ある夏の思い出
梅雨時の雨が降りしきる中、傘を忘れた木戸は大きな傘を健太郎から借りることに。神凪は折り畳み傘を持参していたはずがその傘は壊れていた。
それはまるで謀ったかのようなタイミングで
神凪の持参してきた傘は壊れていた。それもただ壊れているのではないのである。八方に分かれた骨組みの内の一方が、切断されているのである
それが人為的に行われたことは火を見るより明らかで、且つ致命傷となっておりその傘が使い物にならないことを意味していた
「一応可能性の1つとして聞くけどさ。もしかして神凪って今イジメられてたりする?」
「いえ、そんなことはありませんが…」
確かに神凪は学校におけるあらゆるコミュニティから孤立している。上辺では所謂スクールカーストの高い響也と付き合っていることにもなっているのだが、不思議と周囲の人間から憎まれたり妬まれているような様子はない
神凪のハイスペック加減がそうさせるのか、以前に言っていた第六感の為せる術なのかはわからない。とにかくこのような嫌がらせされるイメージが湧かないのである
ましてや今朝から今この瞬間まで鞄の中にあったであろう折り畳み傘を、神凪はもちろん学校の全ての人間に気付かれずに取出し、その上この頑強な骨組みを切断するのにはさみなんかでは到底力不足である
つまり普段学校に持ち込むことの無いであろう工具まで準備していることになる。あまりにも用意周到でそれほどまでに深い動機が伺えそうなものだが、それが一切見当たらない。謎は深まるばかりである
まぁ響也との関係については表立った行動が見られないというだけで、全く遺恨が残っていないとも言い切れない。寧ろその線から来る嫌がらせぐらいしか俺は思いつかない
「困ったなぁ。俺がちゃんと傘持ってきてれば良かったんだが」
「その傘に2人で入りましょう。かなり大きいようですし」
「え?」
待て待て待て待て!なんかしれっと相合傘の提案されたんだが!
いやしたよ?そりゃしたさこの一つの傘に神凪と一緒に入る想像を。でも現実的に考えてやばすぎるじゃん?仮にも彼氏持ちの女性とそんな行動に走るなんてさ?
しかしながら、俺の考える心配など微塵も気にしていないと言わんばかりに、まっすぐとその眼をこちらに向けるのがこの神凪という人間の為人を表していた
俺は葛藤した。今まで波風立たせずに築いてきた神凪との関係をこんな形で露呈させて良いのかと。流石のブランコでもフォローしきれないのではと
しかし、神凪の言質が取れているという大義名分があるという悪魔の甘言が脳裏で囁き、俺の理性は容易く瓦解した
「そうするしかないか」
あまりにも強引に選択肢を狭めた俺は自身のIQが猛烈に下がっていることを感じつつも、神凪と二人で駅への歩みを進め始めた
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相合傘を始めて数分後。俺はあまりにも近くにいる神凪からくる緊張と周囲の視線が気になる羞恥心と学校で噂になったらという恐怖とで思考がぐちゃぐちゃになっていた
対して神凪はといえば周囲の目などまるで気にしていないようだし、なんならなんの躊躇もなく俺に密着してくるではありませんか。これは俺を信用してのことなのか、それとも俺以外の場合でもこんな風に密着するのか。判断が難しく後者の可能性が十分あり得るのが悲しい所である
そんな肝が太いとも鈍感ともとれる神凪を見て俺は懐かしい感覚を覚えた。今思えば俺はあのとき神凪に恋したんだ
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それはセミがミンミンとけたたましく鳴く時分のこと
俺と神凪、というより才城高校サッカー部は合宿を行っていた
学校から4時間ほどバスに揺られて、辿り着いたのはあまりにも雄大な自然に囲まれた集団宿泊施設だった。サッカーコートも校庭なんて比にならないぐらいに広大で、練習の質がガラッと変わりいい経験を積めたと個人的に思っている
合宿への参加は結構悩んでいた。なんとかアルバイト、部活、学業というハードスケジュールに慣れて資金繰りも安定しつつあった俺だが、合宿となれば決して安くはない費用が掛かる
仕送りの件も含めてお金の相談に抵抗があった俺はその時も強情で、親に頼ることを躊躇った
悩んでいた俺のもとに一人の先輩が話しかけてきた
「孝太郎は合宿に来ないのか?」
その先輩の名は凩 幻冬。一つ上の先輩でチームのセンターディフェンスを務める守備の要。大きな体躯を活かしたプレーが持ち味で頼りがいがある…と俺は思っていたのだが、他の部員からの印象はあまりよくないようだった
誰とでも分け隔てなく話しかけるのが彼の性格で、部活への出席が少なくて孤立していた俺にも話しかけてくれる数少ない存在だった。しかし、その後輩へフランクに、それも男女問わずとなると『やかましい』と感じる人は少なくなかったと思う
「まだ迷っていて。体力的にも金銭的にも辛いものがあって」
「そうか。勿論無理強いするつもりはないがな。でも去年も参加した身としては是非来て欲しいな!合宿を機に急成長する人も多いぞ」
「凩先輩もその口ですか?」
「そうだな。かなり良い刺激になったと思うぞ」
「そうですか」
その頃の俺はといえばまるで成長の兆しが見えない状態にあった。練習量が足りないのもあったが、正直軽い運動程度にと、そこまで本気で取り組もうとも考えていなかったのである
そんな最中に先輩からの合宿の薦めに興味を持って俺は合宿への参加を決めた。神凪への印象はと言えば女子マネージャーの内の一人という認識でしかなかった。その時は、まだ




