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覚悟の所在

「納得できない。なぜぼくじゃないんだ」

 テトは掴みかかる勢いで、バンドルさんの監視役となったアドランゼルとピンチ―に詰め寄っていた。


「腕の良い奴から選んだ。文句はないだろう?」

「あるね。腕で選んだのならぼくが選ばれないのはおかしい」

「うわー、言うね―。まあ事実だけどさ」

「待て。ギルド最強はこの俺、漆黒のアドラン」「はいはい。そういうの今いいから」

「……」


 ピンチ―に口上を割り込まれ、アドランゼルは押し黙った。


「じゃあ聞くけどさー。テト、ボルドルさんを殺せるわけ?」

「殺せる。その覚悟はハンターになった時からできてる」

「ボルドルさんが魔物になった後ならそうかもね。でも殺らなきゃいけないのは、その前だよ」

「クックック。おまえに殺せるのか? 家族を」


 アドランゼルは力がほしいか?みたいなポーズで問いかける。だけど、茶化して聞くことじゃないだろと怒ることはできなかった。ふざけたポーズとは裏腹に、その眼と声音は真剣そのものだったから。


「家族だからこそ最後はこの手でと思うのは、おかしいかい?」

「くく、そうか。だがそう言って土壇場になって手が動かずに殺されたハンターを俺は知ってるし、土壇場で庇って仲間のハンターを殺したやつも俺は知ってる。おまえも知ってるはずだろう」

「ぼくはあいつらとは違う」

「誰もがそう思ってる。俺は逃げない。勇敢な最後を。口でだけなんとでも言えるのさ。だが、土壇場になってどんな選択をするのかは、本人にだってわからない」

「それは君たちだって同じことだ。そうだろう?」


 そう反論されて、アドランゼルとピンチ―は顔を見合わせて肩をすくめる。


「かもねー。ボルドルさんには、世話になったなんて言葉じゃ言い表せないくらい、世話になったし。私、バカだから他の表現とか思いつけないけど」

「確かにいくら感情のない俺といえども、土壇場で手が止まってしまう可能性はあるな。なにせ、相手はボルドルだ。ハンターであの人の世話になってない人など一人もいないだろう。みんなあの人にどん底からすくい上げてもらったんだ」

「だったらぼくでもいいだろう。条件は同じだ」

「いいや違う。おまえとリーゼだけは、ボルドルさんに殺させるわけにはいかないからな」


 アドランゼルの言葉に、さっきまでなにを言われても即座に反論していたテトが、初めて口をつぐむ。


 ボルドルさんを殺せずに手が止まってしまうということ。それは、魔物になったボルドルさんに殺されるということと、ほとんど同義だ。ボルドルさんに家族を殺させたくない。ハンターのみんなはそう思ってテトを候補から外したらしい。


「まあそういうわけ。ずっと私達二人が監視するってのも無理があるから、他の連中に交代することもあると思うけど、テトに任せることだけはないよ」

「くく。悪いが誰かが家族を殺すのを見るのも家族に殺されるのも見るのも、俺は御免なんでな」


 死ぬ覚悟、殺す覚悟。これがそれなのだろう。おちゃらけた風に見える二人の眼には、確かな覚悟が浮かんでいた。

 俺はテトの眼を見た。感じるのは、迷いと焦りだけだった。そこに以前まであったはずの覚悟はもう見えない。


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