第二百十三話 喫茶店は酒場にもなる
読んでくださりありがとうございます。グリオは何か気づいてそうな口振りでしたが……。
「は? グリオさん先程教えられないって言われたのに何でもう1回聞いてるんですか」
「ふふ、気づいていらっしゃるのに人が悪いですな。ついて来て下さい。地下へ案内いたしましょう」
男性はカウンターの中から出てくるとそのまま奥の部屋に向かって行った。2人が後を追いかけると男性用トイレと書かれた部屋が現れたのである。地下に案内されるとばかり思っていたジャロは思わず男性に問いかけた。
「あれ? 僕らは別にトイレに行きたい訳じゃないですよ?」
「ええ、存じておりますとも。そもそも当店の一階にはトイレはございません。ですからこの扉の先はこのようになっております」
「……やっぱりな、入った時から酒の良い匂いがしてたんだよ。オレは勿論珈琲も好きだがそれ以上に酒に目がなくてね」
男性が扉を開けるとそこにはトイレ……ではなく、地下へ降りる階段があったのである。まさに秘密の空間と言うべきか、その階段を降りるとまさしくそこには落ち着いた雰囲気の酒場が広がっていたのである。そしてカウンター席には煙草を吸いながら新聞を読む男性が1人座っていた。彼はグリオの声に気づくと慌てて煙草の火を消し立ち上がった。
「お、オーナー。まだ営業時間じゃないので寛いでおりました。すみません」
「ええ、構いませんよ。営業時間以外ならここで寛いで良いと言ったのは私ですから」
煙草を吸って寛いでいた彼に微笑みながらそう声をかけると男性はジャロたちの方へ振り返った。
「いつもなら一度目に来られるお客様にこの場所は紹介しておりませんが、今回は特別といたしましょう。申し遅れました私この場所で酒場を営んでおりますアグエラと申します。そして彼はここの従業員であるアロマです」
へぇ、特別に招待して貰えたって事か。それにしても見破ったグリオさんすげぇな。別の匂いがするとまでは思ったけど酒の匂いだとは思わなかったな。……あれ? この人アグエラって名乗った?
「えと、……すみません。もう一度お名前を聞かせて貰えませんか?」
「アグエラと申します。……どうされましたか?」
アグエラさんってこの人だったのか。すごい偶然だな、偶々立ち寄った店が酒場でしかも探している人に出会えるなんて。
「そうかあんたがアグエラさんか。ま、とりあえず飲みながらちょっとある話を聞いてもらえないか?」
「おや私に何か用があるのですか。珍しいですな、表舞台から退いて随分と経つんですがね」
「オレたちはスピノ・アニュラスって人の知り合いを探していたんだよ。勿論アグエラさんは知ってるよな?」
アグエラは少し驚いたのか少し目を見開くと懐かしそうに目を細めた。どうやらこの人物が探していたアグエラに違いないとジャロたちは確信が持てた。
「懐かしい名前ですな。かつてバディを組んでいた相方ですよ。これでも昔は腕利きの傭兵をしてましてね。でも彼は数年前に亡くなった故人のはずです。……彼の知り合いを探すとは一体どういう了見ですかな?」
なんと喫茶店の地下で酒場が営まれておりしかもそのオーナーが探していたアグエラさんでした。そういうために酒場を探していたんではないんですが結果オーライのラッキーパンチ。お見事です。