今度は俺が
日が暮れた頃、テトが帰ってきた。
ボルドルさんはギルドの長だった。カリスマ性や精神的な支柱という意味でもそうだし、狩りの能力でも、彼は長だった。だから、ボルドルさんを24時間監視しなくてはならない今の体制だと腕利きのハンターが複数人仕事から抜けることとなる。テトはその穴埋めで毎日奔走しているらしかった。
今日もテトは神父様にキュアをかけてもらったはずなのに疲れ切っている。まさかキュアで精神まで回復しないという実例をこんなにも早く見ることになるとは思わなかった。
「テト、ボルドルさんについて話が」「聞こう」
ボルドルさんの名前が出た瞬間、テトは食い気味に答えた。
こいつが、ボルドルさんを救うなにかが見つかるのを誰よりも心待ちにしている。
だが、これからする話はテトの期待を裏切るものだ。それでも嘘をつくわけにもいかなかった。意を決して俺は今日のことをテトに話す。
浄化魔法を開発したこと。そして、体に蓄積した瘴気を消し去るにはとてもじゃないが魔力が足りないことを。
「そうか」
すべてを聞いて、テトはそう短く答えて目を閉じて壁に頭を預けた。
期待していた浄化魔法がダメだったというのは、やはり相当きつかったかだろうか。そう案じたが、
「それで、どうする」
テトは目を閉じたまま、何事もなかったかのようにそう聞き返してきた。
「今考えてる」
正直に答えた。嘘で希望を与える必要なんてないと思った。だって、テトの心は折れていない。ボルドルさんを救うことを諦めてはいない。
「なら、大丈夫だね」
テトはそう言ってあくびをした。俺の話を聞いてなかったのだろうか。
「いや、なんでそうなる。正直今のところ、これって方法はなにも思いついてないんだよ。諦めたわけじゃないけど、全然大丈夫でじゃないぞ」
「冷静に考えたらそうだろうね」
「なら」
「でも、魔核で瘴気を防ぐマスクを作るなんて馬鹿げたことを思いついたのは君だった。そして、瘴気を消す魔法なんて馬鹿げたものをを開発しだしたのも君で、標石を取りに死の洞窟に行くと馬鹿なことを言いだしたのも君だ。全部が笑えるほど馬鹿らしいことだったのに、その全部を君は成し遂げてきた。ぼくはいくら考えたところで、そういった発想は何一つできやしない」
「それは、たまたま使えそうな知識があったってだけで……それにテトがいなかったら、俺はガスマスクも作れずとっくにくたばってる自信しかないぞ」
誇張じゃなく2、3回は確実に死んでる。
「ああ。確かにそれはそうだ。でもどうやら、やっぱりぼくはこういう荒っぽいことしか能がないらしい。だから、頼む。これまでみたいに、またなにか思いついてくれ」
テトは壁に預けていた頭を戻し、ぼくの目をまっすぐに見た。
「期待してしまうんだ。また馬鹿げたことを言い出して、ふざけた現実をぶち壊してくれるんじゃないかって」
「だから頼むよ、マサト」
期待されていた。今までずっと、俺がみんなにしてきたこと。孤児院のみんなに頼り切りだった俺が今、テトに頼られていた。
「ああ、任せろ。ボルドルさんを救う方法を、必ず見つける」
自信はなかった。それでも、ボルドルさんを救うのを諦めるなんて気は、俺も微塵もないのだから。
それに、頼られたら応えたくなるもんだろ。