ありふれた設定にありふれた実況
処女作です、大目に見てください
さあ、やってまいりました。今シーズン一のビッグマッチといってもいいでしょう。この国の第二皇子であり、秀才との呼び声高いアルベルト・デル・リオーネと、その婚約者であり、淑女の鑑といわれた伯爵家令嬢エミリー・マルティネスの二人による婚約破棄をかけた舌戦が繰り広げられる予定です。会場はライロック王立学園の第一ホールであります。申し遅れました、実況はわたくしティモシー・エバンズ、解説はこの国の修羅場および歴史に詳しいアリャリャ・コラヤッタさんに来ていただいております。コラヤッタさん、今日はよろしくお願いします。
お願いします。
さて早速ですが、今日マッチアップする二人の特徴を教えていただけますか?
そうですね、まずアルベルト王子ですが、彼はすきのない万能型の選手といえるでしょう。巧みな論理のすり替えなどの冷静なプレーも光りますが、要所では感情をむき出しにし観客を味方につけるなど、かなり計算高く厄介な相手といえるでしょう。次にエミリー・マルティネスことエミマルですが、彼女の武器は論理的な思考力です。物事の因果関係、証拠の有無などを明らかにしながら話を進めていくのが特徴です。そのため、小細工で翻弄しようとするとすぐに彼女に主導権を握られてしまうことでしょう。
なるほど、ではアリャリャさんはこの戦い、どちらが有利になると思いますか。
難しい判断です。二人とも優れたところがありますので一概には言えないのですが、自分の得意な領域かつ相手の苦手な領域に誘い込めれば、両者ともに勝機はあると思います。ただ、確実に言えるのはどちらかは必ず負けるということです。
なるほど、非常に拮抗した試合になることが予想されそうですね。そろそろ両選手のボディチェックが終わった頃でしょうか。いよいよ今年一番のビッグマッチが始まろうとしています。さあ試合開始のホイッスルが吹かれました。王立学園の卒業パーティーの始まりです。果たして二人のどちらが仕掛けるのか、はたまた二人以外が仕掛けさせるのか、注目の大一番であります。
―10分後―
コラヤッタさん、かなり静かなゲームの立ち上がりになりましたね。
そうですね、ゲーム開始から目まぐるしい展開になるかと思いましたが、かなり落ち着いて相手の出方を窺っているように思われます。まずは、二人とも学園時代に仲良くしていた友人へのあいさつに回っていますから、観客への根回しを狙っているといったところでしょうか。
なるほど、両者外から攻めていく作戦は共通しているようです。外から攻めるといえば、この国の外交問題はどうなっているのでしょうか、アリャリャさん
そうですねわれらがリオーネ王国の外交問題に関しては非常に難しい判断を強いられているといえます。どのような結果になっても、国民から批判が巻き起こる可能性は十分にあります。しかし、ピンチはチャンスという言葉が表すように、国民が納得するほどに状況が変わることも考えられます。肝心なのは賛成派も反対派もしっかり話し合って決めていくことです。
なるほど、外交問題は暗礁に乗り上げているといえるのかもしれませんね。おっと、ここでパーティー内で動きがありました。どうやら先制攻撃を仕掛けるのはアルベルト王子のようです。さあ、今日のために呼ばれたサラス管弦楽団が演奏している檀上へと速足で歩いてきます。サラス管弦楽団は、リオーネ王国内最古参の楽団で、伝統と実力がある最高の楽団となっております。さあ、壇上に立って手を上げ、楽団の演奏をやめさせました。ふざけんな、音楽を途中で止めんじゃねえ、このすっとこどっこい。
「私、リオーネ王国第二皇子のアルベルト・デル・リオーネは今日この日をもって、エミリー・マルティネス伯爵令嬢との婚約を破棄する」
いったーーー行きました。まずは、定型文を用いて堅実な先制攻撃です。エミマルはどのように反撃するのでしょうか、一瞬も目が離せません。観客もざわついています。
「殿下、それはいったいなぜでしょうか。」
エミマルも定型文を使ってきます。さながら名刺交換といったところか、おそらく違うでしょう。
「なぜ?なぜだと!そんなもの自分の胸に聞いてみればわかるのではないか?」
