第二百五十五話 少年の名は
読んでくださりありがとうございます。レイテントの陰謀は果たして止められないのでしょうか。
状況が悪すぎるな……。これはイベントが失敗したって言う流れになるのかな? でも進行不可能って訳では無さそうだからきっとどこかに逆転の手があるはずだ。あるはず……なんだが、今のところさっぱりわからないね。
マバロさんはここから出ろって言ってたけどこの国からも出た方が良いのかな。そもそもスートさんの手紙を届けに来ただけでこんなに厄介なイベントになるとは思わなかったけどな。この国を出る前にアグエラさんには会っておきたいし、少年が孤児院で待っていると心が痛むからな。孤児院にも寄ってから出国したい。……孤児院から行くか。
さて、孤児院に着いたな。ここはまだ騒ぎにはなっていないのかな。まあ騎士隊が見つけただけで国民にその情報が既に行き渡っている訳は無いか。ええと、少年はどこかな? ……あ、いたな。……なんだか顔色が悪そうだな。
「あ、お兄さん。ついさっき女王様が暗殺されたらしいって聞いたんだけど本当なの?」
どうやら思ったより情報は早く広まるらしい。少年は半信半疑ながらもジャロに質問をぶつけて来た。まさかと一蹴出来るほどあり得ない話ではどうやら無かったらしい。なぜかまではまだわからないが。
「今騎士隊が調べているらしいけど恐らくその話は事実だと僕は思う」
「……あのさ、お兄さんが探していた遺体って女王様の遺体なの? 探していたって事はお兄さんが暗殺者じゃないんだよね」
「……確かに探していた遺体はビリジオ妃の遺体だよ。でも僕は暗殺はしていない。それは確かな事実」
「実は……昨日の夜遅くにあの部屋で大人が何か秘密の話をしていたみたいなんだ。その時に遺体ってちらっと聞こえたような気がして……。ねぇお兄さん、女王様は暗殺されたの? それとも遺体が見つかったの? 昨日の夜の大人の会話が頭から離れないんだよ。ねぇ、私はどうしたら良いの?」
少年は矢継ぎ早にジャロにぶつけた。そんな事ジャロにだって分からない事であった。ジャロはこの国の騎士隊では無い、一介のコマンダーなのである。こんな時に少年になんと声をかければいいのかジャロには全く言葉が見当たらなかったのである。
「こんな所にいらしたのか!」
息を切らしながら孤児院へ走って来る人影があった。その人影はジャロがこの後尋ねようとしていたアグエラその人であった。ややジャロが驚いた顔をしているとアグエラは手に握りしめてていた紙の束をジャロに押し付けるとさらにこう続けたのである。
「ジャロ様、この手紙をスートに届けてください! この国は、……崩壊を迎えるかもしれない。こんな時にアムニスヴェーレと戦争なぞしては……、してはならないのです! 出来るだけ早くこの手紙をスートへ届けて下さい‼︎」
アグエラの剣幕にジャロはただただ頷くしか出来なかった。しかしこの国を去る前に一つやっておきたい事がジャロにはあったのである。
「……ごめんよ、僕もまだ情報がいっぱいでまだ分からない事だらけだ。君の質問には答えられない。でもまたいつか会える時のためにも、……出来ればで良いんだ。……君の名前を教えてくれないか?」
少年はジャロのその言葉に少し躊躇いを見せたがやがて口を開いた。
「私の名前は、……お兄さんなら隠さなくても良いかな。そこのお爺さんもお兄さんの味方なんでしょう? ……なら良いよね。……私の名前は、……トリバ・ガロン。でももう随分と前にこの名前は捨てたよ。今はただの……孤児院の子どもさ」
「トリバね、覚えておくよ。……ん? トリバ? 今トリバって言ったかい?」
「トリバ……様? あなたは流行り病で亡くなられたはずでは……? まさかこんな所で……。ジャロ様、あなたがこの国でどう動いていらしたかは存じております。必ずやこの国をレイテントからお救いください。それまで微力ながら精一杯トリバ様をお守りいたしますぞ」
少年の名が明かされました。流行り病で亡くなったというのは嘘だったのでしょうか?
謎多き少年ですがレイテントの陰謀を止めるピースの一つと成り得る存在ですね。アグエラが守ってくれるようですのでしばらくは安心ですがレイテントに少年の存在が知られないようにしたいものです。