10 第四皇女は11歳になりました。
「ルイーズ様。もうお支度はお済みですか?」
「ええ。完璧よ!」
「では、広間の方へ。皆様、既にお待ちですわ。お手をどうぞ」
「ありがとう、ジネット」
◇ ◇ ◇
ごきげんよう。ルイーズ・ドゥ・グルノーです。
お久しぶりですね。2年半振りくらいかしら?
私、先日11歳になりました。今から城の広間で、私の11歳の誕生日を祝う会があるのです!
よろしかったら、ご一緒にいかがですか?
「ルイーズ様、ブツブツ仰っていないで、もう少しお急ぎ下さい!」
あっ、怒られちゃった。
普段は「そんなに早く歩かない方が……」とか「もっとお淑やかにお歩き下さい!」って言うのに、今日は急がせるのね?
まあ、着替えに手間取ってしまった私が悪いのだけど。
彼女はジネット・シャルハム。相変わらず、私の侍女をしてくれています。
20歳になった今もジネットがこうして私の横を歩いているということは……。そうです、彼女はまだ結婚してはおりません。
余談ですが、18歳で成人を迎えるこのグルノー皇国では、早いご令嬢だと18歳を待ってすぐに! とか、20歳前後には結婚している方が多いようです。
私的には、ジネットが少しでも長く私の側に居てくれた方が嬉しいのだけれど。ふふふ。
「この扉の向こうで皆様お待ちです」
「分かったわ、ジネット」
「笑顔!笑顔ですよ、ルイーズ様!」
「分かっています。任せて、それなら得意だわ!」
広間には大勢のお客様。
グルノー皇国の第四皇女を祝うためというよりは、皇王陛下と少しでも話したいとか、第一皇子とお近付きになりたいとか、皇王妃との繋がりが欲しいとか、そんな思惑の大人がほとんどのようね。
皇王陛下であるお父様の挨拶の後、私は挨拶すれば良いのよね? 短めで、にこやかに、皇女らしく。
それから乾杯をして……。その後は、お父様の後ろをひたすらついて歩いて、指定の人物にご挨拶。笑顔で、優雅に、皇女らしく。
一通り必要なご挨拶を終えたら、今日のために料理人たちが腕を振るってくれた、美味しいご馳走を楽しみましょう!
あっ。アデルお姉様発見!
今私に優しい笑顔を向けて下さっているのは、アデル・ドゥ・グルノー。18歳。この国の第二皇女です。
アデルお姉様は、もうすぐヴィンガル公爵家のヘンリー様とご結婚されるのよ。
ヴィンガル公爵家は、セシリアお祖母様のご実家。つまりヘンリー様とアデルお姉様(私もだけど)は再従兄妹同志ってことね。
アデルお姉様が、このお城から居なくなってしまうのは寂しいけれど、ヘンリー様はとても良い方だし、お姉様のことを大事にしてくれそうなので、仕方が無いので認めてさしあげることにします。
ああ、今そのヘンリー様がアデルお姉様のところへ!
