9・春休みです
二学期と三学期の間にも短いが春休みがある。
冬休みよりも短いので今度も4人とも寮にいる。
「ねえミーナ、マナが出来なくて落ち込んでいてもしょうがないから、ドーツナの町に行って気晴らししない」
「良いねキャロル、ミーナ行こう」
「うーん、わかった」
「俺も付いて行くぞ」
4人でドーツナの町にでる。王都にも商店街や飲食街があるが、田舎者の平民には敷居が高く入りづらかった。
ドーツナの町は王都の周りに人が集まり出来た町だ。
この町の運営は貴族のドーツナがしている。あまりに人が集まったので、王都議会がドーツナに任せたのだ。
4人で街の中をうろうろする。
「人がいっぱい、この辺の人だけで、私の村の人より多いわ」
「そうねキャロル、私のところも、こんなににぎやかになる所なんかないわ」
「俺のところは港町だから活気があるぞ」
私は故郷の話に入れない。都市キグナスの知識がほとんどないからだ。まさかロベルト帝国の話をするわけにはいかない。
「ミーナの町はどうなの」
「うーん、わかんない」
とにかく言葉を少なくするんだ。
「それより、みんなは新しいスイーツ店のうわさを聞いたことが有るか」
「あるよ、冷たいお菓子が出てくるんでしょ」
「その店って、リコの家のバレッサがやっているんでしょ」
「うーん、食べたい」
はじめに冷たいお菓子を出すスイーツ店はナーマムにでき、その後タクロアとドーツナに出来た。
「リコの家の店なら、意外とローズ学園に一番近い門のこの辺にあるんじゃない」
王都には8つの門がある。ローズ学園は授業で学園管理の森に行くので門の近くに建っている。
街道の集まるのとは反対の門だが、人が集まりすぎたドーツナは、街道の反対側でも、多くの人が住んでいた。
「おお、本当に有ったぞ。あの4人の中にスイーツ好きがきっといるな」
「エマも好きでしょ。女の子はみんな好きです」
「じゃ,入ろ」
「うん」
4人で店に入る
「いらしゃいませ。4人様ですね。こちらにどうぞ」
『好きな席は得ればせてくれなんだ。』
そう思ったのが顔に出てしまったらしい。
「ごめんなさいね。混んでいるときは、こちらで席を選ばせてもらっているの」
それでも窓際のテーブルに案内してもらった。
「こちらがメニューになります。わからないスイーツの名前がありましたら、遠慮なく聞いてくださいね」
4人でメニューを眺める。
「ほんとだ、一番上に書いてある『アイスクリーム』って、初めて聞くね」
「ペネロペは、それ以外は知っているのですか、うちの村では、ここに書いてあるものは一つもありません」
「確かに知らない名前ばかりだな」
「うーん」
アイスクリーム、多分知っている。ミルクを氷で冷やして固めたものだ。
ロベルトなら、冬に氷が出来るので作ることが出来る。ただ寒い時に冷たいスイーツは無理だ。
この世界には夢見人が現れるから、氷さえあれば同じものが作れても不思議ではない。
でももう春だ。氷が手に入るわけがない。
「ミーナ、このアイスクリームってのが食べたい」
「私も」
「私もね」
「俺もだ」
「おねえさん、アイスクリーム4つ」
代表してキャロルが頼んでくれた。
出てきたのは白いお菓子だった。
「冷たくて、あまーくて、とっても美味しいね」
「おお、美味しいな、これはいい」
「んっんっんっ」
ペネロペだけはスプーンを銜えて言葉にならなかった。
確かにアイスクリームだ。この店はバレッサの経営だといったな。
これが毎日食べられるなら、秘密組織の命令ではなくてリコとは友達になりたいな。
なんとこの店は学園の生徒割引があった。
「お客さんのマント、ローズ学園のですよね。割引しておきましたよ」
かなりの割引料である。これはきっとあの4人が強要したに違いない。
マナに関しては春休みも進展のないままだった。
しかし、ここは楽しい。何としてもマナを覚え、ロベルトに帰らないで済むようにしよう。