表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/76

度重なった幸運

 その後、洞窟内で他に標石がないか見て回る最中、俺たちはあの化け蜘蛛の親玉と同じくらい大きな蜘蛛の姿を見つけ、二匹目!?ととっさに身構えたが、それはぴくりとも動かない。


 テトが俺の剣で斬りつけるも、ガキンと金属同士をぶつけたような音が鳴り響き、テトの腕が弾かれた。


「なんだこの硬さは」


 テトが手首を振りながら化け蜘蛛を見つめた。


「ちょっと、変わってくれないか?」


 ホラー映画とかだと急に動き出したりするのだが、俺が剣で突いてもびくともしない。思いっきりぶっ叩いても、テトの時と同じように弾かれて刃が通らない。じんじんと手がしびれた。感触などほとんど覚えてはないが、明らかに異なっていた。


 本当に死んでいるようだった。


「お、驚かせやがって……ん?」


 いや待てよ。それはおかしいだろう。だって魔物は死ぬと塵と化す。それがこの世界の常識だろう。だから、死体なんて残らないはずだ。じゃあ、やっぱり生きているのか……?


「ああ、そうか」


 俺は、ピクリともしない化け蜘蛛の正体に思い至る。


「これは……抜け殻だ」


 そうだ。蜘蛛は脱皮する。俺は、蜘蛛ではないが脱皮してすぐのカニのハサミを触ったことがある。本来硬いはずのそれは、ペコペコと、まるで紙パックのように柔らかくなっていた。


 そして、それを証明するように、蜘蛛の体は裂けたような跡があり、その中は空になっていた。さすがにこれが動き出すってことはないだろう。


「ぼくらが戦ったのは……もしかして脱皮直後だったのか?」


 テトの漏らしたつぶやきに背筋がすーっと寒くなった。もしそうだとしたら。もし俺たちが戦ったのが、堅い鎧を脱ぎ捨てた直後だったのだとしたら……。


 運が良い、なんて言葉で言い表せないほどの幸運だった。もし脱皮前だったら、外骨格が完全に復活したあとだったとしたら。俺のへっぴり腰で構えた剣などまるで刃が立たず、間違いなく俺は殺されていたことだろう。前足を振るわれたテトも無事では済まなかったかもしれない。俺はごくりと唾を飲み込んだ。


「君は……本当に運がいいね」


 テトが再度俺にかけたその言葉には先程と違い、驚愕、そして幾分かの恐れすら含まれているような気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