人前で話すことはこなしても陰キャで人見知りだとモテないよ……と思っていたけど
香月よう子様主催の「春にはじまる恋物語」企画参加作品です。
「滝井、今年も頼めるか?」
あいよっ
新入生歓迎会実行委員長の言葉に僕は即座に返答した。
新入生歓迎会の司会。これでもう三回目だ。とはいえ、今年はもう四年生だから最後だろう。大学院への進学は考えてないし、留年はしたくない。
自分では自分のことは、まごうことなき「人見知り」だと思う。
だから、友人は本当に親しいのが数人。彼女などというものは全くもって存在しない。
にもかかわらずだ。僕の司会は評判が良かったりする。
二年生の時は司会をやる予定だった先輩が急な発熱でのピンチヒッターで内心パニックだったが、何とか乗り切った。
三年生の時はより無難にこなした。
何で僕なんかの司会が好評か?
自分なりに考えると、まずは「人見知り」の割には声が通る。
更にビビリなのが幸いして、下ネタ、過激なギャグは使わない。
でもまあ、小ネタは挟む。「人見知り」だけど、「お笑い好き」だから。
そういうところが新しい環境に飛び込んで、少なからぬ不安を持った新入生に安心感を与えるのかも知れない。だけど……
◇◇◇
「滝井先輩っ」
ほうら来た。来ました。新入生の女の子たち。
新入生歓迎会でイベントが終わった後の会食の会場。場も砕けてきた。
後は僕の仕事はこの会食を締めさせるだけである。締めの音頭を取る人間も決まっている。
つまり、それまでは僕の休憩時間。その間は飲み食いに費やす。司会者用の隅っこの席に座ってね。
そこにやってくるのは新入生の女の子たち。分かるともさー。だって、これで三回目だもの。
「司会。上手でしたよ-」
うん。ありがとう。
「しゃべるの得意なんですか?」
やっぱり今年もそうなったか。実は不特定多数の前でしゃべるのは何とか出来るんだが、少数相手は苦手なんだよー。
ああっ、また、期待の眼差し。何か面白い、楽しいお話ししてくれると思ってるんだよね。大学四年生のお兄さんが。
ごめーん。そういうの駄目なんだよー。
かくて新入生の女の子たちは次々に僕のところに来るのだが、思ったような話が聞けないと分かると、三々五々散っていく。そうそう、昨年もそうだったし、一昨年もそうだった……んだが。
◇◇◇
「キャハハハハ、滝井先輩。おっかしーい」
バンバンバンと右手の平で僕の肩甲骨を叩く女子新入生。
おいちょっと待て。君、十八歳だろ? 誰かに酒飲まされたんじゃないだろうな?
「やっだなー。飲んでるのはこれですよ。これっ!」
グイと僕の眼鏡に張り付くんじゃないと思うくらいにウーロン茶の小瓶を近づける女の子。
すると、そのテンションの高さは素?
「ふっふっふっ、どうでしょう。蒼葉どう思う?」
「紅葉はそれが素だと思うよ。はい、滝井先輩。お注ぎします」
あっ、どうも。
どうやらこの新入生女子二人組。双子のようだ。茶色のツインテールで元気がいいのが紅葉。ストレートの黒髪でしっかりした感じなのが蒼葉。
彼女たちとはなんだかんだで会話が続いた。ただまあ、彼女たちが僕に異性としての好意を持ったかと問われると、はなはだ怪しい。どちらかと言うと彼女たちからするとからかっても怒らない兄ちゃんが出来たくらいじゃないかな。
ともあれ、僕は新入生歓迎会司会三年目にして、初めて新入生歓迎会実行委員長から締めの司会をやってくれと言われることになったのである(それまでは終了予定時刻より前に僕はスタンバっていたのだ)。
◇◇◇
「あーっ、滝井先輩っ、また一人でお昼食べてるっ!」
「また、カレーうどんですか? お好きなんですねえ」
出たなっ! 双子っ!
昨年も一昨年も僕に新入生女子から注目が集まったのは、新入生歓迎会の前半だけだったが、この双子だけは変わらずちょっかいを出してくる。
だが他の新入生女子というか、うちの学校の女子で僕に声をかけてくる人はいないので、妬まれることはない。喜んでばかりいいことではないということは自覚している。
そうだよ。カレーうどんが好きなんだよ。一人で飯食うのは大勢でつるむのが苦手なんだよ。
「ふむふむ。陰キャですね。滝井先輩は」
「カレーうどんは美味しいけれど、汁がはねるのが難点ですね。デートで使う時は予告するようにしてください」
もう、いつもこの調子で好き勝手言ってくれるんだから。はいはい。陰キャは自分でもよく分かってますよ。だから、デートする機会もないので、カレーうどんはノープロブレム。
「いやいや陰キャだからデートしないとは言えませんよ。あのパンクのような寝癖のついた髪で、背中側だけワイシャツをズボンから全開に、はみ出させている法学の松平教授も既婚者なのです」
「他の新入生女子からは男子の先輩から美味しいもの食べに連れて行ってもらったとか、千葉にあるのに東京を名乗るテーマパークに連れて行ってもらったという話を聞いていますが、滝井先輩はどこに連れて行ってくれますか?」
え? 法学の松平教授、結婚してるの? つーか何で四年生の僕が知らないことを新入生の君たちが知ってるの?
