プロローグ
新作です!
今回は、お肉が食べたい皇女様のお話し。
更新ペースはちょっとゆっくり目。週3話位はupしたいなぁと考えています。
お付き合い頂けると嬉しいです。
「なあ、あの木。あそこにへばり付いている金色のふわふわ。あれ、何だと思う?」
「……おそらく、子どもでしょうね」
「だよな。まあ、僕たちだって……まるっきり子ども扱いだけどな」
「実際、まだ子どもですからね」
広い庭の一角に、立派な枝振りの木が植えられていた。
その木の根元のところに小さな女の子がうずくまっている。金色のふわふわの長い髪が小さな体を包み込み、美しい毛先が地面につきそうになっていた。
「どうかしたのか? そんなところにうずくまっていると髪が汚れてしまうぞ」
振り返ったその子は、背後から突然かけられた声に驚いたのだろう。晴れた空色の綺麗な瞳を大きく見開いてこっちを見た。
「ことりしゃんが……」
「小鳥?」
その子がそう言って開いて見せた小さな両手の中に、およそ小鳥には見えない塊が乗っている。
「それが、小鳥なのか?」
「しょうでしゅ。あしょこからおちてきたの」
そう言って、その子は上を見上げた。
「ああ、あそこに巣が見えますね。おそらく、そこから落ちたのでしょう」
「そうだな」
「あしょこにかえれば、また、かじょくとくらしぇましゅ」
「無理ですね」
「むりではないでしゅよ! ルルがのぼって、かえちてあげるんでしゅ!」
僕の隣に立っていたヨハンが、呆れ顔で小さく溜息を吐いた。
「ねえ、その小鳥。どうしてそんなにぐるぐる巻きになっているんだ?」
「ちゅばしゃが、いちゃい! ってゆうの。だからなおちてあげた」
きっと、自分の髪に結んであったリボンを外して、それを包帯に見立てて小鳥を包んだのだろう。
女の子は左腕でその塊を大事そうに抱え、右手で木に抱きついた。
「無理に決まっているでしょうに……。これだから子どもは」
ヨハンが呟く。
確かに誰がどう見ても、無理なことは明らかだ。
「貸してみろ。僕が代わりに、その小鳥を巣に戻して来てやる」
「殿下! 危険です。やめて下さい!」
ヨハンが僕の腕を掴んで制止する。女の子の大きな瞳が、そんな僕たち二人を交互に見ている。
僕はヨハンの手を静かに振り解いた。
「ほら。貸して!」
小さな手が僕に差し出された。僕は塊を受け取ると、木に登る。
僕だって別に木登りが得意なわけじゃ無い。でも、ここは何としてでも登らなくてはならない場面だ。
巣の中には小さな雛が4羽。
まだ目が見えていないらしく、僕の気配に親鳥が餌を運んで来たと勘違いしたようだ。口を大きく開けて餌をねだっている。
「へえ、雛の口が大きいのは親鳥の本能を刺激するためだって習ったけど、それって本当なんだな。面白い。はい、これ。今から下に落ちていたお前たちの兄弟を返すぞ」
僕はぐるぐる巻きのリボンを慎重に解いていく。小さな雛が顔を出した。
「傷付いた雛が生きていかれるほど、世の中はそんなに甘くはないけどな……」
だがあの子と約束をしてこうして預かってきた手前、この雛を巣に戻さないわけにもいかない。
「あれ? 翼……。どこも怪我なんてしていないじゃないか!」
怪我をしていたというのは、あの子の勘違いか? 木から落ちれば怪我をするもの、とでも思い込んでいるのだろう。
だが、巣に戻したところで、この雛にはあの子と僕の匂いがしっかりと染み付いてしまっているはずだ。親鳥が餌をやらない可能性だってある。
「大きくなれると良いな。頑張れよ!」
下に降りると、満面の笑みを浮かべた女の子と、非難がましい顔のヨハンが待っていた。
「上に兄弟が居たぞ。もう大丈夫だ!」
「ありがちょ」
それから僕はその木の根元に座り、親鳥が戻って来るのを待つことにした。ちゃんと家族の元で暮らしていけるのか、僕としても気になっていたから。
僕は、暇つぶし用にと持っていた本をヨハンから受け取る。
「えほんでしゅか?」
「絵本、ではない。挿絵も少しはあるが……。一緒に読むか?」
女の子の顔がパッと明るく輝いた。
女の子はとても感情が豊かで、見ていると表情がころころと変わって面白い。
女の子は僕の膝の上にちょこんと座った。
「えっと、ここに座るのか?」
「ダメでしゅか? おにいたまは、いちゅもこうして、えほんをよんでくれましゅよ」
「そうなのか? なら、まあ、仕方無いな」
僕は本を開いた。
文面通りに読んでもきっと小さなこの子には分からないだろうからと、少し大袈裟な脚色を付けて、大筋だけを話して聞かせることにした。
この本は僕の国で人気の冒険譚で、騎士とその従者が、危険を顧みず魔族に捕われた姫を助けに行くシリーズの中の一冊だ。
「これは、なんでしゅか?」
女の子は挿絵の描かれたページが出てくる度に、こうして僕に質問を投げかける。
「これ? ああ。さっき二人が大きな獣を倒しただろう? その肉を食べるために、こうして焚き火で串刺しにした肉を焼いているんだ」
「にく?」
「そう、肉! まあ、君みたいな小さな子は、きっと串肉なんて食べたことは無いんだろうな」
女の子は、きょとんとした可愛らしい顔で僕を見上げた。
城の中を一人で歩き回っているくらいだから、王族か、そうで無くとも、かなり身分の高い家の子なのは間違いない。
「それにしても、侍女も付けずにこんなに長い時間一人でウロウロしていて、大丈夫なのでしょうか?」
まるで僕の心を読んだかのようにヨハンが呟く。
「ルイーズ様! ルイーズ様!」
「ルイーズ様、どちらにお隠れなのですか? 隠れんぼはもうお終いにして、早く出てきて下さいませ!」
その時、向こうの方から数人の女性たちが叫びながら近付いて来る声が聞こえて来た。
自分のことを “ルル” と言っていたこの子を探しているので間違い無いだろう。
「ルル。僕たちはもう行くよ」
「でも、まだおはなちは、おわっていないでしゅよ」
「そうだな。ならば、続きは君の兄上に読んで貰うと良い。この本は君にあげるよ。その代わり、僕たちに会ったことを内緒にしておいてくれるか?」
「ないちょ、でしゅか?」
「そう。内緒。できるな?」
「あい! できましゅ!」
「お利口さんだ! じゃあ、さようなら。元気でな、ルル」
僕とヨハンは、侍女たちが到着する前にその場を後にした。
「あれ?」
「どうかされましたか?」
「……。いや、何でも無い。早く戻ろう!」
雛を巣に戻して木から下りる際、枝に引っ掛かってできた小さな切り傷が全部綺麗に治っている。
僕の膝の上に座っていたルルが「いちゃいの?」と僕に尋ねて、その傷の上に手を当てていた。
振り返ると、ルルが侍女の一人に抱えられて城の方へと戻って行くのが見えた。
ルルは、とても大事そうに僕の本を抱えていた。
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