19 第四皇女と熟成ポーション?
「それでは、ポーションとして出荷するのは認められないということですね?」
「ああ、そうだ」
「……そうですか。友人たちからは凄く評判が良かったので、残念です」
これは2ヶ月くらい前のお話。場所は、お城のお父様の執務室です。
ハーランド王国での2年間の留学を終えて戻られたラファエルお兄様は、帰国後すぐに、お父様にある提案をしました。
それは、私が作ったポーションを他国に販売してはどうか? というもの。
一応私にも関係のある話ということで、私もお兄様と一緒に、お父様の執務室へ行きました。
グルノー皇国を旅立たれるお兄様とローレンス様に、私がお守り代わりにお渡ししたポーションを覚えていますか?
あのポーション。帰国直前になって、ハーランドの学院の課外授業としてお兄様たちが参加した “魔獣討伐キャンプ”(←物騒なネーミングよね)の時に、どうやらかなり役に立ったらしいのです。
ただし、ポーションを使用したのはラファエルお兄様でもローレンス様でもなく、ハーランド王国のご友人たち。
どうせ授業で行くような草原には、たいした魔獣なんて出ないだろうと、その方たちは簡単な装備品しか持たずに参加したそうなのです。
学院から受け取ったキャンプの案内には、ちゃんと持ち物の欄にポーション各種って書かれていたそうですよ。
実際にキャンプに参加してみたら、割と強めの魔獣が出るわ出るわ。
で、体力も、気力も、魔力も、持ち物までも失う人が多発したとか……。
余分に持参したポーションを皆で分け合って、なんとか一泊のキャンプを乗り切ったんだそうです。
お陰で『友情が深まった!』ってラファエルお兄様は笑っていらしたけれど、授業で魔獣を退治させるって……。
グルノー皇国では考えられないような、とってもハードな留学生活だったのですね。お疲れ様でした。
それで、その時に私の作ったポーションを使用したそのご友人が、あまりの効き目に驚いて『国に戻ってからで構わないので、同じ物を売って欲しい』と言ったらしく……。
でも、お父様のお許しは出ませんでした。
「ねえ、お父様。どうして駄目なのですか? その方たちに買って頂ければ、私の在庫は減るし、お金が儲かるってことですよね? 私、そのお金で、新しい本を買いたいです!」
「ルイーズ。欲しい本があるなら買ってやる。後でリストを作っておきなさい」
「えっと、そう言うことではなくて……」
「この話はこれで終わりだ。二人とも下がって良いぞ」
お父様、それは「下がって良い」では無く、「下がりなさい」だと思います。
「どうして駄目なのでしょうね。作った私が言うのも何ですが、この国ではポーションの需要は全く無いのに……。だって、お兄様たちが留学先にお持ちになったポーション以外で使ったのは、最初にお祖父様が試された傷薬1本だけなのですよ」
「あははは。本当に?」
「はい。聖女様が居らっしゃるこの国で、ポーションを試してみたい方なんて、はっきり申し上げて誰も居られませんから」
「うん。……もったいない話だね」
「そうですわ! あまり古くなって、効果が薄れてしまったら廃棄処分するしか無いのですよ!」
「いや、そうじゃ無くて……」
「ん?」
ラファエルお兄様は私の頭を撫でながら笑って言った。
「ルイーズの能力がだよ。もったいないな、と思って」
「私の?」
「そうだよ! あれ程優れたポーションは、なかなか手に入らないって話だったよ!」
「ですが、お兄様に差し上げたあれ『はじめてのポーション作り 〜誰でも簡単! これ一冊であなたもポーションマスター!〜』に載っていた、どれも初級ポーションですよ?」
「それは知ってる。でも事実、凄い効き目だった。この目で見たからね」
「そうですか……」
「効きすぎるのが、駄目な理由かもしれないね」
私が見たのは、お祖父様が試された傷薬の時だけ。
確かにお祖父様の傷はすぐに消えたけど、お祖父様はポーションの効果については、特に何も仰っていなかったような……。
もしかして、作ってから数年経過しているから、その間に初級ポーションが瓶の中で熟成して、中級ポーションになっちゃったとか?
「ご友人方には、お断りされるのですか?」
「そうだね。父上の許可無しで販売することはできないから、断るしかないね」
「差し上げるのはどうです? 私はもう必要ありませんし」
「ルイーズ。それはもっと駄目なやつだよ」
「お金を頂かないのに駄目なのですか?」
「たぶん、お金の問題では無いと思うよ。父上が気にしているのは “情報” と “価値” だろうね」
「情報? なんだか面倒ですね。私には、よく分かりませんわ」
「そうだね。ルイーズは気にしなくて良いよ。今日は付き合って貰って、ありがとう」
「いいえ。どういたしまして」
歩きながら楽しくお喋りしている間に、気付けば、私のお部屋の近くまで来てました。
笑顔のジネットが、私の部屋の前で待っていてくれているのが見えます。丁度お茶の時間のようですね。
「お兄様。よろしければ、お茶をご一緒にいかがですか?」
◇ ◇ ◇
お茶を頂きながら、ラファエルお兄様から留学先での楽しいお話をいろいろと聞かせて頂きました。
どれもこれも私の知らないことばかり。やっぱり、世の中にはいろいろな面白いことや、不思議なことが溢れているのですね。
「そうだ、帰ったらすぐにルイーズに礼を言おうと思っていたのに、僕としたことが、すっかり忘れていたよ」
「なんですか?」
「ルイーズが留学前に作ってくれたビジュー。あれのおかげで留学中は随分と助かったよ」
「そうなのですか?」
お兄様の仰っているビジューとは、私が贈った “ネクタイ留め” のこと。
「あのエメラルドに、ルイーズ、魔力を込めたよね?」
あらら。バレちゃいましたか?
お守り代わりになれば良いなと、誰にも内緒で “光の魔力” をちょこっとだけ込めたのです。
「他国から留学に来ている王族が “魔獣討伐キャンプ” 参加中に万が一怪我でもしては不味いらしくて、僕たちには特別に護衛騎士が同行していたんだ。その彼らが不思議がるくらいに、僕とローレンスは魔獣と遭遇しなかったんだよ」
「それは良かったですね。……ん? 折角のキャンプなのだから、良くないのかしら? あら? でも、私が贈ったビジューは、それの何に関係しているのです?」
「僕が思うに、ビジューが結界の役割を果たしていたんじゃないかな」
えっ? 本当に? お兄様の気のせいでは無くて?
私としては「留学中にラファエルお兄様が怪我や病気にならなければ良いな」程度の願いを込めただけだったのですが……。
想定外の効果までついちゃったみたいです。
「もちろんビジューにそんな効果があるなんて、僕以外は気付いていないし、誰かに言うつもりもないから安心して。ただし、こういうことは、今後は無闇矢鱈としちゃ駄目だよ」
「はい。気をつけます。と言うか、お兄様以外に作って差し上げたい方は、居ませんよ?」
「そう? なら良いけど。今後は……。まあ、それは今は良いか」
本当にビジューの効果で魔獣と遭遇しなかったかどうかは兎も角、お兄様だけで無く、結果的に他の人の役にも立てたなら、ちょっと嬉しいです。
「ポーションを温存した状態で魔獣に囲まれている友人たちに遭遇したのはとても幸運だったよ。ありがとう、ルイーズ」
そう言って、お兄様は横に座っている私の頭を撫でるの。
私はもう小さな子どもじゃないのに……。お兄様なので、許して差し上げますけどね。
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