アルベルト王子は相手にいったん振っていきます。これにはどのような意図があるのでしょうか
これは一度相手に主導権を渡すことで、エミマルにうっかり発言をさせようと考えているのだと思われます。また、この発言によって自分は被害者である、というアピールにも成功しています。かなり抜け目ない効率的な一手といえるでしょう。
「わたくしは、殿下にふさわしき妃になるために努力してまいりました。非才の身であるがゆえに殿下の手を煩わせてしまったことは多々あります。それでも婚約破棄はあまりに重い罰ではないでしょうか。」
エミマルはここで打てる最前の手を打ってきましたね。自分が努力してきたことと、それでも至らない部分があると認めている謙虚さと、感情的にならない冷静さを見せつけてきています。かなりハイレベルな攻防が繰り広げられていますよ、これは。
なるほど、アリャリャさんすらうならせるほどの高次元バトルが繰り広げられているようです。私はダンブ〇ドアとヴ〇ルデモートの戦いをまじかで見ているハリーのような気持ちでいっぱいです。ハリーもこんなに興奮していたのでしょうか、アリャリャさん。
ハリーホ〇ッターシリーズにおいてダンブル爺とヴォルちゃまの直接対決はいくつかありますが、不死鳥の騎士団編にて魔法省の神秘部で戦った場面にハリーも居合わせています。その時の描写、およびハリーホ〇ッターシリーズをとおしてて考察するとティモシーさんが感じている興奮は、炎のゴブレット編の序盤でハリーがクディッチのワールドカップを見ているときの感情が最も適しているといえるでしょう。そもそも、神秘部での…
「君が努力をしていたのはよく知っている。それについて感謝こそすれ咎めるつもりは一切ない。しかし、マリリアン・ルリシア嬢にした暴言や暴行の数々を許すことはできない。」
ここで新キャラの登場です。マリリアン嬢は男爵令嬢ですね。エミマルには大分家格が劣りますが、親しみやすく、控えめな性格であるそうです。
アルベルト王子もかなり良い手を打ってきました。エミマルの努力を認めつつ、それ以外のところで攻めていこうとする一手です。
「マリー、来てくれ。」
アルベルト王子の呼びかけに答えて、一人のご令嬢が観衆の中から現れました。件のマリルリ嬢です。ちょっと表情が硬いようにも見えますねぇ、コラヤッタさん。
そうですね、マリルリは男爵家の五女ですから、少しでも自分に阻喪があると実家が大変なことになるのをわかっているのではないでしょうか。
「マリー、君はあの女に嫌がらせを受けたと僕に語ってくれたね。」
マリルリがエミマルと視線をぶつけ合いながら無言でうなずいております。かなり気が強いというか、肝っ玉の据わったおなごですねぇ。
彼女は貴族というより平民に近い存在ですからね、それも影響しているのかもしれません。
「・・・・証拠はあるのですか」
そりゃー悪手じゃろ。
コラヤッタさん、何がどうなってしまったのですか?
エミマルがよくない手に出ました。彼女の強みは論理的な思考力だと話しましたが、その領域に持ち込むチャンスと見たのか、マリルリに対しての暴行を認めるような発言になってしまいました。先に完全に否定してから、それでも、言うなら証拠を出しなさいといった流れがよかったのですが、焦りましたかねー。
なるほど、状況はアルベルト王子に傾きつつあるということですね。
「証拠ならあるぜ、こいつを見なぁ」
またまた新キャラです。観客の中から現れました。彼の名前はカイ・リーキリア。この国の騎士団長の息子で武芸に秀でており、将来優秀な騎士になることが期待されています。オフェンスに定評のある選手ですね。
カイリキーは論理的に考えることは苦手ですが、ネームバリューがありますから彼を味方にできただけでかなりアドバンテージです。ちなみに彼は最近新しい魔法を覚え、腕を四本に増やせるようになったそうです。
「これは、ルリシア嬢の発言をもとに彼女がマルティネス嬢にされてきた暴言および、暴行の一部をまとめてある文書だ。みんな見てくれ。」
カイリキーがまさかの頭脳プレーに走りました。事前にエミマルの悪事をまとめた資料を作ってきたようです。コラヤッタさん、これをどうご覧になりますか?
