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39 第四皇女と王太子妃。

「どうぞこちらをお使い下さい」

「まあ、随分と沢山の色があるのね!」

「そうですね。母が絵を描くことがとても好きなので、私と弟のところにも、随分長いこと絵の教師が来ておりましたから。その時の物なので、古くて申し訳ないですけど……」



ミーリア・ノルマンさんが貸して下さった “パステル” は、彼女が言ったように確かにかなり使い込まれているから決して綺麗ではないけれど、きっと子どもの頃に大事に大事に使っていたのだろうなと想像できて、なんだか借りてしまうのが申し訳ない気持ちになるわ。



「このままこちらで絵を描かれるのでしたら、ソファー席よりもテーブルのお席の方がよろしいですよね?」

「そうですね」

「では、そちらまで私がお運びしますね。ああ、そうでした。先にお伝えしておきますが、今日は王太子妃のエリーザ様も図書室にお見えになる予定になっております」

「そうなのですか? でしたら、私はこちらで過ごすのを遠慮した方が良いかしら?」

「それは問題ないと思います。エリーザ様は、ルイーズ様がこちらにいらしても気になさらないかと存じます」

「そう? なら良かった。では私は、ぱぱっと手早く描き終えてしまいましょう」



  ◇   ◇   ◇



「……ーズ様。ルイーズ様!」

「えっ?!」



名前を呼ばれていたことに気付いて慌てて顔を上げると、私のすぐ横に立っていらしたのは、王太子妃のエリーザ・フォン・ザルツリンド様だったの。

ああ、そうだったわ! 絵を描くことに夢中になっていてすっかり忘れていたけれど、ミーリアさんから『王太子妃様が後でお見えになる』と言われていたのだったわ。



「ごきげんよう、ルイーズ様」

「まあ、エリーザ様! 私ったら、声をかけて頂いていたのに気付かずに、大変失礼致しました!」

「別に気にしておりませんわ。……それにしても、随分と集中してお描きになられていらっしゃるのね。いったいルイーズ様は、何をそんなに熱心に描かれているのかしら?」

「ああ、ええと……。セレストです」

「セレスト? ああ、あの時の神獣様のことね。えっと。……そう、なのね?」

「やっぱり……。全然そうは見えませんよね?」

「あ、ええと、私は余り絵には詳しくなくて」

「良いのです、気を遣って頂かなくとも。私も、ここまで自分に絵の才能がないとは思っていなくて。実は、ルカ様とニコ様からこのお手紙を頂いたのです。可愛らしい絵が描いてありますでしょう? だから私も、お返事をと思ってセレストの絵を描いてみてはいるのですが……」



エリーザ様は、私が差し出した双子ちゃんの描いた絵を、真剣な面持ちで覗き込んでいるわ。

ぐすん。なんなら、私の描いた絵の方が、3歳児が描いたものよりも、セレストには見えないのよ。何度描き直してみても……。



「ああ、でも。双子ちゃんにはちゃんと伝わると思いますわ!」

「……そうでしょうか?」

「ええ。きっと! それよりも、先日は折角のお茶会の席だったのに途中で退席してしまい、本当にごめんなさいね」



そうだったわ!

あの日、とあるご令嬢がお茶会をしていた中庭に乱入してきたせいで、エリーザ様は気分が悪くなってしまい、お茶会の途中で席を立たれたのだったわ。

結局そのご令嬢と取り巻きの方たちも、王妃様の一声ですぐに中庭から追い払われてしまったのだけれど。そんなこともあって、あの日のお茶会はすっかり水を差された形になってしまったのよ。



「お詫びと言うもの違うかもしれないけれど、来月半ばに、少し大きめのお茶会を開こうかと検討中なのよ。是非そちらのお茶会に、ルイーズ様もいらしてね」

「そうなのですね。では、招待状が届くのを楽しみに待っています」



()()()のお茶会ってことは、当然、例のご令嬢たちにもお声掛けはされるってことよね?

アルマンダ様も、その振る舞いはさて置き、ジャビル公爵家の一員ですもの。

エリーザ様が開くお茶会が極個人的な小さなお茶会でないのなら、周りとの兼ね合い上、どう考えてもお声掛けはしておかなくてはならないわよね。

尤も、あんなことがあったばかりだから、今度のお茶会にアルマンダ様が参加するかどうかは分からないけど……。

ああでも、あの性格ですもの。きっと、何事もなかったかのようなお顔で、堂々と参加されるのでしょうね。もしかして、また赤いドレスだったり?



