8・一年生の二学期です
王都から出ることなく冬休みが終わり二学期が始まる。
始業式は学園長の挨拶で終わった。
「皆さん、薬作りは進んでますか」
二学期の授業、一発目の先生の言葉がこれである。
「はーい」
クラスの半分が答えた。
10人のクラスである。私たち3人のほかにも薬が出来ていない人がいるみたいだ。
「ねー、もう課題提出したの」
「うん、簡単なの作ってさっさと出しちゃった」
「あたしは、もうちょっといいのを作りたくて、ぎりぎりまで研究するつもり」
残りの人も作れないんじゃなくて、出来るだけいいものを作ろとしてるのだ。
「ペネロペ、ミーナ、薬が作れないのって私たち3人だけじゃないのかな」
「そうみたいね」
「えーわかんない」
ただの薬を使って、切ったり擦ったり煮込んだりの練習は続けてきた。
切るときはナイフから、擦るときは擦り棒から、煮るときにかき混ぜるマドラーからマナを流し込むという。
そのマナにより、薬草のマナを薬になるように整えるそうだ。
他の生徒の見様見真似をするが、マナがわからない。
「ねえ、二学期は勉強会を減らして、とにかくマナを教えてくれる人を探しましょ」
キャロルの提案である。
「そうね、筆記試験のほうが自信がついてきたから、とにかくマナね」
「うん、ガンバッ」
こうして午後の自習時間は訓練所に通うことにした。
同級生だけでなく、教えてくれそうな先輩にも声をかけていく。
恥ずかしいので、小声でかけていくので。
「えっなに、聞こえない」
訓練所は騒がしく、うまく声が届かない。そして話を聞いてもらっても。
「うーん、マナって自然に覚えちゃったから教え方なんて知らないな」
教え方を知っている人がいないのだ。
「お前らまだ教えてくれる人見つけられないのか」
魔法科の教室から遅れてきたエマが話しかけてきた。
「そうなの、いろいろ声をかけるんだけど、マナの教え方ってみんな知らないの」
「そうか、じゃあきらめて、退園だな」
「「「エマ冷たい」」」
「まあ、そういうな。それより少しだけいい話があるぞ。ナルが魔法を使えるようになってな顔が明るくなったんだ」
「それがどうしていいことなの」
キャロルは意味がわからなかった。
「リコたち4人はナルが魔法を使えないで悩んでいたろ。これが解決したから今なら話しかけても大丈夫じゃないか」
いやいや、確かに一学期のように真剣な顔ではなくなった。しかし、今はキャピキャピしすぎてないか。
「ナルがうれしくてうれしくてしょうがない顔をしていて、やっぱり話しかけづらいよ」
「ほんと、嬉しそうに長い杖をもって振り回していますね」
「キャロル、ペネロペ、あの棒なあに」
「ニーナあれは棒ではない、魔法の杖だ」
ナルが説明してくれる。
「多分あの杖のおかげで、ナルは魔法のコツを掴んだだろうな。見たところ立派なコトブキで出来ている。どこで手に入れたか知らないが、あれは国宝級の杖だぞ」
「あの4人組はいろいろ奥が深い人たちですね。ますます声がかけづらくなります」
キャロルはちょっとした人見知りのようだ。
「ナルが新しい魔法の杖で魔法が使えるようになったのはわかったけど、エマは魔法の杖を持ってないでしょ、どうしてるの」
「別に杖がなくても魔法は使えるぞ、あれは魔法を整える為に使うのだからな。杖は魔力を整えて安定させるので、魔法が使いやすくなるんだ」
「じゃあエマは何も使わないの」
「まあ、学園に入るときに魔法科なら必要かなと思ってな一応魔法の杖は持ってきた」
エマが魔法の杖を見せてくれる。
「それってマッチ棒」
「ちっちゃ」
「ふー、飛んでけー」
「おいおい、これでもちゃんと使えるんだぞ」
エマは杖を指でつまんで振り下ろす。
「ファイヤー」
魔法科の訓練用の的に向けて火の玉を放つ。
ドッカーン
的に当たり火の玉が爆発した。
訓練所いるすべての人が振り返った。
「まあ、こんなもんだ、だが海の魔獣を相手にするのはこれじゃない。銛や剣を使うんだ」
冒険者の武器は銛と剣である。これを発動した魔法で包み込んで使うのだ。
彼らはマギコーティングと呼んでいる。
「海の魔獣って、どんなのがいるの」
「俺たちが主に戦うのは、魔鮫、おお魔ダコ、巨大魔イカ、1メートル近い魔ガニだな。魔クジラもいるが、襲ってくることがないから戦ったことはない」
マギコーティングした剣でないと、ヌルヌルの大ダコや巨大イカを切ることが出来ないそうだ。
銛もコーティングしないと魔鮫の皮を通らない。
魔ガニは、関節の部分を切り落とすそうだ。
森の魔獣はテリトリーがあり、人間と遭遇する機会は少ない。
しかし森と違って海は嵐があると、とんでもないところの魔獣が現れるのだ。
「エマ、泳いでいくの」
「馬鹿なことを言うんじゃないミーナ、魔獣のいる海に入ったら一発でやられてしまう。俺たちは船に乗って戦うんだ」
それはそうだアホなことを聞いてしまった。
この日もリコたちに声をかけることが出来なまま訓練所から帰ってきた。
結局二学期もマナの習得は出来なかった。
期末試験もペネロペに負け、このままでは本当に二年生に成れずに退園になってしまう。