そうですね、おそらくアルベルト王子の指示によって作成した資料をタイミングを見計らって出してきたというところでしょうか。彼のネームバリューと合わさり、かなり強力なコンボをつなげてきましたね。ですが、それだけでは…
「そのような文書を用意したところで、いくらでも捏造ができるので、証拠不十分ではないでしょうか、殿下。」
先ほど私が言いたかったことをしっかり言ってくれました。ただ悪事があったとされる文書だけでは証拠というにはあまりにお粗末です。アルベルト王子はそれほど愚かではないと思うのですが…。
なるほど、まだまだエミマルにも逆転のチャンスは十二分に残されているということですね。
「ふっ、そう言うと思って審判官を呼んでいる。罪と罰を司りし法の番人にて、真実を暴くもの、その眼は過去を見通し、現在を変え、未来を正しい方向へ導くだろう、我が呼びかけに応え、この場にはせ参じよ、審判官テミス・ユースティティア!」
「通してくれ、テミス様がお通りになる。」
まさかの展開です。王国で11人しかいない一級審判官であるテミスがパーティー参加者の間から現れました。衣装も真っ白なローブ剣と天秤が描かれた正装でお出ましです。隣には現宰相の息子であるマルコ・ダックマンがいます。
これはすごいことになりましたね、一級審判官は他人の発言の真偽を見分けることが出来ます。普通は、婚約破棄騒動ごときに出てくるはずがないのですが、第二皇子が無理を言ったのでしょうか。テミス一級審判官は、かなりの大物であるにもかかわらず、こうした俗物的な問題にも積極的に参加してくれますがこれは予想外です。ともかくこれで、この場にいる誰もが嘘をつけなくなりました。
「私、テミス・ユースティティアの名において、審判の儀を始める。今この時より、私のことは正義の執行者と心得よ。」
「テミス一級審判官様。このような場に来てくださりありがとうございます。ではさっそく、エミリー・マルティネス伯爵令嬢がマリリアン・ルリシア男爵令嬢にした暴言、暴行の数々の真偽を確かめたいと思います。」
アルベルト王子がエミマルの断罪を始めるようです。ちょっと予想外の展開で私も動揺が隠し切れません。というか、テミス一級審判官の目が光りだしていますかっけえええ。
眼の光は、一級審判官のみが使える上級魔法の影響によるものですね。巷では法の神を憑依させているからだとか、冥府の門からあふれる光だとか言われています。
「エミリー・マルティネス、君はマリリアン・ルリシアに対して『男爵家の五女ごときが私と対等だと思ってるのか』や、『品がなさ過ぎて平民かと思いましたわ』といった彼女とルリシア家を侮辱するような発言をしたか。」
「・・・・言いましたわ。しかし、それはひどい悪意をもったものではなくいたずらのような、ほんの冗談のつもりで行ったのです。決して彼女を傷つけたり、彼女の家にケンカを売るような意図があったわけではございません。審判官様、私の発言に嘘はありませんよね。」
観客がかなりざわめいております。エミマルはすがるような目つきでテミス一級審判官を見つめております。
「彼女の発言に虚偽はない。だが、我々一級審判官といえども、審議の判断がつくのは普遍的な真実のみであり、個人の感情や表に出してない思想に関しては真偽を見極められん。よって、当時の彼女がどのような意図をもって先ほどのような主旨の発言をしたかに関しては不明である。」
ざわめきが一層大きくなっております。コラヤッタさん、これはどういう状況でしょう。
そうですね、一級審判官の言う通り、彼らは確固たる、客観的な事実の真偽しか判定できないのですよ。例えば、彼らの魔法を使ってもお世辞は見抜けないし、心の傷の深さも見ることはできないのです。一方で、誰かが一人きりの時の発言や、行動は確定させることが出来ます。なので、観客はエミマルに対して不信感を強めているところでしょう。
なるほど、ではエミマルはかなり追い込まれているといってもいいのでしょうか。
そうなりますね。ですが窮鼠猫を嚙むという言葉がある通り、このままで終わるとは思えないですね。
おっとおお、エミマルの表情が和らいでいます。これはどうしたのでしょうか。
おそらく彼女には何かしらの逆転方法があるのでしょう。ここからの巻き返しに期待したいですね。
「静まれ、次の質問に移ろうマルティネス嬢、君はルリシア嬢に贈り物を何度かしたことがあるそうだな。」
「その通りですが、何か問題でもございましたか?」
