第百二十四話 スート・アニュラスという男
読んでくださりありがとうございます。ジャロは一体どんな建物に間違えて入ったのでしょうか。そして若様と呼ばれた男の正体は一体何なのでしょうか。
「……えと、それでは少し失礼します」
「……」
おずおずとジャロは差し出された席に座ったが、誰も言葉を発さない重い雰囲気が立ちこめるばかりで許されるならジャロは早くこの場を出ていってしまいたかった。
「……さて、黙ってばかりでも仕方ないね。ここに来るということはアムニスヴェーレに来て間もないかと思うんだけど、どうだろう? ひとまず君について教えてくれるかな?」
そう言うと若様と呼ばれた若い男がジャロの方を向いた。正直早くこの場を逃げ出したかったが嘘でごまかすと後で厄介なのは明白だろう。ジャロは普通に自己紹介することにした。
「……、コマンダーをしていますジャロと申します。クエストでこの国に来ました」
「……そしてここに間違えて来たと。あぁ、すまない。こちらの自己紹介もまだだったね。僕の名前はスート・アニュラスと言う。まあ気軽にスートと呼んでくれたまへ」
「……わかりましたスート様ですね」
若様と呼ばれていたため恐らくかなり上の位の人だと当たりをつけたジャロはスートを様付けで呼ぶことにした。しかしスートはそうは思ってはいなかった。
「何度言ってもコイツらが若様と言うのが直らなくてね。別に高貴な身分でもないから様なんていらないよ。なんならさん付けもいらないさ」
そう言うとスートはニコニコしている。口元では笑っているようだか閉じられた瞳の奥が笑っているのかは読み取れず、ジャロは困惑していた。
「ええと、わかりました。……いや、でもせめてさんは付けさせてくれませんか?」
「いいや、ダメだ。なぜ僕が良いと言っているのに君が拒むんだい?」
「……若様。ジャロ様が困っておいでです。ひとまずさん付けで通されてはいかがですか?」
スートが呼び捨てされるまでこだわる気配を見せたため右側の強面の男がスートを嗜めた。スートは不承不承ながらも一応納得したようだ。
「そもそも君らが僕を若様と呼ぶのがいけないんだけどね。さて、僕らの仕事の話をしようか。ジャロ、ちょっとついてきてよ」
そう言うとスートは建物の奥についてくるようジャロに促した。ついていきたくないのが本音であるが最早ジャロには流れに身を任せる以外にとるべき行動は無かった。
スートに促され建物の地下に下って別の建物へとたどり着いたジャロは先程とは打って変わったまぶしさに思わず手で顔を覆うほどであった。着いた先では広い空間で剣や弓で汗を流す多くの人々で賑わっていたのである。
「はは、ちょっと眩しかったかな? 僕らはここで訓練場を営んでいるのさ」
「訓練場……ですか?」
「そう、そして訓練で培った経験をクエストで活かすのさ。改めて自己紹介しよう。僕はこの傭兵訓練場カードのオーナーであり傭兵を各地に派遣している責任者のスート・アニュラスだ。以後よろしく頼むぜ」
スートは傭兵を訓練して派遣している人物と判明しました。ギルド自体は訓練も担ってはいないですが傭兵にはこうしたシステムがあるようですね。またこうした訓練場は他にも複数あるようです。悪い人物ではないようですがどうでしょうか。