第百五話 お嬢様はニセモノ
読んでくださりありがとうございます。ダリアはアムニスヴェーレ第三王女です。ですから幼くても気品に満ち溢れています。
「そうです。見てもらえば分かりますよ。私が今着けているのが本物ですよ」
「えぇ、本物かどうかは見れば分かりますとも。そしてあなたもご存知かとは思いますが、お嬢様は王殿で大変厳しく礼儀作法を教われました。ですからお嬢様のお姿は誰が見ても気品があると皆さま方より評判でございます」
アリエテは咳払いをすると話を続けた。
「ですが、先程から……いえ、謎の事故で馬車から投げ出された時から、あなたの言動は礼儀、作法ともに実に汚らしい。お嬢様が事故で錯乱されてるのではと考えておりましたが、どうやら違うようですな」
そう言うとアリエテは短刀をダリア……いやダリアだった人に向けた。
「あなたは誰です? お嬢様をどこへ?」
「……催眠にゃ自信があったんだがな。流石にお嬢様にっていうのはボロが出ちまったか」
声質がいきなり変わったかと思うとその人はダリアから別の人間に姿を変えた。ダリアとは似ても似つかぬ屈強な男がそこには現れていた。
「俺の名はマルコ。訳あってお前らを催眠して時間を稼がせてもらったよ。今頃俺の部下がお前らの大事なお嬢様で取引しているはずだ。もちろん王殿にな」
このように喋る男には全く馴染みがなかったが、マルコという名はジャロには馴染みがある。そう傭兵のうちの1人がマルコという名であったはずである。
「マルコ……。! 傭兵の中にいたアイツか⁉︎」
「ほう。俺の名前を覚えているとはな。馬車では世話になったな。そうだな、そんなお前らには特別に教えてやろう。謎の事故ってお前らは言っていたけどな、あれは人為的な事故だ。バカでかい蛇に馬車の下の座標からカチ上げて起こしたんだよ」
そういうと地響きが鳴り響いたかと思うと大きなうわばみが大口を開けながら現れた。しかしうわばみはどうやら襲ってくる気配がないようである。
「それじゃあ俺は逃げさせてもらうぜ。言っておくがコイツのスピードは折り紙付きだぜ? 追って来れるなら追ってきな。あばよ」
そう言うと彼はうわばみの大口に入っていったかと思うとうわばみは口を閉じて再び砂の中へ潜っていった。アリエテはなぜかこの男を追いはしなかった。むしろ追いかけようとしていたジャロを止めたのである。
「追わなくていいんですか?」
「ジャロ様追うよりも先にやらねばならぬことがございます。それにあの男は部下が王宮と取引をしているはずだと言っていたでしょう。であれば取引場所の場所を取り押さえる方が追いかけるより遥かに効率的です」
アリエテはあくまでも冷静であった。しかしジャロはだからと言って気がかりではあった。
「しかしその場所がわからないのであれば何も意味は無いですよ。追いかけた方が良いのでは?」
「大丈夫です、場所なら私に心当たりがあります。まずは人手を集めましょうか。まだどこかにテスタがいるはずです。探しましょう、人手は多ければ多いほど良いですから」
お嬢様はニセモノでした。催眠の使い手ということでどうやら自身の姿をダリアに見せていたということらしいです。実におっかない能力ですね。さてテスタさんは今何をしているんでしょうかね。