6・魔法科の授業です
魔法科は定員10人なのに今年は5人しかいない。
エマが冒険者なのに魔法科に回された理由でもある。
「あー魔法科の授業はつまらない。冒険科で思いっきり暴れるつもりだったのに」
「でも、今は冒険科もほとんど座学ですよ」
共同授業で一緒に座っているのだからエマもわかっているはずだ。
「キャロル、それはわかっているが、せめて自習時間だけでも訓練室に行って暴れたいんだ」
「エマ、魔法科も魔法訓練で訓練所に入れるはずでしょ」
「それがな、魔法科なのに魔法をろくに使えるやつがいないんだ。訓練所に一人で行っても何にもならんしな、そこで一度先生に手合わせを頼んだのだ、そしたら断られた。あいつは授業では教科書を読んでいるだけだ。まだ実技の授業がないからばれていないが、高度な魔法は使えないみたいだぞ」
魔法の未熟な生徒は訓練所で訓練する。エマはすでに学園で教わるくらいの魔法は習得している。
エマから他の魔法科の生徒に聞くことも無いし、エマがちょっと怖そうに話すので誘ってくれる人もいなかった。
そして、いきなり訓練所に行って冒険科の生徒に。
「みんなまとめてかかってこい」
と叫んでも、誰も相手をしてくれないだろう。
「そこで何でリコさんなんですか」
「そうそうリコだ。魔法科のナルの話では、リコはバレッサ製薬の孫でもあるが父親は冒険者らしい、それもかなり優秀で、その父親に冒険者としても鍛えられていると言っていた」
エマはリズとリコの話を聞いてから注意して彼女らを見てきたのだ。
「それだけではない、リコは少しだけ魔力があるということになっているが、どうも魔力を意識して外に出さないようにしているように見える。本当の実力を見せないのだ」
「リズさんとリコさんのお母さんがバレッサの娘で、小さい時からお母さんから薬草や薬づくりを教わってきたと言ってましたよ。それにバレッサは魔力を使ってポーションを作っているから、リコが魔力を持っていても不思議ではないですよね。とても冒険者には見えないんだけど」
ペネロペも薬師の娘である。彼女にはリコとリズが普通に薬師の娘に見えるらしい。
「あのーバレッサってなーに」
私はバレッサが何なのか知らない。
「えーミーナってバレッサ知らないの。メシール王国の人で知らない人に初めて会ったよ」
やばい、やばすぎる。ここの常識の一つなのか、バレッサを知っていることは。
薬師の娘のペネロペだから知っているのではないのか。
焦りまくってしまう。
「おい、話を横道にそらすな。ナルの話を聞いてから、まあ彼女らを注意し見たんだ。そうしたらあの二人まったくスキがないんだ。ただの薬師の娘なんかじゃないな、そこで同じ薬学科なら何か知っていないかと思ったんだ」
「彼女らとは挨拶くらいしかしたことなよね」
「ええ、ペネロペ。でも今度こちらから話しかけてみない」
キャロルの提案である。
そうだ、あの二人ならマナの使い方を教えてくれるかもしれない。
それに私はリコが特別なことを知っている。そのために此処にいるのだ。
「ミーナもリコと友達になりたいな」
知り合う切っ掛けはこっちも欲しいくらいだ。
「お前たちも興味があるのか。ならばみんなで話しかけてみようではないか」
リコたちは4人一緒にいる。私たちも4人で行けば話の相手くらいしてくれるだろう。
「ねえ、エマ。魔法科はつまらないって言ってたけど、暴れられないだけが理由なの」
エマの話では、魔法科は人数か少ないので一年から三年まで一緒の授業が多いそうだ。
一緒に授業をするのは人数が少ないだけが理由ではなかった。
魔法の実技は3年生が教えるそうだ。先生が教えるのは基本的な魔法の発動だけである。
「魔法科で俺が覚えるようなことが無いんだな」
エマは3年の実力を見てそう判断したようだ。
なぜ魔法科がこんな風になったのか。
メシール王国では7歳の魔力検査で強い魔力のある者のほとんどは、魔法省の訓練所にいく、そして魔法省に入るか、魔法省の関連する所で働いている。
もうかなり前からローズ学園の魔法科は魔法省に行けない落ちこぼれが来るところと思われているようだ。
「ねえー、ナルからリコのこともっと詳しく聞けないの」
「ミーナはリコがよほど気になるんだな。だが、ナルは魔法が上手く使えなくて悩んでいる。リズやリコのことはうれしそうに話してくれるが、それ以外の話をほとんどしないんだ」
「エマが教えてあげればいいんじゃないの」
「うまく言えないんだが、ナルの魔力は俺以上だ。強すぎて使いこなせない気がする。そうすると俺では教えることがない」
