第二百四十七話 ギルドマスターマバロ
読んでくださりありがとうございます。また門前払いに遭うのは避けたいんですが……。
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ギルド ムーロサッケル支部
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ジャロが怖々ギルドの扉を開けるとやはり予想通りと言うべきか。入り口付近のテーブルで見覚えのある男性がグラスを片手に赤ら顔をしていた。受付は今いないのかカウンターには誰もいなかったが奥の方に壁にもたれていた男性はいるのが目視で確認出来た。顔覚えに自信は無いが恐らく以前の男性と同じ人物であろう。
「なんだぁ? コマンダーがここに用事なんてねぇだろうがよ。……しかも以前に見た顔だな。何しに来た? え? 言ってみろや。冷やかし以外にここに来るコマンダーなんていねぇよ。依頼も何もねぇんだからよ」
相変わらずすごい剣幕で追い返してくるな。こんな感じだったら冷やかしにすら誰も来ないだろうよ。……なんでまたここに用事があるのかなぁ。
「いや、ええと。その……、マバロさん……でしょうか」
「あぁ? 俺がどうかしたのか? ……待て、何故お前は俺の名前を知っている? 俺は名乗った覚えは無い」
「あの、手紙を預かっていまして……」
「手紙ぃ? 誰からだ。手紙なんて書かずに直接言いに来いや。……ふむ」
急に静かになったな。手紙に何が書いてあるんだろうか……。
そう思いながらジャロは手紙を読むマバロを見ていた。読み終えたのだろうか急にマバロは後ろにもたれている男性に首だけ向けるとこう言い放った。
「おい、お前騎士団所属だな? ちょっと騎士団副隊長を呼んでくれ」
「……ウィーノさんを? 確か今日は非番でしたが」
「非番だと? ……非番だとアイツは……。いやそんなことは良い。緊急事態だとか何とか言って引っ張り出して来い。今すぐだ」
「……はぁ、私が持ち場を離れれば見張りの意味が無いでしょうに。交代の者が来るまでお待ちください。いくら緊急事態でも私は持ち場は離れられないのですよ」
騎士団所属らしきその男性はマバロの言葉にやれやれといった具合である。そもそも見張りとは……、一体マバロは何をしたのだろうか。それにウィーノさんなら今アグエラさんの所で酒をこっそり飲んでいるはずなのだが秘密と言われているので言って良いものか悩むな。
そんな事をジャロが考えているとギルドの扉が勢いよく開いた。扉の先には頭から足まで銀の甲冑に身を包み、目以外何の情報も得られない男性が立っていたのである。その男性はこちらに近づいてやや大きめの声でこう言った。
「見張りは私が替わろう。どうやらマバロは私に用があるらしい。貴殿も長らく見張りをして疲れたに違いあるまい。今日は早めに帰って休むと宜しい」
「副隊長! お疲れ様です‼︎ 副隊長とは気づきませんでした。非番でおられるのにどうしてこんな場所へ?」
「オホン、そんな些末な事は気にしないが宜し。今はただ休め、ご苦労であった」
そう言われた男性はそそくさと帰って行った。見張りが早く終わったのが嬉しいのであろうかやや足取りが軽やかのように見えた。
「ふん、その暑苦しいフルフェイスは脱いだらどうなんだ?」
マバロにそう言われるとウィーノはフルフェイスを徐に脱ぎ始めた。アグエラの店では暗くて分かり辛かったが少しウィーノは赤い顔をしていた。その顔を見てやはりなとにやりと笑ってマバロはさらに続けた。
「せっかくの非番に酒も楽しめずにすまねぇな。呑んでいるだろうと思っていたが緊急事態なもんで呼ばせてもらった」
「構わん、私はその手紙の内容も知っている。お前なら私を呼ぶだろうと言う事は予想が容易い」
「良いね、相変わらず話が早えや。……おい、そこのコマンダー。俺の目が衰えてなけりゃそこそこに腕は確かだな? ちょっとガウロ霊園まである事を確かめに行ってくれ」
ウィーノは酒を呑んだことを隠すためフルフェイスの甲冑を良く使います。普段もフルフェイスなので違和感はさほどないようです。
実はウィーノとマバロは旧知の間柄でしてウィーノが酒好きなのもマバロは良く知っています。どうやらジャロはガウロ霊園という所に向かうようですね。一体何をしに行くんでしょうか。