「お兄様。召し上がられたお肉料理って……。串刺しにして香ばしく焚き火で焼いた物とかですか?」
「食堂ではそんな物語のような串肉は出ないよ。食堂でよく出てきたのは……やっぱりステーキかな」
「ステーキ? それって、美味しいのですか?」
「もちろん美味しいけど、それよりも、僕は煮込みの方が好きかなぁ」
「煮込み?」
「シチューって言うんだよ」
「シチュー?」
「そう。いろいろな種類の野菜と肉を赤ワインで時間をかけて煮込んでいるって聞いたよ。肉がとろけるように柔らかくて、味が染み込んでいて、凄く美味しかった。ルイーズも絶対に気に入ると思うよ」
はぁぁ。とっても美味しそうです。
とろけるように柔らかいって、いったいどんな感じなのかしら?
食べたい! 食べたい!! 私、やっぱりお肉が食べたいですわ!!!
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