16 第四皇女とお便りバード。
ラファエルお兄様がハーランド王国に留学されてから、あっという間に2ヶ月が過ぎました。
その間、特に変わったことが起きることも無く、私は日々をなんとなく過ごしています。
はっきり言って、た・い・く・つ!
なにか面白いことが起きないかしら。
「ルイーズ様! ルイーーズ様! どちらにいらっしゃるのですかぁ? ルイーーーズ様ぁ!」
あらら。ジネットだわ。いったい何事かしら?
私はツゲの生垣で作られた迷路の中にしゃがみ込んで、のんびりと一人で本を読んでいるところだったんだけど……。
呼ばれちゃったので仕方なく立ち上がって返事をしたわ。
「ここよ! ジネット。私はここに居るわ!」
「ああ、ルイーズ様、そちらでしたか!」
「どうしたの? 何か急用?」
「はい。皇王陛下がお呼びです。大至急とのことですわ」
「お父様が? 大至急? あらら。いったい何かしら?」
「兎に角、執務室にお急ぎ下さい!」
「分かった」
お父様? 急ぎのご用って何かしら? 私には思い当たる節は全く無いのだけれど……。
特に最近何かを壊したりは……。大丈夫。していないわよね!
とにかく、行ってみましょう。
「お父様、ルイーズです。お呼びと伺い、参りました」
「ああ、ルイーズ! ちょっとこっちにおいで!」
「何でしょうか?」
お父様は手に何か紙を数枚持っている。
「これなんだが……」
「はい。何でしょう?」
「つい先ほど、ハーランド王国のラファエルから “鳥” が来た」
「鳥ですか?」
「そうだよ。そこに置いてある」
『鳥』なのに『置いてある』とは、いったいどういうこと?
私は、不思議に思ってお父様が指差す先を見た。ああ、本当だわ。確かに『鳥』が『置いてある』
「これは、何ですか?」
「それが、実はよく分からないんだ」
「ええと。分からないとは?」
「送り主は、ハーランド王国に居るラファエルなんだよ。その鳥みたいなのが、この手紙を咥えていた。封筒にはこうしてルイーズ、お前の名前が書いてある」
それって、つまり私宛のラファエルお兄様からのお手紙ってことですよね……。お父様?
ほらね。こうやってお父様たちは勝手にお手紙を開けてしまうのよ!
「だが、中身には何も書かれておらん! これはいったいどういうわけだ? ルイーズにはこの意味が分かるか? まさかあのラファエルが間違って何も書いていない便箋だけを送って寄越すとは思えんのだが……」
「お父様、その便箋には、私とお兄様で開発した特殊なインクが使われているんだと思います」
「何だい、その特殊なインクというのは?」
あれれ。お兄様は “魔法のインク” のことをお父様に話さなかったのかしら?
確かお父様に相談するようなことを言っていた気がするのだけれど……。
その時、ドアが勢いよくばーーんと開いたと思ったら、お祖父様が執務室に入って来た。
「すまん。すまん。すっかり失念しておった! それか? ルイーズ宛の手紙というのは? 例のインクで書いてきたのか?」
「例のインク? ええと……。話が私にはよく見えないのですが、もしかすると、ルイーズ、またお前なのかい?」
また? またお前? それって、どういう意味でしょうか?