で、連れていけるところですか? 飲食店は庶民的なところしか知りませんよ。千葉にあるのに東京を名乗るテーマパークのご案内は無理です。連れて行けるとすれば、上野の博物館周辺か、神保町の書店街あたりかな。
「今風じゃないですね。モテないでしょう?」
「飲食店って、居酒屋とかですか? お酒好きなんですか? 煙草は吸うんですか?」
モテないのは分かってるよー。モテないのにモテると勘違いしたくないのが最後のプライドさ。フッ。
居酒屋も嫌いじゃないけど、そんなに飲める方でもないしね。普通の飲食店です。煙草は吸わないです。煙で目が痛くなるし。
「ふうむ。ではそろそろ核心に触れましょう。彼女いますか?」
「……」
この展開でそれ聞くーっ? 君は鬼か? 紅葉君。いる訳がないでしょう。
「……やはりですか」
「……」
しきりに頷く紅葉。沈黙を続ける蒼葉。ううっ、空気が重いーっ。
そうこうしているうちに紅葉は蒼葉にアイコンタクト。頷く蒼葉。
「滝井先輩。私たち、午後四時に教育学部棟の裏でお待ちしています。必ずお一人で来てください。もっともこういう時についてきてくれる経験豊富なお友だちはいらっしゃらないでしょうが」
「必ずお一人で来てくださいね」
なっ、何だ? 「果たし状」を渡されるのか?
◇◇◇
午後四時。恐る恐る教育学部棟の裏に僕は向かった。ここは普段から人影がないところだ。
そこに待ち受けていたのは見るからに緊張している蒼葉。え? 紅葉は?
ともかくも僕は蒼葉に声をかけた。遅れてごめんね。紅葉はいないの?
「紅葉はすぐそこにいます。そして、滝井先輩っ!」
はっ、はい。何でしょう?
「滝井先輩のことが好きですっ! 私とお付き合いしてくださいっ!」
え? え? え? 魂飛びました。今何と?
「何度も言うのは恥ずかしいので、これが最後ですっ! 滝井先輩のことが好きですっ!」
うっ、うわあああっ! 面白い話が出来なくて、オサレなお店にも千葉にあるのに東京を名乗るテーマパークにもご案内できないけどいいんですかっ?
「いいんです。私は庶民的な方が好きです。それに、滝井先輩のお話、私には面白いですっ! 千葉にあるのに東京を名乗るテーマパークには私にご案内させてくださいっ!」
こっちは上野の博物館周辺か、神保町の書店街くらいしかご案内出来ないし、カレーうどんばっか食べてるけど……
「博物館っ、書店街っ、大歓迎ですっ! カレーうどんは嫌いじゃないですっ! ただ食べに行く時は予告してくださいっ! 紙エプロン出してくれるお店がいいですっ!」
何か舌戦のようになってきた。双方、肩で息をしている。何の戦いなんだ。これは?
◇◇◇
「はいはい。はいはい」
そこに両手をぱんぱんと叩きながら現れたのは紅葉。
「何でこうなるかと言うと、滝井先輩が蒼葉のラブコールにまともに答えてないからですっ! 滝井先輩っ! あなたは蒼葉のことが嫌いなんですかっ?」
そのようなことは断じてないっ!
「なら、好きなんですかっ?」
……はい
「だったらはっきりそう言ってください。ええいっ、手間のかかるっ!」
はい。蒼葉さん。僕もあなたのことが好きです。
僕の言葉に駆け寄ってきて、両手を差し出す蒼葉。僕はその両手を握る。
「嬉しいです。でも、もうちょっとご自分に自信を持ってくださいね。三年連続で新入生歓迎会の司会を任されて、しかも好評なんだから、十分魅力的なんですから」
面目ない。そして、ありがとう。
◇◇◇
「ふぃ~」
紅葉は大きく息を吐く。そして、声を張り上げる。
「お待たせー。無事、話はついたよ」
パッパー
クラクションとともに一台の車が現れる。それを運転していたのは……
げえっ、新入生歓迎会実行委員長っ! まさか一部始終見てたのかっ?
「そんなこと言わないの。滝井先輩はいつも司会をやってくれていて、他の人には彼女出来てるのに、一人でいるから気にしてたんだから」
そうだったのか実行委員長。と言うか何故紅葉がそんなこと知ってるの?
「それはこういうことです」
紅葉は実行委員長の車の助手席におもむろに乗り込むと、更に叫んだ。
「既に付き合っている私たちはこれから千葉にあるのに東京を名乗るテーマパークに行ってきまーすっ! 後は二人で仲良くねーっ!」
実行委員長も運転席の窓を開け、叫んだ。
「やったなーっ! 滝井っ! がんばれよーっ!」
呆然としている僕を尻目に二人を乗せた車は走り去っていった。
ふと振り向くと蒼葉が微笑みながらこっちを見ている。
つっ、つまりその、実行委員長と紅葉はそういうことなの?
僕の問いかけに蒼葉は笑顔で答えてくれる。
「そうみたいですね。さて、私たちはどこへ行きましょうか?」
うーん。とりあえず「カレーうどん」食べる?
「あっ、あははははっ、やっぱり、滝井先輩、面白いですよーっ。そうですね。紙エプロン出してくれるお店に連れて行ってください」
だけど、連れて行こうにも蒼葉は僕のさっきの答えがツボにはまったらしく、ずっと爆笑し続けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。