アルベルト王子がにやりと笑いました、悪い顔してますねーコラヤッタさん。
これはエミマルを追い詰めていると、勝利を確信している笑みですね。これと似た笑みを見たことがあります、あれはどこで見たんだっけな、あれ、あのー・・・・・テ〇スノートだっけ、ST〇R WARSだっけ、忘れたわ。思い出した方は私までdmください。
「問題大有りの大アリクイだあ。お前はマリーに奇怪な植物の果実を送ったな。紫色で渦巻き模様がたくさんついてるメロンくらいの大きさの果物だ。それを…
「殿下!それは別の奴です、マリーが言ってた実はもっと別の特徴があったでしょ、これ以上いくとまずいです。」
さっき出てきたマルコ・ダックマンがアルベルト王子のことを止めています。読者の皆さんは忘れていると思いますが、コダックと覚えてください。
なんだか食べると泳げなくなりそうな実ですね。ちなみに全然関係ない話ですが私は初めて見たエ〇アニメにふた〇りが出てきてから、ふたな〇が性癖になってしまいました。
「そうだった、危ない、後で栄一郎君に謝っておこう、それはそれとしてエミリーはマリーに人間の腕みたいな突起がたくさんあるメロンくらいの緑色をした果実を送り付けたな。」
これは、大丈夫でしょうか。突っ込んじゃうとさらにまずいことになりそうなのでスルーで行きます。
これはおそらく悪魔の果物と呼ばれているヨーホンの果実でしょう。南国で撮れるかなり希少な果物です。見た目がすごく気持ち悪いのですが、意外とおいしいらしいです。
「送りましたが。何か問題でもございましたか?」
「当たり前だ、貴族の令嬢にこんな奇怪な果物を送り付けてどうするつもりだ。嫌がらせ以外の何物でもないだろう」
「それはマリーが珍しいものが好きだというから送ったのです。嫌がらせなんてとんでもありません。私は喜んでもらいたくてやったのです。」
「珍しいものといっても、限度があるだろうが。せめて珍味であるツバメの巣とか、雫石の首飾りとかにしておけ。このヨーホンの実は明らかにやりすぎだ。」
ここにきてとんでもない正論、ぐうの音も出ません。エミマルも苦々し気な面持ちです。
「それだけじゃない、エミリーは鉢植えとスコップ、うさ耳モニラリアの苗を送ったそうだな。」
ここにきてカイリキーが再登場です。このようにアルベルト王子、カイリキー、コダックが交代で話すことには何か意味があるのでしょうか。
うーん。これはおそらく観客を飽きさせないためだと考えられます。後は、登場人物がたくさんいる方が頑張った感が出るというのもあると思います。
なるほど、ちなみにうさ耳モニラリアって何ですか?
知らないです。
えっと、なんか情報があいまいとかではなくて…
知らないです、全く、100%、この命にかけて知りません。
「貴族の令嬢に植物を育てるセットを送るということは、お前は農民のような生活がお似合いだ、貴族としてふさわしくないと揶揄している行為に他ならない。さらに言えば、スコップは、三文字変えると殺すぞになる。つまり、エミリーがマリーに送りたかった本当のメッセージは、【お前は農民のような生活がお似合いだ、貴族としてふさわしくない、殺すぞ】といった内容になるんだ。」
観客がざわついています。彼の論理には若干の飛躍と少量の小泉構文があるような気がするのですが、これはどうみますかコラヤッタさん。
貴族間で植物のやり取りがあることはそれほど珍しいことではありません。しかしそれは完成されておりあとは飾るだけの状態をやり取りするのが一般的であり、今回のケースのように未完成のまま渡す行為は前例がないといえます。カイリキーが言ったようにとらえられても仕方がありません。また、スコップは三文字変えると「このブス」にもなりますから、言い逃れはできないでしょうね。
「大体、家格が圧倒的に上のお前から植物を受け取るマリーの身にもなってみろ。もし枯らしてしまったりしたら何をされるかわかったもんじゃない。少しは自分の立場を考えるべきだ。」
これまた正論パンチがアルベルト王子から飛んできました。
「ぱるらぱるぅるらああ!!!」
大変申し訳ございません、只今音声に乱れが生じてしまいました。別次元からハ〇ルキアが割り込んできてしまったようです。重ねてお詫び申し上げます。申しわけございませんでした。
「次の質問に移行する。エミリー、君はマリーに避暑地への旅行だといって誘い出し、二人きりの時を狙って川に突き落としたか?」
