近未来十二支
西暦3000年、人類は遂に滅亡した。
長きにわたり君臨してきた人類がいなくなったことにより、世界は無秩序で混沌としたものとなった。
見かねた世界の神が、動物たちに号令をかけた。
「我のもとへ早く着いた者から、一年交代で世界の支配者となるように。先着十二匹とする。」
交代制にしたのは、人間のように傲り高ぶる動物が出ないようにという配慮からである。こうして、数千年前に神に呼ばれた動物たちが、再び神のもとへ集うこととなった。
犬は、飼い主である人間がいなくなり、一気に没落した。犬は支配者である人間の相棒となり非常に豊かな生活を手に入れていたが、人間がいなくなった途端、定刻に出てくる飯も、病気を防ぐワクチンも、寒さをしのぐ暖かい部屋も、なにもかも失うこととなった。恵まれた生活が長く脆弱になってしまったため、今さら野生には戻れない。多くの犬が、飢えや病気で死んでいった。
猿は、人間に次ぐ知能を持つ動物として、支配者の座に最も近いと予想されていた。頭脳を使い、道具を使い、直立歩行をする。あと少し進化すれば、人間同様に文明社会を作り上げることができるだろう。犬猿の仲と言われるほどのライバル・犬は、衰退の一途を辿っており、もはや敵ではない。
しかし、予想に反して、猿はそうならなかった。猿は知能は高いが、あくまで人間ほどの知能が持てなかった動物である。人間が滅亡したからといって、進化するわけでもない。また進化したところで人間と同じ道を歩み、同じ過ちを犯し、滅亡していくだろう。猿は、猿のままだった。
竜は、もともと数が少なかったこともあり、世界からほぼいなくなってしまった。誰も入れないような遥か山奥に、僅かに生息してはいるものの、次なる支配者になる意思はない。あくまで伝説の動物として、名を残すつもりなのである。
竜の代わりに姿を表したのが蛇である。数千年前の十二支では、竜に敬意を表して到着の順を譲ったが、竜が山奥から出てこない今、チャンスは自らにある。手足こそないものの、狡猾で獰猛な彼は、王者となる素質を備えていた。
繊細な草食系であるうさぎと羊は、参戦することを拒んだ。肉食系と戦って勝てるとは思えない。ペットや家畜として世話してくれる人間がいない今、彼らに残された道はは無秩序な世界で息を潜めて生きることだけである。競争に勝ったところで特に良いことがあるわけでもない。うさぎと羊は、草食系現実派であった。
同じく草食系の牛と馬は、逆に参戦する意思を見せた。今まで人間に家畜として扱われてきたが、自由の身となった今、気合いは十分である。うさぎや羊より身体が大きいため、危険も少ない。
特に牛は、先の競争の折に一番になるはずだったにも関わらず、小賢しいネズミのせいで二番になってしまった苦い思いを晴らすべく、息巻いていた。牛は歩みが遅いため、今回も前日から歩き始めることとした。馬は、競走馬として人間に鍛えられてきたため、走りには非常に自信があった。
肉食獣の代表とも言える虎は、自分が最も支配者にふさわしいだろうと考えていた。人間の時代には、動物園の人気者として晒されるという屈辱的な目にあったが、彼らがいない今、恐れるものは何もない。唯一敵わなさそうな竜も、山奥に引っ込んでいる。今年こそ優勝やで、と息巻いた。
猪突猛進をモットーとする猪は、先の十二支の競争で一番に到着したものの、勢いでそのまま走り抜けてしまい、Uターンして戻った時には十二番目になってしまっていた。勢いばかりでおつむが弱いと馬鹿にされてきた猪は、今度こそはと息巻いていた。
人間がいなくなって爆発的に数が増えたのは、ネズミと鳥のような小動物である。駆除する者もおらず、エサもたくさんある。小さい体でどんどん勢力を拡大していった。
鳥は、先の十二支の競争では犬と猿の喧嘩の仲裁をしていたため、到着が遅くなった。今回、犬も猿もたいした敵ではない。竜のいない今、空路が使えるのは鳥だけである。空からライバルたちを見下ろしつつ、神のもとへ向かうつもりだ。
ネズミは、前回猫を騙し牛に乗るという小賢しい方法で一番になったため、周囲から恨みを買ったが、小さな体で勝ち残るためにはある程度のズルはやむを得ない、と割りきっていた。しかし今回、猫から怨みのこもった激しい攻撃を受けることが予想されており、それをくぐり抜けながらどのように競争に勝つか、思案していた。
こうして、それぞれの動物の動向があらかた決まり、世界は新年を迎えようとしていた。
競争者たち 虎、ネズミ、猪、牛、馬、猿、蛇、鳥
競争辞退 羊、うさぎ、竜
競争どころではない 犬
必ずやネズミを取って食う 猫
動物たちは雄叫びを上げ、臨戦体制となった。
「さて、今回は誰が一番にやってくるかの」
神はこたつに入ってみかんをむきながら、高みの見物モードに入った。誰が勝者になったかは、まだ誰も知らない。