ガスマスク
ガスマスク。それは毒を防ぐという発想をするといの一番に浮かんでくるアイテム。ガスマスクなんて滅多なこともなければ一度も触れることさえない品物だ。普通に暮らしていれば毒ガスなんて防ぐ必要がないから当たり前ではある。
だけど俺は当時中二病を患っていた際にその独特のイカしたフォルムに惹かれ、すこしだけ調べたことがある。
ガスマスクの部品はおおまかに分けて、面体と呼ばれる顔全体を覆うマスク部分と吸収缶と呼ばれる特定の毒を中和する、薬品などが仕込まれたものの2つに分けられる。その吸収缶の中身、この場合は瘴気を中和するなんていう夢のような材料を探すのに時間を浪費していたわけだが、ついにそこに使えそうな材料を見つけたわけだ。それが魔核である。
中和とは違う気もするが、魔核は瘴気を吸収する。瘴気を防ぐという意味では効果が期待できるだろう。マスクと吸収缶が一体化しているものと、吸収缶が別になっているものに別れていたと思う。違いはよくわからん。かっこいいと感じたのはマスクだけの一体型の方だったのでそっちしか調べてないのだ。もう片方の方はなんかチューブみたいのが口の部分から出ていて、だっさいなあと思った記憶しかない。クソ、こんなことならもっと調べておけばよかった……。
「なるほどね。原理はわかった。ようするに、バンダナマスクのすごい版ってことだ」
テトがうんうんと納得げに頷いた。まさしくその通り、バンダナマスクのすごい版である。そもそもバンダナマスクにどれほどの効果があったかはわからない。実はほとんど効果ないんじゃないか?という疑いすらあった。
「そんで魔核は瘴気を吸収する。なら、こいつを粉々にして吸収缶に詰めて、呼吸をそこを通して行えるようにしちまえば、瘴気を浄化できるんじゃないか?」
テトは目を閉じ、顎に指を添えてじっくりと考え込む。
「問題は二つある」
そう言ってテトは目を開き、指を二本立てた。
「一つ、聞く分にそのガスマスクとやらのマスク部分、それこそ顔部分に完全にフィットして、外から空気が入らないようにする必要があるようだけど……ぼくたちじゃ到底そんなもの作れないってこと。誰か職人に協力してもらう必要がある」
「それはそうだな」
ホメロスさんくらいしか心当たりはないが、協力してくれるだろうか。先に奥さんのマリーさんの方を懐柔すればいけそうか……?
「2つ。仮に作れたとして、その効果を確かめる手段がないってことだ」
「バンダナだって気休め程度だろ?少なくともそれに比べればマシ……のはずだ」
魔核が瘴気を吸収することは間違いない。ただ、それで完全に瘴気を防げるのかはわからないのだ。瘴気による汚染の度合いなど、確かめるすべはないのだから。
「……いや待てよ」
瘴気による汚染の度合いを確かめる方法は、本当になにもないのか?いや、あるはずだ。俺はそれを知っている。なぜならついこの間俺は見たのだから。瘴気からの汚染が一定値を超え、壁外へと追放され、そして死んでいった哀れな親子の姿を。