なぁんだ。ヘンリー様は、お姉様のためにお飲み物を取りにいらしていたのね。やっぱり優しくて良い殿方だわ。
彼はヘンリー・ヴィンガル。お姉様よりも一つ年上の19歳。ヴィンガル公爵家の嫡男。
さっきもちらっと言ったけれど、私たちの再従兄弟。
ヴィンガル公爵家のお屋敷がこのお城から近いこともあって、お二人は幼馴染。小さい頃からずっと仲良しなんだそうよ。
アルフォンスお祖父様とセシリアお祖母様みたいな関係ね。
「ルイーズ! 11歳の誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます、お祖父様!」
「プレゼントを渡したいから、後でお部屋までいらっしゃい」
「ありがとうございます、お祖母様!」
噂をすれば……って本当ね。今私を抱きしめて下さった二人が、大好きな私の祖父母です。
今日は正装をされているので、いつもよりも更に厳つい感じに見えるけど、中身はとっても優しいお祖父様。アルフォンス・ドゥ・グルノー。
この国の前の皇王陛下。今は気ままな旅人(本人談)。
「ルイーズ。相変わらず小さいなぁ」
「私は小さくはありませんわ、お祖父様。お祖父様が大き過ぎるのです!」
「そうか? はっはっは。そりゃ悪かった。元気そうでなによりだ」
そう言うと、お祖父様はまるで小さい子どもでも持ち上げるかのように、私のことをヒョイと肩の高さまで抱き上げた。
「あわわっ!」
「まあ、なんてことを! 悪ふざけはおよしなさいな。ルイーズが怖がっているではありませんか!」
「そんなこと無いだろう? 楽しいよな、ルイーズ?」
「怖くはありませんが、特に楽しくも……」
私の答えを聞いたお祖母様が、すぐに私を下ろすようにとお祖父様に仰って下さり、お祖父様は若干不服そうな表情を浮かべながらも、私をそっと床に下ろして下さった。
前皇王陛下であろうとも、愛するお祖母様には逆らえないらしい。
私のお祖母様、セシリア・ドゥ・グルノーは常に笑顔を絶やさない元聖女様。
その頃は聖女様の人数が今よりもずっと多かったらしく、当時はまだ皇太子だったお祖父様との結婚を機に、さっさとお祖母様は聖女業を引退しちゃったそうです。
見た目は物静かで穏やかそうに見えますが、実際のお祖母様はかなり熱血タイプの行動派です。
あら。向こうのソファーに、お母様と弟が座っていますね。
弟のジョルジュ・ドゥ・グルノーは8歳。やんちゃで甘えん坊な末っ子第二皇子。
末っ子特権を行使して、ジョルジュはいつもああやってお母様を独占しています。まあ、良いんですけどね。
「ルイーズ。何か食べるかい? 僕が取って来てあげようか?」
「お兄様!」
兄のラファエル・ドゥ・グルノーは15歳。とっても頼りになるこの国の第一皇子。
お兄様は「この国の外の世界をどうしても知りたい」とお父様に頼み込み、2年間だけ隣国に留学する許可を勝ち取りました。
この国には貴族が通う学校は無いので、私には学校で学ぶということがあまりよく分からないのですが、お兄様は相当楽しみにしているようです。
アデルお姉様もご結婚で居なくなってしまう上に、ラファエルお兄様まで留学が決まり、もう半年もしないうちに、このお城はすっかり寂しくなってしまうと思います。
私も、何か楽しくなることを考えなくては!
第四皇女である私にはアデルお姉様の他にも、聖女として聖教会でお暮らしになられているお姉様が二人いらっしゃいます。
こういった家族の祝いの日であっても、聖女であるお姉様たちが、お城に戻られることはありません。
第一皇女のクロエ・ドゥ・グルノー。22歳。
現在は大聖女様として活躍されています。
クロエお姉様は聖女としての能力が非常に高いらしく、6歳で聖女候補として聖教会に入ってすぐにその才能は開花。10歳で癒しの力を得て聖女に、18歳で強力な結界を張る能力を得て大聖女になった超エリート。
他所の国からの派遣依頼も多く、お忙しい毎日をお過ごしのようです。
第三皇女のヘンリエッタ・ドゥ・グルノー。13歳。
現在は聖女候補として聖教会で奉仕活動をしながら、他の聖女候補の方たちと共に光の魔力の扱いを学んでいるようです。
まだ聖女候補のヘンリエッタお姉様は、年に数回聖教会からお休みを頂いてお城に戻って来られますが、残念ながらお休みは好きに選べるわけではないようです。
ついでのようで申し訳ないですが、もうお二人の聖女様の近況も少し。
お父様のお姉様、マリアンヌ・ドゥ・グルノー伯母上様は、47歳の今も現役の “白の手” を持つ大聖女様です。
そのご活躍はの数々は大変素晴らしく、この大陸で大聖女マリアンヌ様の名を知らない者など居ないのではないかしら?
もうお一方。お父様の妹君の、グレーテ・ドゥ・グルノー叔母上様は39歳。こちらも現役の聖女様ですが……「早く引退したい!」がここ最近の口癖になっているようで、口実を作っては頻繁にお城に戻って来られています。
今日の私の誕生祝いには「絶対に理由を見つけて駆けつけるわ!」と仰っていましたが……。
未だお姿が見えないので、どうやら理由は見つけられなかったようですね。
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