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17 先代皇王と第四皇女。

「ねえ、お祖父様。魔力を食べさせるってどういう意味だと思いますか?」

「魔力を食べさせる? ラファエルからの手紙に、まだ何か書いてあるのか?」

「はい。ここに」



そう言って、ルイーズは便箋を渡して寄越した。


私とルイーズは、まだ山のように仕事の残っているヴィクトールを執務室に残して、恨めしそうなヴィクトールの視線には気付かぬ振りをして、さっさとあの部屋を退出してきた。

あのまま長居でもして、うっかり仕事でも押し付けられでもしたら、それはそれで面倒だ。


今は執務室から近い応接室でお茶を飲んでいる。



なんだって?『この鳥を鳥籠に入れて、魔力を食べさせてごらん』

まだ続きがあるな。『くれぐれも、食べさせる魔力は、ほんのちょっとだよ』

食べさせるってことは、道具屋が首元の魔石に魔力を入れるのとは違うということだろうな……。

って、待て! 待て!! 待て!!!



「駄目だ! ルイーズ! その鳥から手を離せ!」

「えっ?」



ルイーズは『手紙鳥』を左手で掴んで持ち上げ、右手でその嘴を触ろうとしているところだった。鳥がカチャリと音を立ててテーブルの上に落下した。



「あの……。お祖父様。ごめんなさい」

「大丈夫。そのくらいの高さから落としたくらいでは、壊れてはおらんだろう。こっちこそ、急に大声をあげてすまんかったな」

「いえ、大丈夫です。でも、本当に、この鳥、壊れていないかしら?」

「どのみち、この国ではその鳥を飛ばすことはできんのだ。気にすることはない。それより、ラファエルにこそ問題があるな!」

「お兄様に問題、ですか?」

「そうだ。こんな意味あり気な文章の書き方をしおって……」



まるで暗号ではないか!

鳥籠に入れてから魔力を食べさせないと、何が起きるか分かったもんじゃない!


そういえば、確かセシリアの部屋に鳥籠があった筈だ。

前に……。あれは何処だったかな、何処かの国を訪問した際に、綺麗な小鳥をセシリアへの土産にしたことがあった。

もう随分と昔の話だ。

あの小鳥はそれから数年で死んでしまったが、セシリアはその鳥籠を花入れとしてその後も大事に使っておった。

最近は二人で城を開けることが増えたんで、今はもうセシリアも花を育ててはいない。

私がセシリアの小鳥のために買って来た鳥籠には、鳥籠を固定するための、これまた立派なスタンドがセットになっていた。


そうだ! 誰かに言って、あの鳥籠を持って来させよう! セシリアも、孫娘のルイーズが使うとなれば、文句も言うまい。



その後、ルイーズと一緒に『手紙鳥』を鳥籠の止まり木に取り付けた。


その鳥は、ハーランド国でも相当に腕の良い職人が手掛けた作品だろう。

全ての手紙鳥がここまでのレベルだとしたら大した物だが、ラファエルのことだ、ルイーズが喜びそうな美しい鳥を厳選した上で買い取ったに違いない。


実際にハーランド国には、このように美しい羽根を持つ鳥がそこらに生息しているのだろうか?