「ねえ、ルイーズ様。もしかして、そこに置いてある本って……」

「ああ、これですか? これは借りて帰ろうかと思っている本です」



エリーザ様は、私が机の端に置いていた本を指差されて尋ねられたの。



「それって」

「これですか? これは私の大好きな “冒険物語り” の始まりの巻です。小さい頃にこの本に出会って。とは言っても、最初に出会ったのは実際にはこの第1巻ではなくて第3巻なのですけど。このシリーズは、私が本を大好きになったきっかけの物語りなのです」

「まあ、そうなのですね! 私もそのシリーズは大、大、大好きですわ!」

「本当ですか?」

「ええ。捕われの姫君を勇敢な騎士様が助けに行くシーンはどの巻もとても素敵ですよね! ハラハラしたり、ドキドキしたりしながら毎回ページを捲った覚えがあります」



うわぁ。こんなところでこのシリーズの “愛読者” に巡り会えるなんて、なんだか夢みたいだわ!

エリーザ様とはこの本だけでなくいろいろと話も合いそうだし、もしかすると、今よりもっと仲良くなれるかも♪



「あら? でも、この本はリーガ語で書かれていますよね。グルノー語に、翻訳なんてされていたかしら?」

「いいえ。私が持っているものも、全てリーガ語で書かれているものですわ」

「えっ、でも、先程ルイーズ様は()()()()に出会って読んでいたって仰いましたわよね?」

「はい。この本を自分で読みたくて、私、一生懸命にリーガ語を勉強しましたわ」

「まあ! それは素晴らしいですね」



それから、この “冒険物語り” をきっかけにすっかり意気投合した私とエリーザ様は、図書室の奥にあるソファー席へと移動して、お互いの子どもの頃の思い出話しをしたりして、随分と盛り上がったのよ。



「ああ、そうだわ! ルイーズ様。ルカ様とニコ様へのお手紙に、聖獣様(ルーナリオン)をお描きになりたいのでしたよね?」

「ええ、なかなか上手く描けないのですけれど……」

「でしたら、何かを参考にして書かれるのは如何でしょう?」

「参考に、ですか?」

「そうです。例えば、神話とか伝説とかの本とか。それらの中に挿絵があったりしませんか?」

「セレストを今後どうするかについて話し合いをした時に分かったことなのですが、ルーナリオンって、聖獣の中でもとても珍しい生き物らしいのです。ハインツ殿下もいろいろと調べて下さったのですが、ルーナリオンに関しての詳しい生態などは殆ど分かっていないようなのです」

「では、挿絵などは」

「全くありませんでした」

「あら、残念。実は私も絵は不得手で、真似して描けば少しは良いかと思ったのですが……。浅慮でしたね」

「そんなことはありませんわ」

「ああ、そうよ! そうだわ! 私、とっても良いことを思いつきました!」



エリーザ様は何か余程良いアイデアを思いつかれたらしく、そう言って、嬉しそうに目をキラキラと輝かせながら、私の手を取って立ち上がられたの。



「ルイーズ様。今からちょっと一緒に探し物をして頂けるかしら?」

「えっと……」

「すぐに見つかると思うのよ。確か、第4巻か第5巻だったと思うの。あら?……第6巻だったかしら?」

「あのぉ、エリーザ様。いったい何をお探しになられるのですか?」

「シルバーリオネルよ!」

「シルバーリオネルですか?」

「そう! あのシリーズのどこかに騎士様がシルバーリオネルと戦う場面があって、その場面が挿絵になっているのよ!」



えええ?! あのシリーズの中にシルバーリオネルなんて登場したかしら? していないわよね?

空で全てすらすらと語れる程にあのシリーズをしつこく読み込んでいる私の記憶のどこにも “シルバーリオネル” なんて単語は引っかからないのだけれど?

きっと、エリーザ様の勘違いよね?

それに、どうして急に “シルバーリオネル” なの?

お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪

この作品は、ちょっとゆっくり目の更新になりそうですが、続きが気になる! と思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします!

思わず嬉しくなって、更新ペース上がっちゃう……かも?

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