全てが向こう側にある
「魔力を増幅する手段……ですか。どうしてそんなものが気になるんです?」
ここは異世界だ。そういったものもあるかもしれない。そうすれば、足りない魔力を補ってボルドルさんの体の瘴気を消し去ることもできるかもしれない。そう思った俺は夜、神父様のいる書斎へと訪れていた。
「いや、全然魔法ってのが使える気がしなくて。そういうのがあれば、俺でももしかしたら使えるようになるのかなーっと」
「マサトの場合、魔力が足りないというよりも、どうやったら魔法が使えるかがわからないのが問題だと思いますが……。んーそうですね。これは記録というよりも、どちらかというとお話的なものなのですが」
初めて魔法についてを知った時から、俺が魔法を使う、ということに強い興味を示していたのが功を奏したのか、急にこんなことを聞いても特に疑われることなく済んだ。
「ぜひ聞かせてください!」
「なんでもかつて、壁内と壁外を遮るこの壁を作る際にも、魔力を増幅する秘宝が使われた……という真偽の定かではない噂があるにはあるんですが」
「噂、ですか」
魔法がある世界に生きる人たちにとっても、そんな秘宝は眉唾ものってことなんだろうか。魔法も標石も瘴気も、俺にとっては全部おなじくらい眉唾ものに思えるのに。
「神父様から見て、それはどのくらい信憑性のある噂なんですか?」
神父様は顎を親指と人差し指でつまむように考え込む。
「そうですね。あの壁が、いくら秀でた魔法使いであったとしても、個人の能力でできるものではない、というのがわたしの意見です。しかし、単純に壁を作ったのは大人数で、時間をかけていた、という方がまだ説得力はありますかね。先祖の偉業が大げさに語り継がれるというのは、よくあることですから。
まあもし魔力を増大する秘宝なんてものがあったとして、それが今もあるのか。あるとしてどこにあるのか。なにもわかりませんがね」
「そう、ですか」
神父様はそう言ったけど、その秘宝が本当にあったとしてどこにあるのか。そんなものは決まっていた。決まりきっていた。
王族の先祖とされる魔法使いが壁を作るために使った秘宝。それがある場所なんて、壁内しかないじゃないか。だからそれは結局、壁外にいる俺たちにとってはどこにも無いのと同じだった。
魔力を増幅する秘宝も、安全な食事も、標石も。なにもかもうがあの壁の向こう側にある。
やめろ。余計なことを考えるな。妬んでる時間がもったいない。次だ。次を考えろ。思考と行動は止めるな。