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ハズレの魔法

 少しするとハンターが来て、ステラさんが事情を話し男を引き渡す。

俺はその様子をただただぽかんとアホ面をして見ていた。


「すいません。こんなことになってしまって」


 ステラさんがぺこりと頭を下げてくる。


「いや、それはいいんだけど。えっと、さっきの強盗が急に倒れ込んだのは、ステラさんが」

「さきほどから気になってたんですが、ステラでいいですよ。年下だと思いますし、さん付けされると落ち着かなくて」


 それなら、お言葉に甘えさせてもらうことにした。


「あれは、ステラがなにかした……でいいのか?」

「はい。わたしの魔法なんです」


言いながら、彼女は髪をあげ首筋を示す。そこに自身の魔法を表す印があった。神父様に読ませてもらった本の中で描かれていた印と頭の中で照らし合わせる。この印は、確か……


「雷魔法、で合ってるのかな」

「はい、そうです。すごいですね。全部覚えてるんですか?」


 結構当てずっぽう気味ではあったものの、この世界に来てから地道に続けてきた座学が実を結んだようでちょっと嬉しかった。


「いや、すごいのはさっきの君の雷まほ……ん?」


 しかし「あれ?」と頭の中に疑問符が浮かぶ。


「でも雷魔法って、なんというかすごく扱いに困るって話を聞いたんだけど」

「あ、気を使わずに、ハズレ魔法って直球に言って頂いて大丈夫ですよ。実際その通りですから」


 そう。この世界で雷魔法は、ハズレ扱いされている。魔法についてあれこれ調べている時、神父様からそう聞いた。


 威力はほとんどない場合がほとんどで、火をつけるのにも使えるには使えるが、完全に火魔法の劣化扱いされているようだ。


 雷。電気を操れるなんて色々とできそうなのになぁ、と思うのは俺が異世界人だからだろう。現代人だった俺にとって電気は必要不可欠なエネルギーだったけど、こっちじゃ電気で動く機械なんてまだ見たことがない。それならハズレ扱いも仕方ないのかとその時は神父様の話に納得したけれど……


「今のを見ると、火魔法の劣化だなんてまるで思えないけどなぁ」

「えっとその。今のはわたしが開発した、オリジナル魔法なんです」

「ええ!」


 神父様いわく新しい魔法の開発っていうのは難しいことらしいのだが……。


 俺は目の前の少女を見る。目が合った途端、少女は逃げるように視線をこちらから逸らしてしまった。


 神父様にエル、そしてこの子。オリジナル魔法を開発した人が多すぎて、せっかく神父様から学んできたこの世界の常識が、ぶち壊されていくように感じた。


「とにかくやたらめったら色々と試していたら、なんだかよくわからないうちにできてしまって。体の自由を奪う魔法? って言えばいいんでしょうか。どういう原理かは、よくわからないんですけど」


 人間は神経の電気信号で体を動かしてるって聞いたことがあるし、その辺をめちゃくちゃにしてる……のだろうか?ダメだ。俺の知能じゃどう頑張ってもわかりそうにないけど、すごい魔法には違なかった。


「確かにこれならさっきみないに危ない状況になっても返り討ちにできそうだ」


 俺の100倍は自衛力があるだろう。実際さっき守られたのは俺の方だったし。


「あのさ、大丈夫?」


 気づかないフリをしているのも限界に達し、俺はたまらずそう尋ねる。


 男を引き渡してからというもの、ステラさんは明らかに顔色が悪かった。さきほど俺が返り討ち、という単語を出してから、更に顔色が曇ったように見える。


「すみません。こういうこと、もう何度も経験しているはずなんですけど、やっぱり慣れなくて」

「縄で縛ってからハンターに引き渡す手際は板についてたように見えたけど」


あれは慣れていないどころかもはや熟練の仕事だった。


「確かに手際は良くなったとは思いますけど、なんというか、心は別の問題というか」

「ああ、そっか」


 ハンターに引き渡されたあの強盗未遂の末路は処刑か、強制労働か。まだあまり覚えられてないけど、たしか強盗は前者なんだったか。


改めて、この世界は命が軽いと思い知らされる。


けれどどれだけ命が軽いからといって、死というものはそう簡単に慣れるものでも慣れていいものでもないのだ。


「最初にさっきみたいなことがあった時、わたし野菜を分けてあげて、ハンターには通報しなかったんです。わたしには魔法があるんだから大丈夫だって、今思えばのぼせ上がってたんですね。それにあの時は、ハンターへの忌避感も正直あったので」


 やはりハンターへのマイナス感情はあったらしい。けど、「あの時は」と言うからには、今はないということで。いったいどのタイミングでその忌避感が消えたのかは気になるところだった。


「わたしは、たまたまおかあさんが野菜の育て方を教えてくれていたから助かったんです。もしそういった術を知らなかったら、わたしがあっち側になっていもおかしくはなかった。そう思うと、犯罪を犯してしまった人達にも、なにかどうしようもない理由があったのかもしれないって思えてしまって、どうしてもハンターに引き渡すことができなくて」

「でもそれは……」


 ステラは母親から正しい魚の取り方を教えてもらっていた。強盗をしてしまうような人たちは、正しい魚の取り方を知らないのだろう。


 それは、たしかに哀れなことなのかもしれない。でも、だからといってそんな人達に魚を与えたところで、すぐに飢えてしまうだけだ。そのまま飢えて死ぬならまだいい。でも現実じゃあそうはならない。


 そりゃあそうだ。誰も餓死なんてしたくないんだから。ならどうするか。また犯罪に手を染めるだけだ。


 ステラの言う通り、彼女は何度強盗に入られたところであの魔法を使えば何度でも撃退できるかもしれない。でも。


「わかってます。ダメなんですよね。わたしはたまたま自衛することができるから無事でしたけど、もし別の人が襲われたら、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。見逃すことはできないんですよね。そう諭されました」


 ステラはやるせない笑みを浮かべる。


 俺がどう伝えたものか言いあぐねていたこと。それはどうやら以前に誰かから言われたことらしい。


「諭されたって、誰に」

「テトさんにです」


 予想外の名前が出てきて、俺はあっけに取られた。

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