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覚悟なんてできないけども

「ガスマスクのこと、ホメロスさんに頼んでも大丈夫なのか?他の連中にも俺たちの目的はできるだけ言わない方がいいって言ったのはおまえだろ?」


 ホメロスさんのところにガスマスクの製造を依頼してこいとテトに言われた俺は、以前された忠告を思い出していた。俺らの目的が教義に反するとかなんとか。


「それはこの世から瘴気を無くして寿司を食うっていう目的についてだよ。ガスマスクなら壁やバンダナとアプローチの方向的には大差ない。問題ないだろう」


 そうか。そりゃそうだ。壁の中にいるという時点で瘴気を対策しているのだから、それが教義に反するというのはありえないのか。


 教義に反する異端者として火炙りにされる、なんてことにはならずに済みそうだった。



「いいぜ」


 ガスマスクのことを伝えると、ホメロスさんはガスマスクの制作を二つ返事で了承してくれた。


「意外ですね。絶対取り付く島もなく断られると思ってたんですけど」

「なんだおめえ。断られると思って依頼しにくるバカがどこにいるんだどアホ」


 せめてバカなのかアホなのかどちらかに絞ってほしい。


「俺らは特にそのガスマスクってのが完成した時の恩恵がでけぇからな。手伝うだけの価値があんだよ。おいボケ、鍛冶をするにはなにが必要だ?」


 ホメロスさんは明らかに俺の方を見て尋ねる。唐突にはじまる鍛冶屋クイズである。間違えたらボロカスに言われるんだろうなあ、そもそも答える前からボケって言われてるしなあと思いながらも、頭を働かせて答えを探す。


「……鉱石とか、金属とか?」


 あとは燃料だろうか。


「で、鉱石を手に入れるにはどうすりゃいい?」


 正解!と言ってくれるわけでも頷いてくれるわけでもなかったが、怒鳴られないあたりそう外れてはいないようだった。


「そりゃあ掘って……ってそうか」


 鉄を掘るには、どこに行く?そんなの決まってる。鉱山だ。他になにか鉱石を入手できる場所があったとしてもそれはおそらく街の外である。当然、瘴気は濃い。


「ああ。まだ人が踏み入ることができる鉱山はこの辺りにもいくつか残ってる。けどな、街より瘴気が濃いってのは明らかだ。もし、万が一、億が一そのガスマスクとかいう夢みたいなもんが作れるなら、てめぇに頭を下げて靴をべろんべろんに舐めてもいいくらいには恩恵があんだよ。俺らにぁな」

「ダメですよあなた。靴を舐めるなんてばっちいこと」

「誰がこんなやつの靴なんぞ舐めるかよ」


 いや、さっき自分で舐めるって言ったじゃん。いや、そんな嫌なことをしても良いと思えるほど、ガスマスクは外で活動する人々にとっては希望に見えると、そういうことなのだろう。


「もうすぐ、子供が生まれるんだ」


 ホメロスさんの突然の告白に、俺はマリーさんのお腹を見る。マリーさんは「えへへへ」と照れくさそうに少し膨らんだお腹を手で擦った。ゆったりとした服を着ているとは思ったが、まさか妊娠していたとは!


「お、おふたりともおめでとうございます!」

「ふふ、ありがとう」


 素直に微笑むマリーさんと違い、ホメロスさんは「フンッ」と照れくさそうに顔を背けた。


「だから、コロッと瘴気にやられて死ぬわけにはいかんのさ。そのガスマスクとかいうのを作れば俺たちも長生きできるかもしんねえって言うんなら手伝ってやる。別におまえらのためじゃねえ。俺自身のためにな。だから金なんていらねえぞ」


 ホメロスさんは不機嫌そうにそう言って、座っていた椅子の背もたれに身を預けて腕組した。


「ありがとうございます!よろしくおねがいします」


 俺は深々と直角にお辞儀をする。


「いえいえこちらこそ。瘴気を気にせず外を歩けるだなんてとっても素敵なことだと思うわ。あなたも頑張って作ってくださいね」

「おうよ。作るからには全力よ。わざわざ言われなくても当たり前のことだ」

「ですって」

「……はい!」


 こうして俺たちの協力者が二人増えた。それだけなのに、これならなんだってうまく行くかもしれないと思ってしまう俺はおめでたい奴なのだろうか。


「しっかし、仮に、仮にそのガスマスクってのがきっちり瘴気を防いだとしてもだ。標石が採れる洞窟にはギースに乗って行き帰りで2日前後かかるって話だろ?その間飲み食いはできねえ、少しの間でさえガスマスクを外すなんてこともできねえ。それに人間様の手の届かない領域で野放しになった魔物がいるかもしれねえ。おまえがこれから向かうのはそういう場所だ。わかってんのか?」

「脅すようなこと言わないでくださいよ」


飲水はテトがいればなんとかなるらしいけど。


「脅しも何も事実じゃねえか。覚悟はできてんのかって聴いてんだよ」

「もう行くって決めてしまったので」


 覚悟なんてできるものか。だから俺がするのは、もし駄目だったらって思考を避けることだ。考えるから足が止まる、ならば、一気に走り抜けてしまえばいい。俺がやっているのは、そういう小細工だった。現実逃避とも言う。


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