第二百七十六話 催眠は解ける、魔導の力で
読んでくださりありがとうございます。ファトーレの名前は正式にはアルファ・トーレスと言います。つまり彼は何らかの方法でこの時代に蘇った過去の人なのです。
ふぅ、倒せたか。無事に当たってくれて良かったよ。
「……倒された……だと? ……ふ、……ふははは。やはりこの男は厄介だ、敵にしておくのが勿体ないくらいだ。しかし残念だがここで俺の仲間モンスターが倒されたことは何の意味も持たねぇんだ。……俺の魔導の力を使えばな」
そう言うとファトーレは倒された仲間モンスターめがけて右手を差し出した。そこから流れる黒紫のオーラがファトーレの仲間モンスターに降りかかると動けなくなったはずの彼らがまた動き出したのである。
「催眠による強制蘇生だ。……つまり分かりやすく言えば俺のモンスターは不死身ってことだ」
そんなのアリなのか? と言いたげな顔をジャロはしていた。無理も無いだろう以前はその魔導の力は使って来なかったからである。
「裏で大きく動いていたから発動出来なかった魔導の力だが今なら発動出来る。……ふ、さて、もう一戦と行こう……ん? 貴様今何を投げた」
ファトーレの方を見るとその胸元には短刀が突きつけられていた。突きつけられるほど近づいた人は居ないのでその短刀は恐らくオリヴィアによって投げられた物であろう。
「お前がジャロとの戦闘に気をとられ魔導を発動している隙を突かせてもらった。ジャロが大きな隙を作ってくれたおかげだ」
「終わり……? 貴様は冗談が好きだな。これきしの短刀でこの俺が終わりな訳が無いだろう。こんな物魔導の力で砕け散らせてやるわ! ……あぁ⁈ なんだ?」
ファトーレは魔導の力を使い刺さった短刀を砕こうとした……が何も起こらなかった。そのやや滑稽な姿ではあるがなぜこうなったか説明出来る者はいなかった。……ただ1人を除いて。
「……その短刀はな。……俺の師匠が作ったもんだ。……その師匠はな魔導の力に長けていてなお前もよく知るトーレス家の魔導士だった」
「……貴様この俺に何をした。一介の……コマンダーを仕切るだけの存在に魔導の力なんぞ扱えんはずだ! ……それにトーレス家……だと? あぁそれはそれはよく知ってるさ。この俺が始まりだからな」
「……師匠はトーレス家の魔導の力が悪用されないようその魔道具を作った。宵闇の解剖刀って言うんだけどなそれ。……死者の霊魂を遺物から召喚する魔導の力を持つが実はそれだけじゃない。使用中如何なる魔導の力も突きつけられた者には発動出来ないという効果もあるんだよ」
ファトーレは体を動かせぬままマバロの話を聞いていた。その顔は怒りに満ちていたその真っ赤な顔が徐々に、徐々に青ざめていくのがジャロには手に取るように感じられた。
「トーレス家の祖アルファ・トーレスよ、お前は過去の人だ。現代に蘇りその名を汚すんじゃねぇ。……お前がかけた全ての催眠を解くのだ‼︎」
マバロのその声を契機にしてファトーレの姿が透け始めやがてゆっくりと消えていった。完全に姿が消えたそのタイミングでコツンと言う音がした。どうやら骨のような物が落ちた音のようである。
「……つまりはこの宵闇の解剖刀を使って呼び起こした後催眠で蘇生したと言う訳だな。それがまたこれによって封じられるとは……ね」
説明が非常に難しいんですが、ファトーレは宵闇の解剖刀によって魔導の発動が制限されました。そもそも彼はすでに死んでいる人で魔導の力による催眠で自分を動かしているだけに過ぎない存在なのです。そのため魔導が発動できなければ動くことが叶わず、催眠が解除されるのを防ぐことも出来ず消滅したという訳です。