「悪い悪い。ラファエルに黙っているように言ったのは私だよ。ルイーズはこのことは知らん。まあ、とは言っても大いに関わってはいるがな」
「はぁ。全く。ちゃんと後できちんと説明して頂けるのでしょうね?」
「もちろんだよ。おいで、ルイーズ! こっちに来て、ここにお座り」
私はお祖父様が座っているソファーの自分の隣をポフポフと叩いている。私はお祖父様の隣に腰を下ろした。
ジネットが、凄く心配そうな顔をして私を見ていたのだけれど、お祖父様は、そんなジネットだけで無く、執務室に居た他の人たちも全部まとめて、人払いをしてしまった。
つまり、聞かれたく無いお話ってことよね。
「ヴィクトール。その便箋をちょっとこっちへ寄越せ」
「……はい」
「ほぉ。確かに何も書かれて無い。……ように見えるな」
お祖父様は便箋を、裏返したり、透かしたりして詳しく見ている。お祖父様、ちょっと変な人に見えますよ。
「あの。父上?」
「ああ、分かっておる。ちょっと待て! うむ。それじゃあ、ルイーズに種明かしをして貰おうか」
そう言ってお祖父様は、私に2枚ある便箋のうち、まず1枚だけを渡したの。
私はそれを受け取ったわ。そうしたら、じわじわじわって感じで、便箋の表側にラファエルお兄様の字が浮き上がって来た。でもこれ……2枚目だわね。
お祖父様は読めるようになった便箋をテーブルの上に置いたわ。それから、笑いながらもう1枚の方を最初の便箋の横に並べて置いたの。
「どういうことですか? つまり、これは……。書かれていたのに、見えなかっただけ?」
「そう言うことだ。ルイーズ、ヴィクトールの目の前でもう一度見せてやれ。ここに手を置いてみろ」
そう言ってお祖父様は、何も書かれていないように見える方の便箋を指差した。
私は便箋の端っこの方に手を置いたわ。
「はぁぁぁ……」
「なかなか面白いだろう?」
「面白いと言いますか……。いろいろな意味で、驚きましたよ!」
お父様は字が浮き上がって読めるようになった便箋をテーブルから取ると、手紙を読み始めた。
ええっ。ちょ、ちょっと待って下さい! それって、どう考えても、私宛のお手紙でしたよね?!
「ほぉ。それは凄いな!」
「ん? ラファエルは、何と書いてきた?」
「ああ、その『鳥』ですよ。『手紙鳥』と言う魔導具だそうです」
「魔導具? これがか?」
「ええ。今は魔力切れの状態なのかな。この首のところにある魔石、ほら、これです。ここに魔力を込めるとまた動くようになるみたいですね」
「それで、どうやって届ける相手をこの『鳥』に伝えるんだ?」
「ちょっとお待ち下さい。今、続きを読みますから……」
お祖父様が持っている『鳥』は、お手紙を届けることができるの?
えええ。だって、ラファエルお兄様は今、とっても遠い場所に居るのに? そこからここまで飛んできたの? それは凄いわ!
「お祖父様。私にも見せて下さい!」
私はお祖父様から『鳥』を受け取った。
「ああ、なんだ。どうやら、こちらからこれを飛ばすのは無理みたいですよ」
「何故ですの?」
「この『手紙鳥』はハーランド王国にある魔導具屋が貸し出しているものだそうだよ。借りるときに、その道具屋で賃料を支払えば宛先を登録して貰えるそうだ」
「じゃあ、ハーランド国に居ない私たちには、使えないと言うことですのね?」
「そう言うことになるな。ラファエルは返却しない代わりとして、この『鳥』を買い取ったらしいぞ。飛ばすことはできないが、きっと気に入るだろうから、ルイーズにやってくれとここに書いてある」
お父様は便箋を私に手渡した。
あら? これって、私宛のお手紙では無いじゃないの!
ラファエルお兄様が封筒に私の名前を書いたのは、たとえ私宛のお手紙でも先ずはお父様のところへ届くこと、それをお父様は絶対に開封するだろうこと、何も書かれていなければお父様が私を呼び出すこと、全てお見通しだったってことね。
お手紙の最後に、私宛の短いメッセージが書いてあるわ。
親愛なる ルイーズ。
どう? 君ならきっとこの『手紙鳥』を気に入ると思ったんだけど。
僕もローレンスも元気でやっているよ。心配いらない。
そうそう。この鳥を鳥籠に入れて、魔力を食べさせてごらん。
くれぐれも、食べさせる魔力は、ほんのちょっとだよ。
愛を込めて ラファエル
魔力を食べさせる?
それって……どういうことかしら?
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