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夢のタイムリミット

 洞窟から出たところで、少しは回復したらしいテトの水魔法で化け蜘蛛の体液を洗い流してもらった。体液とおさらばできた代わりに今度はビショビショになった。水も滴るいい男だと思ってこれくらいは我慢するとしよう。


 再会したギース達が「グギャァァ!」と鳴く。あの化け蜘蛛達を見たあとでは、この顔も可愛らしく……はさすがに感じないが、すこしは愛着が湧いてきた。キモカワ、ブサカワなんて言葉もあるくらいだ。それはまさにギースのためにあるような言葉だろう。


 ポンポンとギースの首を叩き、背中にまたがる。ギースはまた「ギャッギャッ!」と鳴いた。今度の鳴き声は、心なしか嬉しそうに聞こえた。




「なあテト。多分、俺の瘴気への耐性、ほとんどないと思う」


 吸収缶の交換の時、俺はそう切り出した。それはここ最近、というかこの世界に来てからしょっちゅう考えていることだった。


「瘴気の存在しない世界から来た俺に、瘴気の耐性があるってのもおかしな話だからな。魔核も、こっちの世界に来て一瞬で形成されたしさ」

「その可能性は、高いだろうね」


 魔核は幼少期に生成される。そして、生成される時期が遅ければ遅いほど生存率は高いらしく、瘴気への耐性も高いことが多い。ならば、この世界に来てすぐに魔核が生成された俺の瘴気への耐性は著しく低いということになるだろう。俺が魔核の生成に耐え、今も生きていられるのは、単純に赤子と違い体が出来ていたから耐えられた。それだけのことなんじゃないかと思っている。ハンスにすぐ助けてもらえたのも運がよかったのだろう。


 俺はスープを飲むのも、相変わらず他の人の倍以上時間かかる。自分の瘴気への耐性が低いと思い知らされることは多々あった。その度に俺は実感してきたのだ。自分に残された時間は、多分そう長くはないだろうと。


 自分の掲げた夢が、それこそ夢物語であるということは重々承知していた。一年やそこらで叶えられると思い上がるほど夢に溺れてはいなかった。どちらかというと、というか十中八九俺が道半ばで死んでしまう可能性の方がずっと高いだろう。寿司を食べるという目標に向けて、自身の延命措置は必要不可欠だった。


「まさか延命のために作ったガスマスクの性能を証明するために、命をかけることになるとは思わなかったけどな」

「死にたくないというのなら、洞窟に行くのも、すべて僕に任せておけばよかったのに」


 結果的に、俺がいたことでテトは助かった。偶然とはいえ、あの化け蜘蛛の親玉にトドメを刺したのは俺なのだ。けど、普通に考えれば大して戦力にならない俺は足手まといになる可能性のほうがずっと大きかった。俺というお荷物が居ない分、テトは一人の方がスムーズにことが進むかもしれない可能性すらあった。そうわかった上で、俺は洞窟へとついていったのだ。だって、


「嫌だったんだよ。自分で言い出したことなのに、危険なことは全部他の誰かにやらせます、なんてさ」

「実現不可能なバカみたいな夢を抱いているという自覚があるくせに、その上手段も選ぶなんて、君はこの上なく欲深いね」


 確かにそうかもしれない。


「でも俺が一緒に行ったことだって無駄にはならなかっただろ。瘴気への耐性が低いだろう俺が、あんな瘴気の深い場所に行ってきてピンピンしてる時点でガスマスクの性能は保証できたも同然だ」


 これが、洞窟へ行ったのがテトだけだったならどうだろう。街の連中はテトのことを魔物モドキ、なんて思ってるのだ。元々魔物なんだから耐えられてもおかしくない、なんて思われてしまうかもしれない。


 標石は有用だ。この鉱石いろんな可能性を秘めている。だが標石が手に入ったとはいえ、すぐにガスマスクの性能を証明できるか、というと難しいと思う。


 でも、瘴気に耐性のない俺が、瘴気に汚染された場所から生還したとなれば話は別だ。標石は疑う奴らへの証明になる。なにせ、もう採掘ができないとされてる代物だ。壁内から盗んだ、と疑うやつもいるだろうが、何日か経って壁内からなんの音沙汰もなければ納得するだろう。そういう計算も一応はあったのだ。


 標石があれば、瘴気の汚染度が調べられる。それはもうすぐ魔物になってしまう者を判断できるということだ。その情報があれば、街中で魔物化した人による被害も減らすことができるはずだ。知り合いに襲われる、なんてふざけた事件も少しは減らせるかもしれない。ガスマスクの性能の証明と、街中における魔物による被害の減少。今回の無謀とも思えた遠出の収穫は大きい。


 問題があるとするならば、これからエルミーと相対しなければならないということだろうか。俺たちは、無茶せず一緒に暮らしていて欲しいというエルミーの気持ちを無下にして出発したわけだ。そのことでボコボコにされるくらいならまだいい。ただ、嫌われすぎて当初の目的だった光魔法の協力を拒まれたら最悪だ。


 それに、なんだかんだで仲良くなってきたんじゃね?って勝手に思っていたエルミーと、また元の険悪な仲に後戻りとなると俺も辛い。街に帰る途中、ギースの上でエルミーへの言い訳をいろいろ考えたものの、特に良いものは浮かばなかった。


 結局、ギースのおかげで洞窟までの行き来はたったの2日で完了してしまった。


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