これはかなりきわどい質問が来ましたね、完全なる暴行です。これが本当ならエミマルはもうどうしようもなくなるのではないでしょうか?コラヤッタさん。
その通りです、どこの国でも暴力は絶対悪です。いかなる理由があれ、突き落としたことが事実出ればこの試合はもうアルベルト王子の勝ちで決まったようなものでしょう。
「・・・・・・事実です。」
エミマルがあああ、画面横おおおおおお、下を向いてえええええ、エミマルが認めたああああああ。
決着ですね。試合終了です。これはもう覆しようがありません。テミス一級審判官も無言でうなずいていますから、もうどうしようもありません。エミマルも下を向いて肩を震わせています。もしかすると婚約破棄や謹慎ではすまず、勘当されてしまうかもしれません。
「とうとう正体を現したな、この女狐め。お前のような悪女と結婚などしようものなら、国が傾くわ。とびっきりの美女でなくても傾城になれるってか、こりゃ傑作だ。ゼハハハハハ。」
「・・・・・婚約破棄を了承いたします。私はこのことを両親に伝えなければならないので、帰ってもよろしいでしょうか。」
「好きにするがよいわ、おぬしの処分は追って通達する故、謹慎でもして待って居るがよいわ。贅沢は禁止じゃぞ。グララララ。」
アルベルト王子は勝利に酔って人格と笑い方がかなり変わっております。
うーん、二つは食べられないはずなのですが、彼は何者なんでしょうか。考察がはかどりますね。
「ちょっと待ったああああああ。エミリー・マルティネス伯爵令嬢、僕はあなたがどんな人物なのかよく知っている。テミス一級審判官様を疑うわけではないが、君の暴行や暴言には裏があると確信している。もし、君さえよければ僕と結婚してくれないか?」
おっとっと。また新キャラです。ヤドン・グランディア伯爵令息が片膝をついてプロポーズです。どうしたのでしょうか、彼に婚約者はいませんが、とち狂っているとしか思えません。
あまり知られていませんが、彼の特徴はまぬけであることですからね。殴られてから、三秒後に気づいたという逸話があります。というかそろそろ大丈夫でしょうか、権利関係が心配です。
「私は、おそらく勘当されるでしょうから、グランディア様の結婚相手としてふさわしくありませんわ。」
「それでもいいんだ。身分なんて関係ない、私は君を愛している。」
「では、建前ではなく本音を語らせていただきます。あなたと結婚なんて死んでもいやです。消えてどうぞ。」
・・・・・耳くそを取ってリプレイを確認しましたが、彼女の発言は上記の通りで間違いありません。淑女の鑑といわれた彼女に何があったのでしょうか。観客及び、ヤドンも絶句しております。
耳は鼻とつながっておりますので、耳くそを取るだけでは不十分かと思われます。鼻水、鼻くそおよび、鼻毛を一部取りましょう。というか、こんだけ鼻という漢字が集中してると気持ち悪いですね。ゲシュタルト崩壊しそうです。
「それでは、改めて。アルベルト第二皇子殿下、あなた様の婚約者としてふさわしい行動をとれなかったことを謝罪申し上げます。・・・・・また、私と今までかかわってくださった皆様には感謝してもしきれません。今までありがとうございました。そして、そんな大切な皆様にご迷惑をおかけしたことを心より謝罪申し上げます。・・・・・それでは皆さん、お元気で。」
静まり返った卒業記念パーリー会場にエミマルの足音が響きます。しっかりとした足取りで出口に向かう彼女に皆が道を開けます。まるでモーセのようですね。っと、出口で立ち止まったぞ、何をするつも・・・・
「マリリアン・ルリシア!私はこの借りを必ず返してみせるぞ。覚えておけ。」
大音声の捨て台詞とともに外に出ていきましたね。対するマリルリは不敵な笑みを浮かべております。彼女が出て行ったあとで観客はざわめきを取り戻します。彼女の凛とした態度に皆が圧倒されておりましたねぇ、コラヤッタさん。
エミマルのしたことは到底許されるものではありませんが、最後は美しく去っていきましたね。特に終盤の態度は彼女の人格すらわからなくなるほどでしたからね。今までかかわってきた人からすると自分の見てきたエミマルという人物に疑問を抱いているところでしょう。アルベルト王子は婚約破棄には成功したものの、なんだかみじめに見えますね。試合に勝って勝負に負けたといったところでしょうか。
「静かにしてくれ、もういない犯罪者のことをいつまでも話すなど、王国貴族にあるまじき行為だぞ。」
