証明のために
ギースの騎乗訓練は困難を極めた。乗るのが難しいわけがない。さすがに初回から乗りこなすことはできなかったが、ギースは見た目に反して非常に素直で賢い。少しすればすぐに走らせることができるようになった。問題はケツが痛くなることである。現代の技術で揺れの抑えられた車に座っているだけでもケツが痛くなるのだ。こんな躍動感のある乗り物、ケツへのダメージは計り知れなかった。今日もケツの痛みに耐えながら、神父様の魔法で治療してもらおうと孤児院の中をヘンテコな歩き方で移動していた。
食卓に座ったエルミーが俺を見て、「歩き方きもっ!」と吐き捨てる。
「この歩き方はおまえに俺が詐欺師じゃないって証明するために現在進行系でやってる努力の結果なんだぞ」
その努力を証明する歩き方をキモいとはなんだ。俺はたまらずに言い返した。
「ふーん。なんか最近テトとまたコソコソやってると思ったら、まだ諦めてなかったんだ」
「夢っていうのはそう簡単に諦められないから夢なんだよ」
「大抵の場合叶わないのも夢なんだけどね」
なにか言い返そうとするも、結局俺は「んぐっ」、と負け犬にふさわしい情けない声を漏らすだけだった。ああ言えばこう言いやがって。およそ子供とは思えないレスバ力だった。
「で、具体的になにをやってるわけ?というかなにをやったらそんな情けない歩き方になるわけ?身売りでもして尻でも掘られてるわけ?」
「そんなわけないだろうが」
まったくなんて恐ろしいことを言い出すんだこの少女は。よくそんな偏った想像ができるものだ。この街の子供はみんなこんな風に思考がうす汚れているのだろうか。それともエルミーが特別なのだろうか。誤解をどう弁解するかと頭を悩ませる。
ガスマスクの試作品の試行錯誤、魔核の研究、ギースの騎乗訓練。色々と現在進行形でやっていることはある。騎乗訓練のことを話せば誤解はすぐに解けるだろう。しかし俺は「まあ、近々話すから期待せずに待っててくれよ」とお茶をにごした。
エルミーは「ふーん」とジロジロ俺を見たが、最後には「まあ、せいぜい頑張れば?」と小馬鹿にしたように鼻で笑った。いや、小馬鹿にしたようにではない。「せいぜい」とつけていることから完全に馬鹿にしているのだろう。
今に見ているがいい!と俺は心の中で叫ぶ。なぜ口に出さないかと言うと、ここで大言を吐くとガスマスクが失敗に終わった時、めちゃくちゃ恥ずかしいからである。