白衣の女
健太郎がハブられた小林花音入学祝いの夕食を堪能した
「木戸、175cm」
一年に一回律義にこなしてきた身体測定。小、中学校の頃は身長がグングン伸びていたため測るときはとてもワクワクしていたものだったが、ここ数年はその伸びも収まってきたので特に考えることもなくただ消化するだけのイベントとなった
「コウちゃん!遂に大台の180cmだ!」
女子を除くと出席番号の連なる健太郎が俺に続いて計測されるので保健室から出てきてすぐに俺のもとへ駆けてきた
「マジかよケンちゃん、去年の今頃は俺より低かったはずなのに」
「もうチビなんて言われることもないだろ!」
現在の彼からは想像もつかないが俺が初めて会った時の身長は俺よりもずっと低く、何ならクラスの中でも1、2を争うレベルの低さだった。それからは急成長を始め、去年の夏休み前ぐらいに俺の身長を抜いたことは小林家の中で相当な衝撃的ニュースとなっていた
「コウちゃんもまだ可能性があるんじゃないか?」
「流石にもう成長止まってると思うけどな」
身長が低かった当時の彼にとっては相当なコンプレックスだったようだが今の姿からは見る影もない
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その日の放課後
「じゃあ部活頑張れよ健太郎」
「そっちもバイト頑張れよ孝太郎」
昇降口で健太郎と別れた俺は今日も今日とてバイト向かおうとしていた。俺のバイト先は才城高校の最寄り駅とは逆方向にありその上地味に遠いので才城の生徒が来店することは滅多にない。あるとすれば小林家の面々だが、健太郎以外は神凪のことを認知していないしその健太郎は部活で自由な時間が少なくこれまた滅多に来店しない
つまり何が言いたいかというと健太郎を筆頭とした学校の人達に俺と神凪が同じ所で働いていることはまずバレないと考えている。自分がボロ出したら元も子もないので油断は禁物だが
そんな風に改めて自分のバイト先に神凪が来たことを噛み締めつつ、俺は胸を高鳴らせて歩いていた
そう、何を隠そう今日は彼女とシフトが重なる日。ここ最近は彼女との接し方を色々と案じていたが、特別な関係になれずとも一緒に働けるだけでも十分幸せなのではと思うようになってきた
prrrrrrrrrrr
作業服姿も可愛いんだよな~とか、どうにかして2ショット撮りたいなぁ~とか妄想に耽っていると不意に俺の携帯の着信音が鳴った。相手は店長だ
「もしもし、木戸ですが」
「今急いでいるから要件だけまとめて言うからよく聞いてくれ」
「なんでしょう?」
「今日は上の奴らが店回すことになってたんだよ」
「つまり?」
「今日来なくていいぞ」
「なんて横暴な…シフト組む時確認しなかったんですか?」
「うるさい!今は私への文句を一切受け付けないからな」
「理不尽ですね…神凪には連絡したんですか?」
「したした!他なんかある?」
「あ、もういいです。よくわかんないけど頑張ってください」
そう言って俺から電話を切った
クソッ!楽しみにしてたのに!
さっきまでの高揚感は明後日の方向へ飛んでいき、俺はただその場に立ち尽くしていた。
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いきなり現れた店長という嵐が俺の予定を吹き飛ばしたため俺はかねてから行き損ねていた公立図書館へと足を運んだ
今の時代図書館に通うなんて人はほとんどいないだろう。何故なら図書館で堅苦しい本を借りるより書店で漫画買ったほうが断然面白いからだ。それでも敢えて俺は健太郎の友達が薦めるという図書館を訪れた
そんなわけで今その図書館の入り口にいるのだがそこはやけに静かだった。まるで人一人いないのでは、もしかしたら休館日なのではと思わせるような雰囲気だが看板に載っていた定休日を調べたところ今日はちゃんと空いているらしい
俺は恐る恐る中へ入る。中の様子としてはこれまた静寂、ただ本棚にある本はこれでもかと整頓されている。また床、本を読むためのカウンター、本棚のどこを見ても塵一つないところがかえって不気味なのであった
「すいませーん。誰かいませんか~」
俺は「貸出」と書かれた札のかかった机に向かって司書でもいないかと呼びかけた
するとその机の奥にある扉がガチャリと音を立てて開いた
「おやおや、ようやく来たのかね」
現れたのは図書館で何故なのか白衣を纏った女性だった。これは聞いてよいのだろうか。俺が訝しんでいると彼女が口を開いた
「ようこそ木戸孝太郎君、待ちわびたよ」
この女、初対面の一言二言だけで色々ぶっこんできた。多くの疑問符が生まれるがまずなによりも…
「なんで俺の名前を知っている?」
「名前だけじゃないさ。才城高校2年生、サッカー部をこの前退部し両親は仕事上の都合で引っ越したので一人暮らしを余儀なくされた苦学生」
突如として現れた謎の白衣の女性はこれまた突如として俺の素性を淡々と喋っていった。ここまで知っているとなると何となく想像がついてはいたが俺のトップシークレットもこの時点で既に暴かれていたのである
「そして同級生である神凪志帆のことが好きである、そうだろう?」