第二百十四話 クロンの弟子
読んでくださりありがとうございます。これでアグエラさんにクロンの弟子について聞けますね。一体どういう話なんでしょうか。
「スピノさんの息子が今傭兵訓練所のオーナーをしていてな。その人から依頼されてオレらはここに来たのさ」
グリオのその言葉にアグエラは少し考えを巡らせた。何を考えているのかジャロにはさっぱり分からなかったが、少なくとも自分たちにとって良からぬ事を考えているとは思えなかった。
「……息子と言いますと、スートの事ですかな。なるほど、今あの子が傭兵を育てているのは中々感慨深いですな。ちょっと失礼、アロマさん。少し上の店に出ていてもらえますか。すぐに戻るつもりで喫茶店を開けたままでしたね」
「あ、はい。すぐ戻ります」
確かにアグエラは喫茶店をそのままにここに来ていた。マスターの居ない喫茶店では変に怪しまれる可能性があるのですぐ戻る必要があるだろう。アロマが駆け足でジャロたちが降りてきた階段を登って行った。その後ろ姿を見届けてからアグエラは徐に口を開いた。
「……ところで、先程依頼と言われましたな。その前にあなた方の名前を伺いたい」
「おっと、自己紹介がまだだったか。俺がグリオ、傭兵だ。そしてコイツがジャロ、コマンダーだよ」
「なるほど、グリオ様にジャロ様ですね。それでは是非その依頼とやらをお聞かせ願えますかな?」
「単刀直入に聞く、クロンの弟子について教えてくれ」
グリオの言葉にアグエラの目の奥が鋭く光った。それは今まで微塵も見せていなかった表情でありその瞳にはかつての歴戦の証が感じられた。
「なるほど、クロンの弟子ですか。つまり魔導士の頃の話ですな。……しかしまだこの場所に他のお客様が居なくて良かったですね、レイテントの方がいれば十中八九連行されていたでしょう。……さて、どこから話をすれば宜しいか。そうですね、コマンダーであるジャロ様にひとつ質問をしましょうか。魔導士と聞いて何か知っておられることはありますかね?」
やべぇ、こっちに話が来るとは思わなかったぞ。グリオさんに任せれば欲しい情報が全部手に入るかと思ったけどやっぱり僕も何かしら聞かないとダメだよね。ええと、魔導士って言ったか? 魔導士……知らないなぁ、魔導書ならともかく。
「魔導士……。魔導書ならありますが魔導士は全く聞いたことが無いです」
「ではそこからですね。まず魔導士というのは今で言うコマンダーの事です。魔のものを導く者で魔導士と呼ばれていました。しかし魔導士で有名な人がある大きな問題を起こしたためその名前は使えなくなったのです。ですから今は同じ人たちのことをコマンダーと呼ぶようになりました」
「大きな問題……と言いますと?」
ジャロがアグエラに尋ねると隣にいたグリオがいきなり口を開いた。
「それはオレが答えよう。かつて火の国ヴォルカパルスの近くにはもう一つ国があった。今はただの廃墟と化しているがな。その国で魔導士のある男が……確かそいつの名前がクロン……だったかな。まあとにかくそいつが魔導の実験に失敗して魔力が制御出来ずに国中に魔力が溢れてその国は大型モンスターの巣窟になったんだ」
……あれ? なんでグリオが答えているんだ……? という疑問はさておきグリオは結構詳しく知っているようですね。まあ少しあやふやではありますが。
ちなみにこのゲームではまりょくという言葉の表記がひらがな表記であるのは漢字表記だった魔導士の時代を嫌ったためという背景があります。