アルベルト王子の鶴の一声で、卒業生たちはたちまち静まり返りました。
「皆に知らせたいことがある。私は先ほどエミリー・マルティネスとの婚約を破棄した。そこで、新たにマリリアン・ルシリア男爵令嬢との婚約を発表する。」
「聞いておりません、殿下!私では家格も、淑女としての教養も足りません、おやめください。それに急に言われても困ります、まずは実家の了承を得なければなりません。」
「そなたの実家には了承を取っておる。それに家格がなんだ。そんなのを気にする時代は終わったのだ。教養など後からでも身に着けられる。私とマリーの愛の間に大きな障壁などないのだ。不安なのはわかるが、私を信じてほしい。」
マリルリの手を取りながら、ゲロ甘セリフを吐き出しております。というか、王子様はキャラが一定しなさ過ぎて読者受けが心配になってきました。
「・・・・・殿下、それでは建前ではなく本音を語らせていただきます。あなた様との結婚など天地がひっくり返ってもいやです。それから、学園時代、私と仲良くしてくださった皆様方に伝えたいことがございます。本来であれば、もっと時間をかけて、お一人ずつ、感謝の念を伝えさせていただきたいのですが、何分時間が迫っておりますので、この場にてまとめてお礼申し上げます。ありがとうございました。・・・・・そしてさようなら。」
・・・・・本日二度目の絶句タイムです。お楽しみいただけましたでしょうか。会場はざわめきに包まれております。先ほどエミマルが通った道を、マリルリも歩んでおります。違うのは彼女が一歩を踏み出すごとに観客がうるさくなっていくところでしょうか。これは何が起こっているのでしょうか、コラヤッタさん。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーむ、わかりませんなあ。婚約破棄ものの話であれば、現在ではすたれてしまっていますが、【エミマルが本物の悪女でマリルリがハーレム、もしくは王子と結ばれ幸せに終わる】パターンと、現在主流の【エミマルが悪女というのは王子やマリルリのでっち上げで、エミマルが別の場所で幸せになる】という二パターンがあるのですが、どちらにも当てはまらないので、あたしにはもうわかりません。
ゆっくりと歩いていたマリルリが出口までたどり着きました。
「それでは、皆さま、ごきげんよう。」
一礼して、マリルリも出て行ってしまいました。学園卒業パーリーはもう大混乱です。王子に至っては放心状態です。
「待ってくれ、エミリー!」
ヤドンがようやく動き出しました。先ほどのショックから何とか立ち直ったようです。アルベルト王子を復活させようとカイリキーとコダックが人工呼吸を試みています。
えー、この後は、実況しても視聴率とれなそうなので、この辺で振り返りタイムに入りたいと思います。
意外な幕引きでしたね、コラヤッタさん。
はい、当初は接戦が予想されていましたが、試合に関しては終わってみればアルベルト王子の圧勝、サッカーなら8-2、クディッチなら300-10くらいのスコアでの大勝になります。ここまで結果に差が出るとは思いませんでした。試合内容的にも、アルベルト王子の圧倒的手数の前に、エミマルは後手に回らざる負えないといった感じでしたね。
なるほど、ちなみにどのような点が両者の勝敗を決定づけたのでしょうか?
おそらく事前の準備ですね。アルベルト王子のほうは、コダックとカイリキーとともに、文書の作成、マリルリへの事情徴収、テミス一級審判官の手配、といった準備をしてきていました。一方、エミマルには何の準備も見受けられませんでしたから、そこが両者の大きな違いといえるでしょう。
なるほど、アルベルト王子の狡猾さというか、計算高さがよく表れた試合といえますね。
それにしても、試合終了後のほうがなんだか高カロリーの展開だったように感じますね。
そうですね、予想外なことの連続でしたので私もかなり興奮しました。歴史に残る名ゲームであったことに疑いの余地はないでしょう。
本来であれば、じっくりと、選手のインタビューを交えて深掘りしていきたいのですが、先ほど乱入してきたハ〇ルキアとかいう、腐れトカゲもどきが暴走してスタジオが大変なことになっておりますのでここで終わらせていただきます。実況はわたくし、ティモシー・エバンズ!
解説はわたくしアリャリャ・コラヤッタでお送りいたしました。皆さん良い夢を~。
「「さようなら~」」
このネタは大丈夫なんでしょうか?ちょっと心配ですわね。