真夏日の練習
不意に展開された神凪との相合傘。二人は必然的に密着する中、孝太郎は昨年の夏合宿のことを思い出す。
合宿初日の練習中。俺は早くも後悔していた
真夏のサッカー合宿がどれだけ過酷かなんて流石にわかっちゃいたけれど。想像を遥かに超える暑さの中で行われる激しい運動で、自身の汗が気持ち悪くて仕方ない
しかし、両親を頼らない強がりな姿勢が原因で、生活するのがやっとな資金繰りから捻出したお金で来た合宿を無駄にしたく無いという精神で初日の練習はなんとか乗り切った
練習後の夕食の時間。一日中みんなに声を掛けていた凩先輩がようやく俺の元にやってきた
「今日はよく頑張ったな」
「えぇ、それはもう。こんなにご飯食べたのは久しぶりですよ」
まぁ普段は食費にも気を遣っているというのもある
「今は食べ盛りだからな。我々は相撲部ってわけじゃ無いが、食べれるだけ食べた方が身体的にもサッカー的にも成長すること間違いなしだぞ」
「先輩が言うとかなり説得力がありますね」
何せ1人だけアメフト部かってぐらいのガタイしている。けれどその物腰は柔らかく、面倒見が良い。何せ、部内で孤立している俺に声をかけてくるのは凩先輩ぐらいだ
直接的に態度や言葉で示した訳ではないが、俺は凩先輩を尊敬していた
2日目。変わらず練習は地獄の様相を呈していた。そもそもの話、いつも練習に参加しているメンバーに比べて、明らかに体力の劣る俺が同じメニューをこなすというのもおかしな話だった
それでもバイトの激務に比べれば、普段よりも食事と睡眠は多くとれているからと気持ちを奮い立たせて練習についていった。が、体は正直だった。1日目からの疲労も祟り、俺は練習中に倒れてしまった
そのとき、すぐに駆けつけてくれたのは凩先輩だった
「大丈夫か!?信じられないほど体が熱くなっているぞ!!無理しすぎだ」
その後、日陰に引っ張られた俺は水分を補給すると大分楽になり、大事には至らなかった。
「合宿を薦めた私にも責任の一端はある。動きに鈍りを感じないから問題ないと思っていたが、君の体がこんな状態になっているだなんて」
俺が倒れたらすぐに助けに入ってくれたこと、俺が倒れたことに責任を感じていること、常に俺の体調には気を遣っていたこと。この一言だけで先輩の人間性が伺えた
「お手を煩わせてすいません」
「気にするな。もう今日は先に休みたまえ」
「そうさせていただきます」
結局俺は練習を途中で抜けることになった。一人で歩いていて、ふと俺は何のためにこの合宿に来たのかと考える。サッカーにそこまでこだわりがあるわけではなく、部内で親しいのは凩先輩ぐらいで、健康のための運動にしては過剰でしかない
そんな風に考えると俺が来た意味は虚無だった。でも不思議と俺は満たされていた。日々を学業と勤労で忙しなく送っていた俺は、大自然の中を散歩するだけで充足感を得ていた
俺が気持ちよく散歩していると外に設置された水道を使って何か作業している人影を見つけた。何を隠そう、そのときに出会ったのが神凪だった




