2・偽りの家族になりました
都市キグナスの有るメシール王国は王様のいる王都と五つの領土からなる
ここは、キグナス領の都市キグナスだ、ほかに、サンザナ領(都市タクロア)、クエンチェス領(都市ナーマム)、ベアリル領(都市ベアリル)、ボーデン領(都市ソーラ)の四つがある。
ロベルト帝国は帝都エルゴと周辺の集落で出来ている小さな国だ。
岩ばかりのロベルト帝国とは違いメシール王国は緑に囲まれた国だ。
「今回、私の父と母になっていただきありがとうごさいます。短い期間ですがよろしくお願いします」
「そんな改まらなくても良いんだよ。私たちも昔いなくなった娘だと思って、楽しく過ごしたいんだ」
私がこれから名乗るミーナは、昔いなくなった娘の名前だ。
娘が生まれた頃、この夫婦は娘と一緒に都市キグナスの隣町に住んでいた。
娘が3歳の時に、旅の劇団一座がキグナスで劇をやるということで3人で見に来たのだ。
なれない大都市、なれない人込みで劇が終わった後、娘とはぐれてしまったのだ。
見つかったのは、生まれたとき教会からもらうプレートだけだった。
娘が生きていると信じて探す為に、隣町から劇が行われたキグナスに夫婦で越してきたのだ。
父の仕事は革加工の職人で、近所の付き合いもそれほどしていない、家の周りに夫婦のことを詳しく知るものもいなかった。
秘密結社は私がローズ学園に入学することは夫婦に隠していない。その為にリベール王国の国民になることも話している。
違うのはその理由だ。詳しくは知らないが、ものすごい美談を作り上げ、夫婦を説得したらしい。
褒美のほかに私の生活費も秘密組織から夫婦に渡されている。
「お金は十分もらっているから、遠慮することはないよ。食事も口に合わなけれ、合わないって言ってくれていいからね」
「いいえ、とてもおいしいです。それに、みんなで食べる食事って楽しくていいですね」
ロベルトでは、家族で食事を一緒にすることは少なかった。たいてい父がどこかで食べてきてしまったのだ。
夫婦はとても優しくしてくれる。お金のためにしているとは感じられない。
娘がはぐれたのは自分たちのせいと思っており、罪滅ぼしの気持ちで私にやさしくしてくれるのかもしれない。
試験まで一月ほど、試験会場は都市キグナスでも行われる。
会場はここからそれほど遠くないところだ。
下見には一度行ってきた。
それ以外に家から出る理由がない。
出来るだけ目立つなとも言われている。
ここの町は、ロベルトと違い活気がある。並んでいる商品も、良いものが安く沢山ある。
もっと街に出かけたいし、このままこの国に住みたいくらいだ。
しかし私は使命を帯びてここにきている、遊びではない。
町には時々しか行かないことにした。
受験勉強も順調に進む。
私も、貴族も娘である。幼い頃より基本的な教育は受けてきた、新たに覚えるのは、メシール王国の歴史位だ。
試験勉強の確認のため入園案内を確認する。
ローズ学園には、冒険科、魔法科、そして私が受ける薬学科がある。
そこに書かれた薬学科の説明には、
『薬学科は、薬草の知識を深め、薬草からマナを使い薬を作ります。薬師として活動する為の知識や心得を習得します』
マナで薬を作る、聞いてないぞ。
「お父さんはマナを使えますか」
とりあえず近くにいる人に聞いてみる。
「魔獣の素材の加工にはマナや魔力を使うが、俺は普通の獣の革加工職人だ、マナは使えないな」
ロベルト帝国でもマナで身体強化をする者はいる。鉱山で働く人々だ。
この人たちは、子供の時から親と一緒に仕事をして、自然にマナの扱いを覚えていく。
そして騎士だ。騎士も幼いころかの訓練で覚えていく。
あとごく一部に魔力による身体強化が出来る者たちがいるらしい。
父の入っている秘密組織の中にそういう者がいると言ってた。
なぜこんなことを知っているのか、父は酔うとなんでもしゃべってしまうのだ。
食事は外でしてもよいが、酒は家でしか飲んではいけないと組織の上からきつく言われているそうだ。
ロベルトの父親に相談しても、どうせお前で何とかしろしか言わないだろう。
入園試験前から最大のピンチである。