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58 第四皇女と届けられた手紙。

「ほお、これがネクタルを使って作った焼き菓子か?」

「はい、陛下。ネクタルの果肉で作ったコンポートをたっぷり乗せた一口サイズのタルトと、ペースト状にしたネクタルを混ぜ込んで焼いたケーキになります」

「なるほど、なるほど。これは見るからに美味そうだ。なあ、ファラーラ」

「そうですわね、陛下」

「ところで、ルイーズ姫。その、コンポートとは何だ?」



ヘンラー公爵ご夫妻と、飛竜騎士団長のファッジャー侯爵ご夫妻と、それから、ハインツ殿下をお招きして私が離宮で開いた昼食会を終えてすぐ、私は侍女のエルマ・クラウゼの手で大急ぎで支度を整えて貰ったわ。

それから、ハインツ殿下と、今回は私の侍女長であるヒセラ・モンカナを伴って王宮へと向かったのよ。もちろんセレストも一緒よ。

急いだ甲斐あって、ローラの焼き菓子を陛下と王妃様の晩餐のデザートとして、ギリギリお出しすることが叶ったわ。



「コンポートとは、果物を砂糖水で煮込んだもののことだそうです。ただ、ネクタルの場合は非常に甘味が強いので、砂糖は使わずに、水だけで煮ているのだと、私の料理人のローラが申しておりました」

「ほお、そうか、そうか。あい分かった。では、そのコンポートとやらが乗ったタルトの方から食してみるか」



そもそも、どうして私たちが今ここに、こうしているかと言えば。

昼食会のデザートとして提供した “ネクタル” を使って、ローラが作った新作の焼き菓子を食べたヘンラー公爵ご夫妻から『マキシミリアン陛下にも同じものを献上した方が良いのでは?』と提案されたからなのよ。


以前、私がヘンラー公爵ご夫妻を招いて開いた昼食会のことを覚えておいでかしら?

その時に振る舞われた料理の評判を耳にされたマキシミリアン陛下が、後々、私の料理人(ローラ)の作る料理を陛下よりも先にヘンラー公爵ご夫妻が食べたことに対して、随分と皮肉を仰られたそうなの。


でも本来、マキシミリアン陛下のお口に入る物は、選び抜かれた宮廷の料理人が最高の材料で作った物でなくてはならないはずでしょう?

それに、全て陛下よりも先に毒味係が試食するのだとも聞いたわ。

だとすると、例えマキシミリアン陛下が希望されたとして、そんな陛下を私が開く離宮での食事会に気軽にお呼びすることなんてこと、できないと思わない?



「あんな針の(むしろ)に座るような思いは、今後はもう二度と味わいたくないよ」

「それはそうね。それに、マキシミリアン陛下だけでなくファラーラ様も、美味しい焼き菓子を持ってルイーズちゃんが王宮へ行けば、きっとお喜びになると思うわ!」



ってことで、今に至るわけなのです。



「まあ、本当に美味しいわね。昨日ハインツが食後のデザートにと持って来てくれたネクタルも甘くてとても美味しいと思ったけれど、これはまた格別ね」

「そうだな。どちらも美味い。ハインツ、後でこれらの焼き菓子の残りを、ラディのところへも持って行ってやったらどうだ?」

「畏まりました」

「そうね。それは良いわね」



マキシミリアン陛下から “ラディ” との愛称で呼ばれたのは、ハインツ殿下のお兄様で、王太子でもあるラディスラウス殿下のことよ。王太子殿下と王太子妃のエリーザ様は、王宮の別棟でお暮らしになられているの。