大した魔法の使えない先生ではもっと教えることが出来ないだろう。
マナに問題を抱える私たち3人と暴れたくてしょうがないエマだが、中間試験は無事に終えることが出来た。
そして試験の成績表が配られた昼休み同室の4人いつものように食堂にに行く。
食堂の椅子に座りながら中間試験の成績表を取り出した。
点数と順位が描かれている。点数は十分に落第しない結果だったが。
「えへへ、ミーナに勝っちゃった」
成績表を脇から覗き込んだペネロペに言われる。
入試で最下位のペネロペに負けたのだ。
「ミーナ、薬草のことまだよくわからなかったんだ」
一緒に勉強していたが、やはり薬師の娘にはかなわなかったようだ。
「でも、今回の成績はみんながよかったって、タミ先生が言ってたよ」
みんなが頑張っていたのか。私は落第しないくらいに頑張ればいいんだよね。
ここに来た目的はリコの情報を集めることだし。
試験より問題はマナだよね。マナが使えないと退園にされてしまう。
「お前ら試験もいいが、マナは使えるようになったか」
成績優秀のエマだ、わかって聞いて来ているな。
「まだ駄目ですね。中間試験の後は実技も有るので何とかしてしたいんですよね」
キャロルも村の期待を背負って学園に来ている何とかしたいのだ。
中間試験後の薬学科では実技が始まる。
初めに、薬草づくりの道具や器具の扱い方の説明があった。
次に道具や器具を使い、薬草の刻み方、擦り方、煮方などを教わる。
「えー皆さんはの中には初めて薬草の加工をする人もいると思います。初めての人は薬草が貴重なので、ただの草を使って器具や道具の使い方を覚えてください」
「良かったですね、ペネロペ、ミーナ、マナが使えなくても一学期は持ちこたえそうだね」
「でも三学期が終わるまでに課題の提出をするようにとも言っていたよ」
「じゃあ、二学期も大丈夫だね」
「ミーナ、そんなこと言ってると三学期に間に合わなくなってしまいますよ」
キャロルに怒られてしまった。
薬の種類は決められていない。とにかく何でもいいからい作れるようにならなければ。
マナを教えてくれる人はなかなか見つからない。
「ねえ、自習時間になったら訓練所に行ってみない」
「どうしたのキャロル、あそこに行ってもやることないと思うの」
「私たちが何かするんじゃなくって、冒険科の生徒はマナの使える人が多いでしょ、誰か教えてくれる人がいないかと思って」
「いく、ミーナいく」
「俺もついていくぞ」
午後の次週は4人で訓練室に行くことになった。
訓練所には薬学科のリズとリコが、ナルやアニスと一緒にいる。
「リコが訓練所にいるよ」
そういえば、リコもリズも薬学科の自習時間に教室から居なくなっていたな。
「あれはナルの魔法制御の練習のために来ているらしいな。まあ、リズとアニスはマナの使い方はうまいし、リコも少しは魔力があるようだが、ナルを教えるのは難しいだろうな」
それから私たちはマナを教えてくれそうな人を探しに自習になるたびに訓練所に行っていた。
エマも魔法科の教室ではやることがないので着いてくる。
そして、リコたち4人もいる。訓練所に通っているのだ。
私たち4人は冒険家の生徒の邪魔にならないように壁の近くで訓練を眺める。
エマだけは、誰か剣の相手がいないか探しているようだった。
リコの声がここまで聞こえる。
「リズ姉、思って他のと違うのです。バシッバシッ、ガンガン、スパッ、ではなく、カン、カン、カン、なのです」
「リコ、しょうがないでしょ。まだ冒険者見習いみたいなものなのよ」
あれはわざと冒険科の生徒に聞こえるように言っている。
「おっリコは良いこと言うな。確かにここの生徒の剣技はお遊戯に見える。」
エマが同意してしまった。
冒険科の生徒も聞こえたようだ、文句を言いに行くが、リコたちが上手く謝ったみたいで何事もなく帰ってきた。
「キャロル、お前らにマナを教えることのできそうなのは、あそこにいるリコたち4人くらいみたいだな。頼みに行って来いよ」
エマに言われるが、真剣な顔のナルを囲んでいるので、なかなか話しかけられなかった。
そして一学期も終わりに近づくと期末テストがある。
「今度もミーナには勝っちゃいますよ」
ペネロペは勝負を挑んでくる。
「今度はミーナが勝つんだからね」
今度こそ負けないぞ。
「二人とも、訓練所ばっかり行ってたけど、しっかり勉強したの」
「「やりましたよーだ」」
そう、勉強はしっかりやりました。
結果は合格点です。でもまた負けました。