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我が家の犯罪者

作者: どく・にく

 夏休みと言えば、皆さん何を思い浮かべるだろうか。

 山、海、花火やかき氷──などなど色々有るのだが、私が今回取り上げるのは「宿題」である。

 提出物一覧に記載されたおびただしい項目量に、眼を回した経験は、誰しも一度は有るのではないか。

 私の妹もその例に漏れず、エアコンの効いた部屋でうんうんと唸っていた。

 宿題の種別は、人権作文。

 私はこれの校閲を、両親直々に頼まれたのだ。

 彼女の国語能力は驚くほど低く、私が「お前って物忘れが酷いよな」と言えば「あたし、忘れ物とかしないよ?」と返ってくる始末。とても中一とは思えない。

 両親はこの事態を重く見ており、そこで、ラノベ作家を目指す私に、白羽の矢が立った次第である。

 ご丁寧に、野口英世を2人も用意して。

 しかし校閲をしろと言われても、そもそもの原稿ができていなければ、することもない。

 なのでリビングで、悠々と読書をしていると、


「書くの手伝ってやりなさい。じゃないと二千円はナシね」


 と母。後から条件を追加するとは、とんだ詐欺雇用主だ。労基に駆け込んでやろうか。

 そんなこんな有って、妹の部屋へ……行けなかった。

「自分でできるから入ってこないで!」と大声で怒鳴られてしまった。

 自分の宿題に口出しされるのが気に食わないのだろう。そうは言ったって妹よ、もう書き始めてから半日だぞ。

 しょうがないので、リビングに戻って読書を再開。

 この調子だと、最後まで読めるだろう。

 ──しかし、その予想は裏切られることとなる。

 小説が終盤に差し掛かった辺りで、唐突に「できた!」の声が耳をつんざいた。お前は某公〇式教室か。

 私は部屋から飛び出してきた妹を捕まえ、原稿をブン取る。

 ざっくり眼を通すと、どうやらポイ捨て問題について言及しているらしい。無意識にポイ捨てをする人間の心理はどういったモノなのか、掘り下げられていた。

 ふむふむ。所々に違和感は有るものの、目立った文法ミスは見当たらない。

 正直びっくりした。

 私はてっきり、もっと内容が乱雑で、文法もめちゃくちゃな駄文を寄越してくるとばかり思っていたのだが。どうやら私は、この愚妹の評価を改めなくてはならないらしい。


「凄いなこれ。まあまあだけど、よくできてるよ」


 まあまあ、と付けたのは、単なるプライドだった。


「うん。書きやすそうな記事見つけたから」


 お、おう……?

 その返しに、引っ掛かりを憶えた私は、まさかなと思いつつ、彼女に詰め寄る。


「なあ、まさかとは思うけど、その記事を丸々写したりとかしてないよな?」

「うん。ちゃんと少しづつ表現変えたり、自分の感想入れたよ」


 私は愕然とした。

 ある意味で作家志望の敵とも言えるモノが、そこにいた。

 こいつ、パクりやがった。

 半日掛けてやったことがネット記事の剽窃かよ!

 しかも聞き出した感じ、「ポイ捨て 無意識」でググって一番最初に出てきたページかららしい。もはや、救いようがない。

 笑いながら「バレないって~」とかほざく愚妹を無視して、両親に報告。

 当然こっぴどく叱られ、作文は書き直す運びとなった。

 それから、これは後から両親に聞いた話なのだが、あの時私が見せられた作文は、なんと規定枚数に達していなかったのだとか。

 一体全体、「できた!」とは何だったのだろうか。永遠の疑問である。

 結局私は、徹夜で妹の執筆に付き合うこととなり、二千円の臨時報酬を得ることとなったのだけれど……、労働に対して金額が少なすぎる。やはり労基に駆け込むべきか。

 しかし、今日中(午後26時は今日中だ)に書き終わっただけ、まだマシとも言えるか。

 うん。今回はそれで良しとしよう。

 私はそう自分を納得させ、寝室へと──行こうとした所で、母に呼び止められる。


「明日は読書感想文をお願いね」

実話です。

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