第三百二十七話 アトリエ
読んでくださりありがとうございます。とうとうジャロとロンドールの2人はアトリエとの邂逅を果たすようです。
2人が進んだ先は緩やかな階段となっておりジャロとロンドールがそこを降りて行くとやがて大きな円形の空間へと辿り着いたのであった。その先にはもう道は見えず、ここがこの建物の一番奥底のようである。
2人がその空間へ足を踏み入れると足音に気づいたらしく奥で後ろを向いていた白衣の人物が振り返った。どうやらこの人物こそアトリエという人物なのだろう。隣のロンドールはやや強張った表情をしていたがやがてその人物へ声を掛けた。
「……アトリエ、久しぶりだな」
「……そうですね、久しぶりです……先生」
言葉とは裏腹にアトリエの表情は能面のように虚無であった。その事はジャロに僅かな恐怖を感じさせた。
「せっかく来ていただいたのですからこんな場所では雰囲気も無いでしょう。……なぁに少し揺れるだけですよ」
そう言うとアトリエは手元のスイッチを操作した。揺れる、その単語にジャロが疑問を抱いたその瞬間床が少し揺れ出したと思うと下からドンと突き上げられた感触があった。
そうかと思うと目の前の景色が急速に下に下に流れて行ったのである。状況が掴めないままやがて揺れが収まり周囲は真夜中の外気に溢れていた。
「……これは地上に移動したのか?」
「ええ、今日は景色が良いですから。先程まではここ、ネシュテルーエ城の一番奥底にいました。ここは一番高い所になります。ここなら空も良く見える」
「……なるほど、一番高い所か。確かに今日は満げ……! まさか!」
言い終わらない内にロンドールは何かに気づき空を見上げた。雲にやや隠れてはいるが夜空には満月が輝いていた。実情があまりわからないジャロはただその場に立ち尽くすだけであった。しかしジャロにはゆっくりと話すアトリエの後ろに白い煙が少し噴き出しながら動くやや大きめの機械が見えた。何となく嫌な予感がした。
「おや先生はやはり察しが良いですねぇ。それに後ろにあるこの機械にも見覚えがあるはずです。なにせあなたのお父様が作られた機械ですからね。この機械はかつては月の光をもとに、今は星の光も含めて魔力の複製のためのエネルギーを形成する代物ですよ。……もっとも私の手によって改良はされていますが」
そう言うとアトリエは翻って機械の方へ歩き出した。丁度手が届きそうな所にレバーのような物が見えた。何かのトリガーだろうかとジャロが思ったその瞬間アトリエはそのレバーを力一杯押し上げた。謎の機械に何やらエネルギーが充填されたかと思うと先程までアトリエが立っていた箇所に放出された。
「この機械は貯められた魔力を集中させ放つ事が出来るよう改造が施してあります。元々の設計だとただ放出するだけでしたから無作為にモンスターを呼びましたが、これなら任意の場所にモンスターを呼ぶことが出来ます。……ほらそんな話をしている間に」
アトリエが言い終わらない内に上空から何かが降ってきたのである。降りた衝撃で舞った土埃が晴れジャロがその場を見るとモンスターの顔が目に入った。ジャロがそのモンスターを視認した瞬間とジャロの視界がブラックアウトする瞬間はほぼ同時の事であった。
『サムライ・ゾンビ lv.30が現れた』
……戦闘開始か。何となくこのモンスターには見覚えがあるな。まあ戦えばもっと思い出せるな。
『サムライ・ゾンビの撫斬 アトラスに50のダメージ』
『アトラスの居合一閃 クリティカルヒット サムライ・ゾンビに合計72のダメージ』
アトリエは改造した魔力複製装置によってモンスターを呼び出したようです。厄介なモンスターを呼ばれましたがアトリエの思惑はこんなものでは到底ないはずです。どうやらまだ秘密がありそうですね。