小林家の団欒?
日曜日の夜に花音から高級牛が届くので一緒に食べようと招待され、バイト先の新しい従業員として神凪が加わった
ケンちゃんこと小林健太郎とは中学一年生からの付き合いである。当時から親友として行動を共にし、数えきれないくらい遊んだ
小林一家には俺の家庭の事情も知れ渡っており、一人暮らしは寂しいだろうとたまに誘ってもらって夕食を一緒に食べるようになった
今日健太郎がハブられているのは花音の暴走だろう。ああ可哀そうに
ピーンポーン
「はーい」
「木戸です」
「お兄ちゃん‼︎ 待ってて」
するとドアの奥からドタドタと音が聞こえ、花音によってそのドアが開かれた
「こんばんは、今日はご馳走になります」
「良いってことよ。上がって上がって」
すっかりご機嫌な花音が迎え入れてくれてリビングまで行くと、肉の焼けるいい匂いがしてきた。
「座って待ってて、今お父さん呼んでくるから」
「分かったから一旦落ち着いて」
「はーい」
そうは言ったものの彼女は落ち着く筈もなくこれまたドタドタと階段を登って行った
俺はそれを見送りキッチンへと向かう
「ご無沙汰してます、涼子さん」
「あらいらっしゃい。また身長大きくなったんじゃない?」
「そうですね、身体測定明日なので楽しみですよ」
「そうなの?健太郎もコウちゃんを見習って欲しいねぇ」
「えっと…別にケンちゃんも俺と対して身長変わんないんだけど…」
「コウちゃんは全然違うわよ‼︎勉強もできるし運動もできるし顔だって断然コウちゃんの方がいいもの」
「あ、ありがとうございます」
彼女の言い方は大袈裟だが、自分で言うのも難だが勉強と運動は割とできる方だと思う。自分の顔の良し悪しについてはよくわからない
健太郎に関してこの学力、運動、容姿の3項目を当て嵌めるなら、まず学力は平均以下かもしれない。ただそれは偏差値高めな才城高校内での話であり全国平均は上回ると思う。そして運動はずば抜けており野球部ではピッチャーとしてチームを引っ張っているし、彼が体育祭ではっちゃけるのは中学でも見てきたし高校でもそうだった。最後に容姿だが友達贔屓をする訳ではないがかなりいいと思っている。ただ野球部の伝統よろしく坊主頭なのがいただけないといったところである。根っからの野球馬鹿な健太郎の髪が今後伸びる時が来るのかは今のところ不明である
「何か手伝うことはありますか?」
「うーん…じゃあそこにあるポテトサラダ盛り付けておいてくれる?」
「分かりました」
同級生の親という間柄にしてはかなり親しい仲でお互いいい意味で遠慮はない
涼子さんは面倒見も良いし、何を隠そうバイトを探していた時店長を紹介してくれたのが彼女だったりする。他にもなにかと助けてもらっているので俺にとっては頭が上がらない存在だ
暫く作業に没頭していると花音とその父親が2階から降りてきた
「お父さん連れてきたよ」
「ありがとう花音、もうすぐできるから机の上片付けておいて」
「お兄ちゃんのお手伝いしたい‼︎」
「花音料理はからっきしでしょ、みそ汁作れるならこっち来てもいいわよ」
「テーブルの上片付けてくる!」
即答してリビングにかけていった
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「「「「乾杯」」」」
見た目からして明らかに美味しそうなステーキが4人前。大人はこれまた高そうなワイン、子供はオレンジジュースと随分豪華な晩餐となった。
なんでも今日は花音の入学祝いとしてこのような夕食と相成ったらしい
「美味しいかい孝太郎君」
「はい、普段こんなもの食べるような余裕はないので尚更ですよ」
「そう言ってもらえると私も嬉しいわ」
「無事お兄ちゃんと同じ高校に入学できたんだし今度久しぶりに遊びに行こうよ」
「まぁ俺は空けようと思えば基本的に休みを取れるが花音は部活で厳しいんじゃないか」
「1日くらい大丈夫だって、仮病でなんとか誤魔化せb…」
「花音」
低く、冷たい声で母親から名前を呼ばれている花音の様子は正に蛇に睨まれたカエルだった
「えっと…遊べる日があったら連絡するね」
「お、おう」
終始涼子さんの顔は微笑んでいたが目が笑ってなかった。普段温厚な分、店長より怖いといっても過言ではない
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その後高校での生活だったり流行りのアイドルの話とかで盛り上がりつつ夕食を終えた
「ごちそうさまでした、皿洗い手伝いましょうか?」
「大丈夫よ、客人はゆっくりしてなさい」
「皿洗いなら私も出来るよ‼︎」
「そう言ってこの前盛大にお皿を割ったばかりじゃない。やるならお風呂掃除でもしなさい」
「えーやりたくない」
「花音」
「直ちに行ってきます‼︎」
そう言ってまたドタドタ音を立てながら走っていった
「全く、将来が思いやられますね」
「まぁまぁあれも花音の取り柄の一つですから。あとケンちゃんの分のお肉って」
「大丈夫ですよ、ちゃんととってあります」
「すいません…いやありがとうございますと言うべきですかね」
「それはこちらの台詞よ」
涼子さんはさっきの恐ろしい顔の持ち主とは思えないほど柔和な笑顔でそう言ってキッチンへ向かった
残されたのは俺と小林家の大黒柱である小林健司、健太郎や花音のお父さんである。
がっちりした肉体で貫録のある顔であるため流石に少し緊張するけど俺に色々と気を遣ってくれる優しい人だ
「孝太郎君、いつもありがとう」
「えっと、藪から棒にどうして」
「いつも健太郎、花音と仲良くしてもらってだ。本当に感謝してる」
「大袈裟ですよ、俺に友達が2人しかいないだけです」
「そうだとしてもだ。何か困ったことがあれば相談にも乗ろう」
「ありがとうございます、頼もしいです」
最近の悩み事と言えばバイト先に神凪が新人として来たことだがそんな相談は流石に出来なかった
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「お風呂までありがとうございます」
「どういたしまして。またいらっしゃい」
「私が洗ったお風呂どうだった?」
「凄く気持ち良かったよ」
「やったー‼︎」
「ま、コウちゃんはうちのお風呂を褒めたのであって花音を褒めた訳じゃないけどな」
花音は手放しに喜んでいた所に野球部新入歓迎会を終えて帰ってきた健太郎がそう言い放った
「なんてこと言うんだばか兄‼︎」
「俺は事実を言っただけだ‼︎」
健太郎と花音はあーだこーだと言い合いを始めた
「じゃ、じゃあ涼子さんまた今度」
「えぇまた今度」
二人の後ろに控える涼子さんの目にデジャヴを感じ、怖すぎて早めに退散することにした