「おっと、忘れるところだった! ルイーズ姫。其方宛に、グルノー皇国のヴィクトール皇王陛下から手紙が届いておるぞ」

「お父様からお手紙ですか?」

「ああ。後ほど手紙は部屋まで届けさせる。さあ、今日はもう遅い。また明日、ゆっくり話をしよう」

「はい、陛下。では、おやすなさいませ」



  ◇   ◇   ◇



「お戻りなさいませ、ちい姫様。随分とごゆっくりでしたね」

「ええ。エリーザ様とのお話が弾んでしまって……」



ここへ戻る前。ハインツ殿下と一緒に、ラディスラウス殿下とエリーザ様がお住まいの別棟まで、ローラが作ってくれた焼き菓子を届けに寄ってきたからね。

焼き菓子を届けたら、ご挨拶だけしてすぐに退室するつもりだったのだけれど、少しお喋りをしすぎちゃったかしら。



「それは、ようございましたね。ああ、そうですわ! 先程、マキシミリアン陛下の従者の方から、こちらをお預かり致しました。姫様宛のお手紙でございます」

「お父様からよね?」

「はい。そのようでございますね」



ヒセラから手渡された封筒の表には、懐かしいお父様の筆跡で私の名前が書かれているわ。



「あら? これ……」

「どうかなさいましたか?」

「この手紙。開封されていないわね」

「左様でございましょうとも」

「えっ?」

「お手紙という物は、()()()普通なのでございますよ」

「ええと、どういうこと?」

「ヴィクトール皇王陛下は、ルイーズ様に対して、少しばかり親バカ過ぎ……。コホン。失礼致しました。少々、過保護なきらいがおありですから」

「そうなの?」

「そうですとも!」



普通の父親は、娘に、それも年頃の娘に届いた手紙を、先に開封したりなどしないものだと、少し呆れ顔でヒセラは教えてくれたわ。

そうなのね。ちっとも知らなかった。


ああ。そんなことより、お父様から届いたこのお手紙を開封してみましょう。何が書かれているのかしら? 楽しみだわ!

ええと……。



私の可愛い末娘のルイーズへ


元気に過ごしているか? 何か不自由なこと、困っていることはないか?

楽しく過ごせているなら、それで良い。だが、もしザルツリンド王国の水が合わぬと少しでもお前が感じているのなら、約束の期間よりも早く帰って来ても構わない。いつでも迎えを出そう。


さて、ここからは少しばかり小言になるが、最後まできちんと読むように。

手紙を受け取った。先ずは、嬉しく思う。

だが、以前にも伝えたと思うが、手紙とは、頭に浮かんだことをそのまま取り留めもなく書き記せば良いというものではないぞ。

手紙を(したた)める上で重要なのは、伝えるべき内容はきちんと精査し、熟考し、簡潔明瞭を心掛けることであると私は考える。



うわぁ、何これ?! お父様のお小言が延々と……。

私が書いた手紙って、そんなに酷い内容だったかしら? んー。何を書いたのか、細かい内容なんて、私、すっかり忘れてしまったわよ。



「ちい姫様。ヴィクトール陛下は何と?」

「……手紙は、もっと精査した上で簡潔に書くべき。みたいなことよ」

「まあまあまあ。それはまた、陛下らしいこと」



それから……。



“聖なる森” で保護したという生き物に関してなのだが、おそらく聖獣のルーナリオンで間違いないだろう。

お前からの連絡を受けた後、こちらでも皇宮の書庫にある古い文献を調べ直させた。それらの中に

『清らかな森の奥深く、人が決して踏み入ることのできぬ地に、月の女神の加護を持つ、白く光り輝く獅子が暮らしている。その獅子は聖なる力を宿し、森と、その周辺に暮らすものたちを守りながら暮らしている』

との記載を見つけ出したのだ。

だが実際には、これまでルーナリオンの姿を目撃した者が居るという話すら耳にしたことはない。ルーナリオンはもはや我が皇国内ですら、御伽噺に出てくる架空の生物と同程度の認識で扱われている。

だが万が一、お前がその聖獣(セレスト)を保護していることが聖教会の知るところになれば、聖教会は間違いなく聖獣の引き渡しをお前に要求してくるだろう。そうなってしまえば、恐らくお前に拒否権はない。

セレストを手放したくないのであれば、秘密の管理には重々注意するように。



えっ。秘密の管理って言われても……。

セレストの存在に関しては、もう既に、随分と私の周りの人たちには知られてしまっているのだけれど。

少なくとも、ハインツ殿下と、マキシミリアン陛下をはじめとする王家の方々でしょ、飛竜騎士団の第7分隊の方たちもだし、私の侍女たち3人、護衛騎士3人、ギルドマスターのヴェルフさんと副ギルド長のケントさん。

それと……。そうだわ! 私、この王宮で “もふもふ会” まで開いちゃってるじゃないの!

どうしたものかしら……。



それより、手紙の最後に書かれているこの文章って、どういう意味なのかしら?



近々、お前を驚かせることが起きるだろうから、楽しみに待つと良い。

愛を込めて。

ヴィクトール・ドゥ・グルノー

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