嫌な可能性
それから二日が経った。テトと共に瘴気が濃い原因を探したがなにも成果をあげられず日毎に焦りだけが増していった。
「なあテト。瘴気が濃いってところの中心点とか、そういうのを探したりできないのか?」
「孤児院あたりの瘴気が、他の場所より濃い気がする。ぼくにわかるのはその程度だって前もいっただろ」
酒場、酔っぱらい共の騒がしい声と酒の匂いの中、俺たちは聞き込み調査をしていた。酒の味はわからなくともきっちり酔えるので、酒場は大繁盛している。そりゃあこんな世界、酔ってなきゃやっていけないだろう。
「でもこうも手がかりがないと……」
「そもそも孤児院周辺の瘴気が濃いという直感は、ハンスの病状の悪化にはなにか解決可能な原因があってほしいというぼくの願望が見せた幻覚という線も否定できない」
「それは……」
ないとは言えなかった。そんな希望にすがるよりも、残された時間をハンスとより長く過ごす方が正しいのかもしれない。それでも、俺はあるかもわからない原因を探す方を選んだ。
「それでもやめる気はない。俺はおまえの感覚を信じたい」
そう、信じたいのだ。だってたとえそれが嘘だとしても、希望がなければ人は生きていけない。
「それにしても最近ダゼルを見ないね」
「ダゼル……?」
いくら思い返しても聞き覚えのない名前だった。
「ああ、ダゼルはマルベルの恋人の名前だよ」
ああ、そういえば名前を聴いたことなかった。マルベルさんの店の奥で拘束プレイしてるらしいけど、今思えば一度も見たことがない。見掛けていても顔を知らないから認識していないだけかもしれないが、どういう人なんだろうか。ドMなのは間違いなさそうだが。
「なあ、そのマルベルさんの恋人ってなにしてる人なんだ?」
「うーん、難しいところだね。自称吟遊詩人ってところかな。」
自称って、それってもしかしてニートってことなんじゃ。
「酒場で歌ってることも多かったよ。あんまり報酬は多くなかったみたいだけどね。最近はめっきり見なくなったな」
「ああ、マルベルさんが子作り強化月間とか言ってたけど……ほんとに愛の巣って感じになってるもんな」
店に行くたび奥でイチャイチャしてるのだ。気まずいったらない。
「ホントにあいつらは呑気なものさ」
「確かに。でも拘束具はさすがにやり、す、ぎ……」
突如としてある一つの可能性が浮かんで、俺はめまいに襲われテーブルに手をつく。
「どうしたのさ」
「あ、ああ。いやなんでもない」
テトが途中で言葉を途切れさせた俺を不審そうに見る。
それは、そんなのあるわけないと鼻で笑い飛ばすべき可能性で。それでもその可能性は一日中頭にこびりついたまま離れることはなかたった。