見たところ、使われている羽根は作り物ではなく本物を利用しているようだ。

小さな体に驚くほど多くの色合いが上手く調和している。

胸元は明るい紫、まるで満開のライラックを思わせる美しい色だ。そのすぐ下は見事な水色や青。頭の上は翡翠と薄い茶色。他にも白だったり赤だったり……。

これでもかとばかりに主張するような派手な色遣いなのだが、それがどうにも見事に配置されている。賞賛すべき出来栄えなのは間違いない。



「お祖父様。お兄様のお手紙には『魔力を食べさせる』って書いてありますけど、それって口からですか?」

「分からんな。取り敢えず試してみたらどうだ? ただし、送り込む魔力は『ほんのちょっと』で良いそうだぞ。くれぐれも、やり過ぎるなよ!」

「分かっています!」

「分かっていると言って毎回やるのが、お前さんだろうが……」

「今回は本当に大丈夫!」



ルイーズは鳥の(くちばし)近くに右手を伸ばすと、小さな可愛らしい声で「美味しいと良いんだけど……」と呟いた。



すると、突然『手紙鳥』の目がパチリと開いた。これまた綺麗な紫色の瞳だ。

そして、魔導具のその鳥は、ぎこちない動きではあるが首を少し傾けた。まるで餌を食べさせてくれた人間を見極めるかのように。



「お祖父様、ご覧になりましたか? この鳥、動きましたよ!」

「ああ。確かに少し動いたな」

「もっと餌を食べさせたら、もっと動くかもしれませんね!」

「……確かに。それはあるかもしれんな。って、おい、ルイーズ! 何をするつもりだ? 待て! やめんか!」



ルイーズの小さな愛らしい耳には、もう私が慌てて止める(しゃが)れた声など、聞こえている筈も無い。



「ピピピ。ピィ」



可愛らしい小鳥の囀りが部屋に響き渡った。これが、本当に魔導具なのだろうか?



「お祖父様、そんなに慌てなくても『やり過ぎない』ってお約束は、ちゃんと私、覚えていますよ!」

「そ、そうか? なら良いんだが……」

「可愛いですね。私、この子、とっても気に入りました!」



そう言うと、ルイーズは鳥籠ごと『手紙鳥』を自分の部屋へと連れ帰った。



  ◇   ◇   ◇



はあ、それにしても毎回毎回ルイーズには驚かされる。


あのインクにしてもそうだ。

ラファエルと二人で作ったと言ってはいたが、あのインク自体を考えたのはルイーズだと旅立つ前にラファエルが言っていた。

インクの元となる植物を選んだのも、育てたのもルイーズだ。

まあ確かに、今のルイーズにはラファエルのように最終的に使えるような状態にまで加工する力は無い。だが、それはあくまでも “今は” と言う話だ。



私がなんとなく土産として買って来た本を読んで、ルイーズが自力で数種類のポーションを作り上げてしまった時にも思ったが、ルイーズの能力は普通の子どものそれとは桁が違う。

ただ頭が良いとか、そういう類では無いように思えてならない。


あれは地属性の力なのか?

“緑の手” である以上、ルイーズが地属性での持ち主であることは間違いないのだが、果たして本当にそれだけか?



私も4人いる娘のうち、2人を6歳の時に聖女候補として聖教会に取られている。


次女のマリアンヌは、今やこの国で、いや、この大陸で、唯一無二の “白の手” を持つ大聖女様だ。

小さい頃からマリアンヌは、私や母親であるセシリアとは離れて暮らしていたこともあって、親子としての絆は弱い。

マリアンヌが大聖女となって以降は、他国へ出かけて行くことも増えてしまい、最近では、私たち親子が顔を合わせる機会さえほとんど無い状態だ。


四女のグレーテの方は、聖女になってからも、なんだかんだと理由を作っては、王宮へ顔を出してくれる。

それが親の顔を見に来るためか、ルイーズお気に入りの料理人が作る菓子を食べたいがためなのかは、この際言及しないでおくとしよう。

聖女としてはグレーテのように頻繁に聖教会を抜け出す行動には問題があるのかもしれないが、直接顔を見て話せるのは、それだけで親としては嬉しいものだ。



それは、ヴィクトールも同じだろう。

あれも4人の娘のうち2人を聖教会に取られている。長女は既に聖女、まだ13歳の三女は聖女候補だ。


私が何か余計なことを言って、更にルイーズまで……。ああ、それだけは絶対に駄目だ!

あれはもう11歳。今更聖教会になどに入れられても、大人しく収まっていられる器では無い。




さて、そろそろ戻って、例のインクの件をヴィクトールに説明せねばならんな。

ラファエルめ。自分で父親に説明するのが面倒になったのか、留学までにもうあまり時間が無いからと、全部丸投げしてハーランド国へと出発しおった。


ラファエルはラファエルで、ルイーズとは違った意味で、こちらも規格外の子どもだ。

あれは父親の跡を継いで立派な王になるだろう。

異国での2年間の留学生活で、果たしてどれだけのことを吸収してこのグルノー皇国に帰ってくるのか……。今から楽しみだ。

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