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ファンタジーの使い所

  夜。孤児院の食卓で考えを巡らせてみたが、良いアイデアは浮かんでこない。

 俺は神父様の書斎から借りていた本を閉じた。魔法について色々とまとめてある本だったのが、めぼしい情報はなかった。大概が、神父様に聞いたことのあることばかりだ。


「神父様に魔法は万能じゃないとは言われたけど、今頼れるのは魔法って訳の分からない力くらいなもんなんだよな」

「わたしからすれば、マサトが元居たという、魔法がない世界の方が訳がわからない。魔法がなければ、どうやったって世界は成り立たない」


 独り言のつもりだったのだが、向かいに座っていたヨルが俺の言葉に反応する。


「たしかになあ」


 その言葉に俺は思わず同意してしまった。

 だってよくよく考えると魔法無しで病や怪我を治してしまう現代の医師や、世界の仕組みを解明してしまう科学者達のほうが魔法よりもよっぽどファンタジーな気がする。


 ここが向こうの世界ならば、科学者達がこの瘴気とかいうファンタジーなものも解明してくれたのだろうか。なんて考えて、俺は頭を左右に振る。


 今向こうの世界のことなんて考えてどうする。今、ここでできる手段を考えなきゃ意味がないんだ。ないものねだりなんてしても……いや、ないものねだり。本当にそうなのか?

 

 ずっと魔法でなんとかしようと思ってきた。だってここは異世界で、魔法なんて常識を超えた力があったから。俺は医学知識があるわけでもないし、向こうの世界の知識なんて役になんて立たないと思ってた。


 でもガスマスクを思いついたきっかけは、発想自体は元の世界の、地球のものだった。足りない知識や部品を魔核というファンタジーで補って、俺たちはガスマスクを作ったんだ。


 まるっきり役立たずだと切り捨てていた自分の中途半端な元の世界の知識でも、もしかしたらなにか役に立つのかもしれないと俺は考え直した。

 だから考えてみよう。体の中に悪影響を及ぼす謎の異物が生成されたとしたらどうするのかを、向こうの世界の常識で。


 答えは驚くほどあっさりと浮かんだ。だって、そんなの外科手術しかないじゃないか。


 手術。メスやらなにやらで、両手の甲を示すようなポーズを決めた医者が体を切ったり結んだりして怪我や病気を治療してしまう医学。

 ドラマで観る以外で手術の知識なんてありゃしないから、俺の手術への知識はそんなお粗末なもんだった。だからこんな知識しかない素人が手術なんて、どう考えても自殺行為ならぬ殺人行為でしかない。


 普通なら。でもこの世界は普通じゃない。魔法というものが存在し、瘴気という毒が満ちた、人が魔物になるふざけた異世界だ。だからもしかして、できてしまうんじゃないか? 


 医学知識のない素人でも、キュアなんてチートがあるこの世界なら。ボルドルさんを死なせることなく、魔核を摘出し、魔物化を防ぐことができてしまうんじゃないか? 


 ただ最初から魔法に頼り切りじゃダメだったんだ。向こうの世界の発想に足りないものを、ファンタジーで補完する。魔法に頼るならここなんだ。


「ヨル」

「なんだ」

「ありがとう。おまえのおかげでなんとかなるかもしれない!」


 俺はテーブルへと身を乗り出して、ヨルの手を両手でがしっと握った。


 ヨルは感謝の理由が思い至らないらしく、一度こてりと首を傾ける。


「わたしはなにか、マサト達の役に立つことをしたのか?」

「ああ、それはもう!」

「そうか。役に立ったなら、よかった」


 とそう言って、わずかに微笑んだ。


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